#027: 暴走と余韻
配信事故から一晩。
カレン――いや、RozeBiteとしての自分は、朝からスマホを握りしめてため息をついていた。
Fのトレンド欄には、堂々とこう書かれている。
「RozeBite彼女バレ!?」「#美咲って誰」「物置部屋(大嘘)」
「……あー……やっぱりバズったか……」
寝起きの美咲はソファで雑誌をパラパラめくりながら、横目でカレンを見た。
「昨日の配信、マイク切り忘れ……あれ完全に世界に流れたよね?」
「流れた……っていうか、もう切り抜きが300本ぐらい上がってる……」
カレンはヴォイシンクの通知欄をスクロールする。
「"低めのクールボイスに心を撃ち抜かれた"ってコメントまで……」
「私、ただ『あれ?物置って言ってたよね』って言っただけなんだけど?」
「その一言が、火に油を注いだんだよ……!」
──配信サイトの切り抜き文化は恐ろしい。
特に「物置部屋(大嘘)事件」というタグまで付けられ、ファンは大喜びだ。
コメント欄も祭りのように騒がしい。
「物置に住みたい」
「あの声の人が彼女枠ってマジ?」
「物置の中からこんにちわ(意味深)」
そこへ、ストリームリンクの通知が鳴った。
リリス・レイからの通話だ。
「おっはよーカレン。いやー昨日は最高だったねえ~。
あれ、演技じゃないよね? 本物の生活感、マジのやつだよね?」
「やめて……ほんと……」
カレンは顔を覆う。
「いやー、切り抜きもう50本見たけどさ。美咲ちゃん?だっけ、あの子の声の破壊力やばいよ。
で、彼女枠ってことでいいんだよね?」
「ちっがうって……!」
「ふーん……まぁ、ファンはもう勝手にそう決めちゃ
ってるけど?」
──その軽口の裏で、リリスの声色が一瞬だけ真剣になる。
「……冗談はさておき、カレン。無理してないよね?
昨日の件で、変なアンチとか、運営から何か言われたりしてない?」
唐突な真面目なトーンに、カレンは返事に詰まる。
「……大丈夫。今のところは、ね」
「ならいいけどさ……まぁ何かあったら、私に言いなよ。
からかうのは得意だけど、味方になるのも得意だから」
通話を切ったあとも、カレンのFにはファンアートが投下され続ける。
美咲とRozeBiteがソファでくつろぐ絵、手をつないで歩く絵、果ては結婚式風イラストまで。
美咲はそれを横で見ながら、笑いを堪えきれないようだった。
「ねぇカレン。
これ……私、もう完全にネット上で君の“彼女”ってことになってるよ?」
「……なってるね……」
美咲はクスクス笑いながらも、ふと視線を落とす。
「……まぁ、半分は冗談で笑ってるけど、もう半分は……ね」
カレンはその言葉の意味を測りかねながら、美咲の笑顔を横目で見て、胸がざわついた。
──事故は、事故じゃなくなってきている。
ただのネタのはずなのに、ファンも、リリスも、そして自分も……少しずつ境界線を失いつつあった。
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