#018: 優しさと棘のあいだで
夜の配信部屋は静かだった。
わずかに点いたライトが、モニターに映る自分の姿をぼんやりと照らしている。
配信終了後、RozeBite――カレンはマイクの前から離れず、しばらく椅子に身を預けていた。
「……疲れた、けど、悪くなかったかな」
そう呟いてから、ふっと笑った。
癒しの声でリスナーを包み込む一方で、時折するどい一言を放つ“毒舌Roze”。
それは演技でも、迷いでもなく、カレンの「どちらも本当の自分」だった。
数時間前。久しぶりの夜配信。
画面が切り替わり、RozeBiteの姿が現れると、チャット欄が一気に動き始めた。
「Rozeちゃんだあああ!!」
「待ってた!」
「Today’s mood: Roze time!(今日の気分:ロゼタイム!)」
カレンは少しだけ照れながら、笑顔を作る。
「こんばんは。癒しとちょっとだけ刺激を届けに来たよ。……って、何それって顔してる?」
笑いながら、チャットの一言に鋭く返す。
「『どうせまた英語ばっかだろ』って、誰よ。今の聞き捨てならないからね?」
画面の向こうではリスナーが盛り上がり、英語のコメントも流れ始める。
「She's back and sassier than ever!(彼女が戻ってきた!前より毒舌になってる!)」
「I love this version of Roze!(このRoze最高!)」
「This is the best mix of chill and sass.(癒しと毒舌の最高のミックス!)」
彼女はその声の一つ一つを、少しずつ心に受け止めていた。
「癒しと毒舌、両立なんてムリだって思っていたんだと思っていたんだけど、」
配信後、ふとつぶやくカレン。
けれど、今日の反応は、そんな不安をすこしだけ和らげてくれた。
毒舌は、リスナーを突き放すためではなく、距離を縮めるための言葉。
癒しは、無理して作るものじゃなく、自分の中に自然にあるもの。
そのどちらも「RozeBite」なのだと、今なら言える。
StreamLinkの通知が鳴る。
Lilith_Rayと宵咲ネアからのメッセージだった。
【Lilith_Ray】:
「今のスタイル、いいじゃん。毒舌も癒しも使いこなすRoze様って感じ?」
【宵咲ネア】:
「さすがです……!あ、でも、あんまり無理しないでくださいねっ」
「……ありがとう、二人とも」
そう言って、カレンは画面を見つめながら静かに笑った。
これからも迷いはあるだろう。でも、それでも、自分の言葉で話していく。
毒舌で笑わせ、癒しで包む。
そのどちらも、カレンの“優しさ”のかたち。
次の配信タイトルを入力する指が止まる。
「次は……“優しさと棘のマリアージュ”とかどう?」
――RozeBite、再び“自分の声”で、世界を照らす。
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