新入生2
「はい、みなさん、注目ー!」
突如響いた張りのある声に、子どもたちの視線が一斉にその方向へ向く。
岩肌の上に立っていたのは、長い銀髪をひとつに束ねた女性だった。目元は鋭く、だがその瞳には知性の光が宿っている。すっと背筋を伸ばすと、彼女の体格があらわになる――二メートルを優に超える巨躯。まるで大木のように揺るぎない存在感だ。
「私はアヴァルト。今日から君たちの教師となります。そして、私たち教師が責任を持って、アズチ魔法学校まで案内します」
堂々とした声に、周囲が静まり返る。
そのすぐ後ろから、まるで影から抜け出すようにして三人の教師が姿を現した。
それぞれが、まるで違う世界からやって来たかのような雰囲気をまとっている。
ひとりは細身の男性で、黒いロングコートをまとい、頬には古傷のような筋が一本。目つきは鋭く、腕を組んで無言のまま周囲を見渡していた。
もうひとりはふくよかで笑みを絶やさない年配の女性。手には花柄の大きなトートバッグを抱え、お菓子でも配りそうな雰囲気だ。
三人目は背の低い青年で、何やら機械仕掛けの杖を分解しながら歩いてきた。ひとりごとが多いようで、ずっと何かをぶつぶつ言っている。
そんな中、子どもたちの一人がひそひそとつぶやいた。
「……今日、新入生集合って聞いて来たけど、まだ30人くらいしかいないよね? え、うちらだけ? これで全部なの?」
声の主は、黒ぶちメガネの少年――ユキムラだった。
彼の言葉にピクリと反応し、黒コートの男性教師が前へと歩み出る。
「貴様、ユキムラだな」
「……え? なんで名前を」
「名簿にある」
そう言うと、彼は胸元から取り出した六かける六団子をパカリと開けた。中から、なぜか蛇腹式の名簿がするすると出てくる。
「ユキムラ──陰口好きな男子。人の欠点に敏感で、自分の非はスルーしがち……」
「ちょっ、そんなこと書いてあるわけ……!」
周囲の子どもたちがクスクスと笑い始める。ユキムラは引きつった笑顔を浮かべて、肩をすくめた。
「ははっ、それ俺のチャームポイントってやつ?」
だがその目は怒っていた。(今、ぜってー勝手に書き足したろ……!)
そんな彼に冷ややかな視線を返しながら、男は続けた。
「私はドーク。不死鳥組の担任だ。面倒くさい奴は嫌いだが、育てがいのある奴は……もっと嫌いだ」
「最悪じゃねぇか!」
ノブナガが思わずぼそっとつぶやいた。
そのとき、ドークの横から、栗色のふわりとした髪が揺れる。明るい笑顔の女性教師が、まるで光を差し込むように登場した。
「もう、ドーク先生ったら。新入生をビビらせるの、やめてあげてよ」
彼女の柔らかい声と温かな笑顔に、子どもたちの緊張が一気にほどける。特にユキムラは、ぱっと表情をゆるめた。
「せ、先生……! 救世主……! お名前は!?」
「私はジュラ。“夢見る会”の担当よ。あなたたちの“可能性”を、誰よりも信じてるわ」
その優しい言葉に、一瞬場の空気が和む。
だが、ジュラの名前を聞いた瞬間、ユキムラの顔が再び曇った。
「夢見る会……? なんか怪しいネーミングじゃね?」
ユキムラが心の中でそう思ったとたん――
「“まともな人間”の感覚らしいよ」
すかさずドークが冷たくツッコむ。ジュラはふふっと微笑みながら、ユキムラの目線に合わせてしゃがみ込む。
「でもあなた、心の奥じゃ、ちょっとだけ信じてみたいって思ってるでしょ?」
ユキムラは目を逸らしながらも、何も言い返せなかった。
そんなやりとりの後ろで、他の新入生たちも小声で話し始めていた。
「なあ、あの背の低い先生、さっきから杖いじってない?」
「え、あれ先生なの? 妖精とかじゃなくて?」
「……ってか、夢見る会って、寝てるだけの授業じゃないよな?」
笑いやささやきがこだまする中、遠くから甲高い声が響いた。
「ジュラ先生、ドーク先生! 時間です!」
「了解!」「わかりました」
二人の教師が同時に応え、前に出る。
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