新入生1
第二章
ノブナガが滝の裏側をくぐり抜けた瞬間、空気が変わった。
そこは、まるで時間が止まったかのような別世界だった。
切り立った山々が屏風のように谷を囲み、空の青さが川面に映って揺れている。滝の飛沫が光に反射して、無数の虹色の粒が舞うなか、大きな川が静かに、しかし力強く谷を横切っていた。水は透き通り、川底の小石まではっきりと見える。岸辺には苔むした岩がごろごろと転がり、シダや山野草が瑞々しく生い茂っている。
その清らかな流れに混じって、にぎやかな笑い声が谷いっぱいに響き渡っていた。
「あはは! おまえ、それ反則ー!」
「わっ、つめた! も〜う!」
年の近い少年少女たちが、裸足で川に入り、バシャバシャと水を掛け合って遊んでいる。水浸しの服も気にせず、跳ね回るその姿は、生き生きとした夏の一場面そのものだ。空高く伸びたクスノキの木陰で、一人がくすくす笑いながら隠れていると、別の子が全速力で駆けてくる。
子どもたちはみな、風のように自由だった。
ノブナガは思わず足を止め、深く息を吸い込んだ。山の香りと水の匂いが混ざった空気が、どこか懐かしかった。
「……ここがアズチの地域……魔法の世界、、、か」
ノブナガがアズチの土地の雰囲気に酔いしれていると新入生と思われる子供たちが滝の近くの広場にどんどんと集まってきた。
集まってくる子供たち皆が腰に刀を携えている。
「がんばるぞ・・・・」
小さくつぶやいたそのとき、滝の水音の向こうから、何かが静かに現れた。
まるで水の幕を切り裂くように、漆黒の長い車が音もなく進み出る。その姿は、この自然の中にあまりに不釣り合いで、まるで異世界からやって来たかのようだった。
重々しくドアが開いた。
中から降りてきたのは、一人の少女。黒曜石のようなサングラスに深紅の道着袴、艶やかな黒髪は風になびき、その背筋は軍人のように真っすぐだった。
動作ひとつひとつが洗練されていて、まるで舞台の幕が上がったかのような存在感。
「なんだありゃ……反社の登場かよ」
ノブナガは小さく毒づいた。
その瞬間、少女が声を張り上げた。
「私に道を開けなさい!」
透き通った声が、谷に凛と響きわたる。
「ハハーイ、イエヤス様ー!」
誰かの声とともに、川の上にふわりと赤いカーペットが出現した。
魔法によって生み出されたそのカーペットは、岸から岸へと一直線に伸び、子どもたちの歓声をよけながら、真っ赤な道が続いていく。
途中にあった木々や岩は、魔力によってなぎ倒され、道はまるで王女の凱旋ルートのようだった。
イエヤスと呼ばれた少女は、裾を翻しながらその道をゆっくりと歩き出す。
その足取りは品があり、しかしどこか冷ややかで、自分の立場を疑わない絶対の自信に満ちていた。周囲のざわめきなど気にする素振りもなく、目線はまっすぐ真っ赤な道のかなたを見据えている。
「金持ちのお嬢様か……」
ノブナガが皮肉まじりに笑ったそのとき、突然岩肌から一人の女性が現れた。
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