#026: バレた夜
配信が終わった瞬間、部屋の中は突然の静寂に包まれた。
画面の向こうから聞こえていた視聴者たちの声も、コメントの流れも、すべてが消えてしまったようだった。
ただパソコンのファンの微かな音だけが、現実に引き戻すかのように響く。
カレンは椅子に深く座り込み、息を吐いた。
隣にいる美咲は、まだ少し緊張した様子で立っていた。
「……ごめん、いきなり入ってきて。ドアが少し開いてたから……」
「いや、悪いのは私。マイク、また切り忘れちゃって……」
カレンは自分の頭を軽く押さえた。
今回のミスはただの失敗じゃない。視聴者にバレた“秘密”の一部が、美咲の声と一緒に流れてしまった。
スマホが震える。
通知欄を開くと、Fのタイムラインは秒刻みで更新されていた。
すでに、
#ローズバイトミュート忘れ
#カレンって誰?
#美咲さん登場!?
などのタグが拡散されている。
切り抜き動画も複数アップされ、再生回数は数万を超えていた。
「やばいよね?」
美咲の問いは静かだったが、その瞳の奥には動揺が見えた。
「……正直やばい。でも、まだ終わりじゃない」
カレンはわずかに笑みを浮かべ、スマホから目を離さずに言った。
その時、ストリームリンクの着信音が鳴った。
画面に映るのは「神田マネージャー」の名前。
美咲と視線を交わし、彼女は小さく頷いた。
「はい、カレンです」
電話口の神田は冷静な声で言った。
「配信、全部見ました。まずは落ち着いてください。対応は考えられますが、今回のことで美咲さんとの関係について質問が殺到しています。どう答えるか決めましょう」
カレンはそっと美咲を見る。
美咲は小さく口を動かし、「好きな方でいいよ」と伝えた。
「……友達です。そう言います」
「わかりました。公式からコメントを出します。あとは休んでください」
通話を切った後、カレンはため息をついた。
美咲はふっと笑って言った。
「“友達”か……いいね」
カレンも笑った。
「隠してたけど、バレてよかったかも」
「それならいいじゃん」
美咲の声は柔らかく、安心感を含んでいた。
「ずっと遠くからしか見てなかったけど、今日ちょっと近くで見られて嬉しかった」
その言葉がカレンの胸に温かく響いた。
秘密はもう壁じゃない。二人の距離は変わり始めていた――。
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