#011: 広がるノイズ
海外Vtuberとの大型コラボ配信から、数日後。
癒し系Vtuber・**RozeBiteは、再び注目の的となっていた。
だが、それは以前のような称賛によるものではない。
彼女の名前は、今度は「話題の中心」ではなく「論争の的」**としてF(SNS)を駆け回っていた。
「え、なんか最近のRozeBiteキャラ違わない?」
「毒舌キャラで売ろうとしてるの?ぶっちゃけ痛い」
「前は優しい声と雰囲気で癒されてたのに、今はイキってるだけ」
「急に英語ばっかり喋り出して、日本のファン置いてけぼりじゃん」
Fのタイムラインには、そんなコメントが流れ続けていた。まるで、癒し系だった彼女の“変化”を糾弾するかのように。
ヴォイシンクのコメント欄でも同様だった。
特に海外のファンが多く訪れるようになってからは、英語での書き込みが一気に増えた。
「RozeBite is on fire! Love her new vibe!」
(RozeBiteは絶好調!新しい雰囲気が最高!)
「She's so sassy now, I love it!」
(彼女、すごく毒舌になってて、それが大好き!)
「She finally speaks her mind. This is real Roze!」
(ついに本音を話してる。これが本当のロゼだ!)
対照的に、日本語のファンからは――
「いや、英語多すぎて意味わからん……」
「なんかキャラ変わっちゃって悲しい」
「私たち、日本のリスナーだよね?RozeBiteって日本のVじゃなかったっけ?」
そして中には、翻訳を通じて伝わる悪意すら混じっていた。
「She’s just a fake. Trying too hard to be global.」
(彼女はただの偽物だよ。無理にグローバルぶってるだけ。)
「Not kawaii anymore. Just rude.」
(もう可愛くない。ただの失礼な人。)
カレン――RozeBiteは、それをすべて目にしていた。
部屋の明かりは落としたまま。
モニターの光だけが、彼女の顔を青白く照らしていた。
スクロールする指が止まらない。
笑っていたリスナー、応援してくれた人たちの名前が、今は見つからない。
「……これが、バズるってことなんだね」
彼女はそう呟いた。
空気の抜けたような、乾いた声だった。
その夜、所属事務所「リライブ」の内部チャット【StreamLink】にも、微妙な空気が流れていた。
【雛乃うらら】:
「配信お疲れさま〜。英語のコメめっちゃ多くなったね!」
【雪城ルナ】:
「Rozeすごいなあ……海外受けするキャラって、考えて作ったの?」
一見、普通の感想のように見えるそれらは、どこかよそよそしく、壁があるように感じられた。
言葉の裏を読み取るほど、カレンの胸はざわつく。
(もしかして……みんな、引いてる?)
返事を打とうとして、彼女は手を止めた。
そのままキーボードに置かれた指を見つめながら、ポツリと呟く。
「ごめん……」
誰に向けた言葉なのか、自分でもわからなかった。
数日後。
Fのタイムラインで、懐かしい動画がリツイートされていた。
《癒しの女神・RozeBite 初期まとめ【眠れるような声】》
《Rozeは昔、こんなに優しかったんだよな……》
《最近の毒舌もいいけど、私はこの頃の方が好きだった》
それは、活動初期のカレン――いや、"本当の自分"だった時の切り抜き。
優しいトーンで「今日もお疲れさま。無理しないでね」と話しかけ、
子守唄のような声でリスナーを眠りに導いていた、あの頃。
「今のRozeって、ちょっと無理してるように見える」
「キャラ変っていうか、迷走?」
「結局、何がしたいのかよくわからない」
コメントを読むたびに、胸の奥が締めつけられる。
(私は……何のために、Vtuberになったんだっけ)
世界に届けたいと思った。
自分の声が、誰かを支える力になるって信じた。
けれど今、自分の発する言葉が、誰かを傷つけている気がする。
リスナー。仲間。事務所。
そして――自分自身。
カレンの目に、涙はなかった。
その代わり、深く、暗い沈黙があった。
読んでくれてありがとうございます




