#028: 境界線戦の揺らぎ
配信事故から少し経った、朝の光がカレンの部屋を優しく包んだ。
しかし彼女の目は重く、スマホを握る手も少し震えていた。
Fのトレンド欄はまだ「物置部屋(大嘘)」騒動で盛り上がっていて、リプライやDMが止まらない。
「まったく……寝不足だよ」とカレンは呟く。
リビングに降りると、美咲が朝食を作りながら微笑んだ。
「配信事故の騒ぎ、すごかったね。もう慣れた?」
カレンは苦笑いしつつ、「慣れ……は無理かな」と答えた。
「でも、美咲がいてくれるから助かるよ」と少しだけ心が軽くなるのを感じていた。
そのとき、スマホにリリス・レイからのDMが届く。
メッセージは長く、最初は冗談交じりで笑いを誘う内容だった。
『ね〜Roze、まだ騒いでるの見た? いや~最高に面白いけど、リアル感が強すぎてさ……(笑)』
しかし、すぐにトーンが変わる。
『でも、こういう噂って一度広がったら、取り返しがつかなくなる。自分のプライバシーは守らないと。気をつけてね。』
カレンは読みながら、軽く笑ったものの胸の奥が少しだけ痛んだ。
昼の配信の切り抜きコメント欄は賑やかだった。
「物置からの声って最高!」「美咲ちゃんのクールボイスに撃ち抜かれた!」と好意的な反応が多いが、同時に「彼女と同棲配信してくれ!」「もっと私生活見せてよ」と踏み込みすぎな書き込みも目立っていた。
カレンは苦笑しながら、コメントを見つめる。
隣で美咲は真剣な顔をしていた。
夕方、二人はカフェでお茶をしていた。
「ねぇカレン、もういっそ彼女ってことにしちゃえば?」
美咲は冗談めかして笑った。
カレンは戸惑いながらも微笑む。
「そんな簡単にいくならいいけど……」
美咲の顔が急に真剣になった。
「でもさ、本当に嫌なところまで踏み込まれたら傷つくよ? だから、ちゃんと線引きした方がいいよ」
その言葉に、カレンの胸は温かくなるのと同時に、どこか緊張が走った。
帰り道、カレンはスマホの通知をオフにして、ふと思い返す。
リリスの忠告。
美咲の本音。
ファンの期待と自分の守るべき場所。
「境界線って、曖昧で怖いけど……少し、暖かいものでもあるのかもしれない」
「彼女か、」
「ないでしょ!(笑)流石に大丈夫!」
——カレンは頭の中で無理矢理この事を解決させた。
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