表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/85

#016: 灯りをつなぐ声


夕暮れの空が、静かに紫に染まりはじめていた。

橘カレンは、事務所の共有スタジオで、PCの前に座っていた。




画面には、ストリームリンクのビデオ通話。今日は、久々に後輩の宵咲ネアと、同期のリリス・レイと話す約束だった。




「カレン先輩〜! 元気してましたか?」




ネアの明るい声が、通話越しに響く。



「うん。なんとかね」



カレンは柔らかく笑った。どこか少しだけ、照れたように。



「前に言いましたよね? カレン先輩の声、私……ほんとに好きなんです」



カレンの表情がふっと揺れる。

その言葉に、記憶の奥からひとつの場面が浮かんできた――。


* * *




──あれは、まだネアが配信歴数ヶ月だった頃。

カレンがたまたま彼女の初コラボを見に行った後、通話でネアがぽつりと言ったのだった。




「カレン先輩が……先輩がいたから、私、Vtuberになってよかったって思えたんです。

落ち込んだときに、配信の声に助けられたんですよ。“大丈夫だよ”って言ってくれてる気がして……」




「私も、そんなふうに言ってもらえる日がくるとは思わなかったな」



「えっ? もう言われてますよ!? 私が今、言ってますし!」


その無邪気な笑顔に、カレンは心から救われた。

“誰かに届いていた”という実感が、どれほどの力になるかを知った瞬間だった。



* * *


「……ネアちゃん、ありがとう」


小さく呟いたカレンの声に、ネアは優しく微笑んだ。



そのとき、もうひとりの通話参加者――リリス・レイが現れる。



黒髪のゴスロリ衣装。吸血姫のような姿の彼女は、相変わらずの毒舌キャラだ。



「逃げずに出たわね、カレン。偉いじゃない」


「いきなりそれ?」


カレンは笑いながらも、どこか安心していた。


「でも……逃げてたのは事実だよ。怖かったんだ」



「うん、それは知ってる。でもさ、逃げてた理由、ちゃんと自分で見つめ直さないと、前に進めないでしょ」


リリスの言葉は鋭い。でも、そこには明らかな“信頼”があった。



「言葉って、簡単に刃になるでしょ? 視聴者の期待も、周りの空気も、全部あなたに刺さってくる。

でもそれって、本来はあなたが武器にするべきものなのよ。自分の言葉で、ちゃんと切り開けるように」



「……それが、難しくなってたの」 


カレンは俯きながら、ぽつりとこぼした。


「何が“正解”か分からなくなって……どの言葉も、自信が持てなくて」


「だったら、“本当に言いたいこと”だけ残せばいいじゃない」


リリスは続ける。

「ありがとうでも、大丈夫だよでも、辛かったって本音でも。あなたが言うから意味があるのよ。

“誰かのため”じゃなくて、“自分のため”に話してごらんなさいよ」



「……うん」



ネアも頷く。


「カレン先輩が届けた“癒し”って、無理して作ったものじゃないはずです。

誰かに言われた言葉じゃなくて、先輩自身が心から思ったことだったから、届いたんだと思います」



カレンは、二人の顔を見ながら深く息をついた。



「……ありがと。ほんとに、ありがと」


こんなふうに話せる時間が、どれだけ貴重かを改めて実感する。

そして、自分が戻る場所は、やっぱり“声”の中なのだと――。


「明日、配信しようと思う。ちゃんと、自分の言葉で話してみたい」


「よっしゃー!」ネアが歓声を上げる。


「私、秒でコメントしますからね!」


「“復活のへたれ”って打ってあげるわ」


「それ絶対やめて!」



三人の笑い声が、通話の空間に広がっていく。


──たとえ少しずつでもいい。

“誰かの声”と重ねていけば、きっとまた前に進める。


カレンの目には、もう迷いはなかった。

読んでくれてありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ