#002:事務所からの電話が鳴り止まない、
朝起きて、状況が飲み込めないままスマホを握りしめていた私。
脳が半分寝ている状態でも、通知の数と中身がただごとじゃないのは理解できた。
でも、まさか――。
「うそでしょ……? 本当にミュート、切れてなかったの……?」
ガチで冷や汗が出た。
癒し系で売ってきた一年。
英語がネイティブであることも、毒舌キャラな本性も、全部隠してきたのに。
どうしてよりによって、あの瞬間が全世界に流れたの。
状況を把握する前に、スマホが震えた。
通知ではなく、着信。
相手は――
事務所のマネージャー:神田さん。
「……うわ……やっば……」
しばらく出るか迷っていたけど、逃げてもどうにもならない。
震える手で通話ボタンを押す。
「……あ、あの、おはようございます……」
『――カレンちゃん、今どこ? 大丈夫? 昨日のストリーム……見た?』
開口一番、それだった。
優しい声だけど、テンションは明らかに“緊急事態モード”。
「……見ました。ミュート、切れてなかったみたいで……」
『切れてなかったね。ばっちり、“Re:Live”全体に流れてたよ』
うああああああああああああああ!!
やっぱり夢じゃなかった!!
『でも……ぶっちゃけ、バズってる。いや、跳ねすぎてて逆に笑ってるスタッフもいるくらい』
「……はい?」
『今、Re:Liveの人気急上昇1位。
切り抜きが“ヴォイシンク”で数百万再生超えてる。
“F”のトレンドもカレンちゃんの名前で埋まってるよ。
海外圏のファンからのコメント、すごい数』
「いや、待って待って待って!? え、怒られないんですか!?」
『うん、今のところ怒ってる人いない。むしろ“新しい企画?”って思われてるみたい』
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ……」
心の準備がまったく追いついていない。
怒られると思ってた。叱責か、最悪クビの覚悟もしてた。
なのに、まさかの大バズリ認定!?
『事務所としては、今後どうするかはカレンちゃん次第でいいってさ。
毒舌キャラを“新路線”にするのもアリだし、あくまで“事故”としてスルーして癒し系に戻してもいい。』
「いや……無理でしょ……あんなの、もう戻れない……」
『それもそうだよね〜(笑)』
いや、笑い事じゃないんだけど!?
「どうすればいいんですか、私……」
『でもさ、バズるってこういうことなんだと思う。
カレンちゃん、あのときの言葉、すごく“本音”って感じだった。そこが刺さったんだと思うよ』
本音……。
たしかに、あのときは素だった。
癒し系なんて無理して作ってたキャラだし、英語だって封印してた。
けど、あんなに気持ちよく話せたのは――初めてだったのかもしれない。
『ひとまず今夜、公式からコメント出すから、それに合わせて“F”にも一言お願いね』
「わかりました……」
通話を終えたあと、私はスマホをじっと見つめた。
バズった。
めちゃくちゃバズった。
でもその代わり――もう後戻りはできない。
これが、“世界一バズったミス”の代償。
さて、これからどうする、私――橘カレン(RozeBite)。