#001ミュート切り忘れてますよ、?
初めて書くのでよろしくお願いします
Vtuberとして活動している私――橘カレンは、今日も配信を終えたところだった。
配信名はRozeBite。
癒し系のお姉さんキャラとして、ゲーム実況や雑談、ASMRなど、いろんな配信をしている。
Vtuber歴はちょうど一年。
事務所にも所属していて、それなりにファンもついてきた。
コメント欄には「声が優しい」「おつローズ!」「寝落ちした」なんて言葉が並び、私はそれを見ながらいつものように締めくくる。
「今日も来てくれてありがとう。おつローズ〜」
ほんの少し、作ったような優しい声で。
可愛く手を振って、癒し系のキャラで配信を締める。
配信終了ボタンをクリックして、私は椅子にぐったりともたれかかった。
「はぁ……マジで疲れた……」
ぽつりとこぼれる素の声。
そして、無意識に口が滑った。
「てかさ、今日のスパチャ、it is too long。なんであんな詩みたいな長文送ってくるの?読むこっちの気持ち、Do they even care? Seriously...」
言葉が止まらない。
「あと今日やったゲーム、that was total garbage。操作グダグダ、テンポ悪い、ストーリーも薄すぎ. Who thought that was a good idea?」
[コメント欄もさcan they even read? “elementary”が読めないって何それ。It’s literally middle school. English!」
「は〜〜〜マジでストレス溜まる。This is why I hate pretending to be all sweet and nice. 癒し系とかムリムリ……I’m not your damn therapist.」
それは、癒し系Vtuber・RozeBiteとはまったく別の人物だった。
英語混じりの鋭い毒舌。
これが、本当の――橘カレンの姿だった。
もちろん私は、誰にも見られていないと思っていた。
配信は終わった。マイクも切った。そう、そのはずだった。
でも。
――マイクは、切れていなかった。
翌朝。
スマホが通知の嵐で震え続けていた。
「……え、なにこれ……?」
寝ぼけながら画面を見ると、SNSの通知が何百件も来ていた。
Voisyncの切り抜きチャンネルから、英語の引用リプ。
Fでは“#RozeBite”が日本と海外でトレンド入りしている。
【RozeBite、実は英語ネイティブだった!?】
【癒し系Vtuberの裏の顔が最高すぎる】
【She’s a savage QUEEN】
【毒舌バレで海外ファン爆増中】
何が起こってるのか、最初はわからなかった。
けれど、昨日の記憶がじわじわと蘇ってくる。
「あれ……もしかして、私……」
震える指で録画アーカイブを開いた。
そこには、マイクを切ったつもりで英語混じりの毒舌を垂れ流す自分の姿が、しっかりと映っていた。
そして、コメント欄は英語だらけだった。
"This is the best content I've ever seen."
"I KNEW she was faking that sweet voice!"
"I love her even more now."
"Savage queen unlocked!"
"Please marry me."
あの日、私はミュートを忘れた。
そして、世界にバレてしまった――本当の私の姿が。
こうして私は、ただの癒し系Vtuberから、一夜にして世界一バズった毒舌バイリンガルVへと進化してしまったのだった。
読んでくれてありがとうございます