アースキララを、ぶっこワース!
深い青のアレキサンドライトの目を持つヤマネはノブナガから放たれた。
ヤマネを追っていくと、森に入ってすぐのところの木の幹に腰を掛けているヨシモトを見つけた。
「もう逃がさないですよ! ヨシモト先輩!」
ヨシモトはびっくりして頭を勢い良く上げた。
「あ、あ、あ」
ヨシモトは自分の今置かれた状況の整理をし始めた。
「あ~。そう言うことか! 僕の負けでいいこの幹から引っ張り上げてくれ」
「へ?」
「抜け出せなくなっちゃったんだ! でも木は切るなよ、先生の大目玉をくらいたくなかったらな」
「注文の多い人だぜ」
ノブナガはため息をつく。
「最後まで迷惑をかけるとはさすがだぜ」
ユキムラはボソッと呟く。
「まぁ、全員無事ならそれでいいだろ?」
「魔法で何とかならなかったんですか?」
「僕は基本的に物を壊す魔法しか知らないんだよ。興味関心の問題さ」
「怠けてますね」
「そんなことよりノブナガ、早く、僕を助けてくれないか?」
「馬四駆のアースキララが先です」
ヨシモトはまずい漢方を飲んだ時のような顔になる。
「ど、どうぞ」
「ありがとうございます」
「早く! もう夕食まで時間がない!」
ヨシモトは安心した顔になる。それをノブナガはぶち破る。
「よし行くか!」
ノブナガ達は歩き始めた。
「ごめん。悪かった。もうこんなことはしないよ! 頼む!」
「ハァ~」
ノブナガはため息をつく。
「わかりました」
ノブナガ達はヨシモトの右手と左手を掴み、引っ張り出す。
「やはり、三人寄れば文殊の知恵だな! ハハハハ!」「今日は生徒会企画馬四駆レースを行います! 舞台はランチルーム集会も行うこの教室。広さは十分です。レースをするなら持って来い! 生徒会の一員ミツヒデ君も参加します」
「レースは二回! 五組ずつ戦ってもらいます! トーナメント戦です」
地面や壁や天井に長い白い線がひかれたコースのレーンが五つ駆け巡っている。イエヤスファンの応援が聞こえる。ラッパを吹くなり、タンバリンを叩くなり、カスタネットを叩くなり。
ノブナガはヨシモトと話していた。
「ノブナガ、ホントに大丈夫か?」
「はい、俺、自分のコントロールで車を走らせたいんです!」
「まぁ壊さない程度にしてよ」
ノブナガは仮面を顔に押し当てる。ノブナガは鍵を持つ。この鍵で操作するんだよな。出来るのか俺に? いや、やるんだ。出来るかどうかじゃないやるんだ。ユキムラにも、じゃんけんで勝ったんだ。俺がやらなくては!
「全車スタートポイントに設置してください!」
ノブナガは、アースキララを地面に置く。
「全レーサー準備オッケーですね! では三、二、一スタート!」
その瞬間、先ほどまで止まっていた全車が空中にふっと軽く浮く。走り出す。風に乗り切れない重みを含んだ走りだ。
アースキララはどんどん加速する。
「速い速いぞアースキララ!」
生徒会のクロガネが実況をする。
アースキララはどこへぶつかることもなく走り続ける。左カーブをし始める。壁を駆け上る。
やった。いける。いや待て、ここで舞い上がってしまったら、一生後悔する結果に……。いや、逆に舞い上がったほうが……ハイになったほうが、上手くいくかもしれない。
「ノブナガ! 左だ!」
ノブナガの意識は今アースキララに集中している。横からの敵の接近に気づかない。
「おい! おいいい!」
悪質な馬四駆のタックルだ。
「ヨシモトをぶっ飛ばせるのはこれしかない!」
敵の一人の罵声が飛ぶ。
「フンッ」
ノブナガは息を吐き捨てる。
アースキララはアウトコースにずれる。
「勝った! ヨシモトに!」
アースキララは急ハンドルでインコースに入ってきた。アースキララは敵の馬四駆を撥ねた。敵の馬四駆はスーパーボールのように撥ねた。その勝負を見ている一人が声をひそめる。
「ハカセさん大丈夫なんでしょうか?」
「さぁどうだろう」
ハカセはにやにやしている。
「君達は、愚かだよ」
「先輩に向かって何だその口の利き方は!」
上級生の一人がハカセの胸ぐらをつかむ。持ち上げる。
「力持ちだな」
ハカセと、その男はしばらく視線で戦う。まるで隣接する国同士のいがみ合いだった。
「やめろよ、ユウガ」
また一人の上級生は言った。
「チッ」
ハカセは肩を力いっぱい引っ張ってユウガから離れた。
「決勝戦に進出したのはアースキララだあああ! チーム名ダイヤモンドレボリューションの勝ち!」
「おおおおお!」
「決勝ではアースキララと戦うことになったな」
ハカセは下品にも周りをイラつかせる発言をした。
「てめぇら調子乗ってんじゃねぇ!」
「絶対お前らに決勝は行かせねぇからな」
ハカセの六かける六団子から、何やら飛び出した。
「うゎああ! あれは!」
白馬の王子様シリーズの改良版ネオアースキララが待ってましたとばかりに元気よく飛び出した。
「ノブナガ、そして君達! アースキララとは目の付け所が良いな、だが、アースキララの真の力を知らないようだ。見せてやる」
「スタート!」
ネオアースキララは加速する。だが一人狙いされ四組の馬四駆達から、逃げるように走り続ける。コーナーを曲がり、さらに加速する。ネオアースキララは追いつかれ始めた。
「馬四駆は速い。だがそれがアースキララの力の全てではない」
「うぬぼれるな! 速さ重視なのは明らかだ!」
一台の馬四駆がネオアースキララに迫る。ぶつかる。その瞬間。つるんっ。ネオアースキララにぶつかった馬四駆が軌道を変えコースアウトする。
「何だ今の!」
「ハハハ!」
「クッソ! ゴールされてしまう!」
「もういい! あいつがどんな能力をもっていても俺達はぶつかるしかない!」
三台の車が猛スピードでぶつかりに来る。
「何台でも来い! 私の勝ちだ!」
三台の車はつるつるとスリップしていく。回転して転がって行く。
「優勝ネオアースキララ走行中のチーム名クイーンピラミッドです!」
「ノブナガ、どうなっている?」
「何ですかヨシモト先輩」
「成風でスピードが上がっているアースキララだが、それと同格、いやそれ以上かもしれない。ハカセってやつは何者なんだ?」
「わかりません。でも、これだけは言えます。あいつも成風を使っている」
「!?」
ノブナガは自分の言葉にハッとする。そうだ。何故気づかなかったんだ、今まで。森の近くにある部室は何も俺達奇々怪々部だけではない。奴も、成風の回収は出来る。道具もある。頭もいい。行動力が伴っていない、と何故、高を括っていたんだ。だがもしかしたら成風を使っていないにもかかわらず、ただただ強いのかもしれない。
「おい、ノブナガ? まだか? 僕に倒される準備は?」
「なかなか言うな。今、お前を倒す細断を考えていたところさ」
ノブナガは開始線にアースキララを設置するために歩き出す。その足はノブナガには重く感じた。重力が倍かかっているようで、一歩一歩が遅い。亀の歩みだ。みんなの思いを背負っている。絶対勝つんだ。ノブナガは深呼吸をするが何やら硬い物がのどに引っかかっているようで苦しかった。うまく息が吸えない。
「ノブナガ行ってこい。お前の全てを出してこい!」
「ダイヤモンドレボリューション対クイーンピラミッド! もといアースキララ対ネオアースキララ始まります」
「絶対勝つからな」
ノブナガは震える言葉を言い放つ。
「君に僕は倒せないよ。どうせ僕の作った芸術品を使って成風を捕まえたんだろ?」
「!?」
「違うかい?」
「青は藍よりいでて青は藍より青し」
「へぇー難しい言葉知ってるんだね。使い方は置いといて」
「やってやる!」
「さぁー来い!」
「では、全レーサー揃いました。準備はオーケーですね。ではいきます。三、二、一、スタート」
ネオアースキララはスタートダッシュ直後に勢いを付けすぎた。回転する。
「勝てる。今のうちだ! 絶対勝てる。この短いコース一度でもスリップすれば間違いなく挽回の余地はない。
「よっしゃ!」
アースキララは凄まじいスピードで走る。
「どうすんだハカセ!」
「大丈夫だ。もちろんこんな事故の対応策はある」
ネオアースキララから部品がどんどんそぎ落とされていく。
「軽量化成功! 加速するぞ!」
「あれだけのパーツを仕組んでいてあの速さだったのか!」
ネオアースキララはアースキララにすぐに追いついた。
「ヤバイ、ぶつかってくるか!?」
だが、ぶつからない。
「車体を軽くしたせいで、衝撃に耐えられないと踏んだか! ならば!」
ノブナガは幅寄せを試みる。
「吹き飛べ!」
つるんっ。
「馬鹿な、はじかれた。いや違う! 摩擦がなくなっている!」
「正解!」
「機械油を付けて滑りやすくしてやがった! 小賢しい!」
「気づくのが遅かったね。愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」
「!?」
「あっけない幕切れだったな」
アースキララは回転しアウトコースに転がる。
このままでは負けてしまう。一度スリップしたらもう勝ち目は……。いや、あいつだってスリップしたんだ! あいつと同じことをすればいい!
ノブナガはこの時完全に賢者だった。
アースキララのパーツが弾け飛ぶ。
「ハハハ! ハハハハ! 面白いよ君! 面白い!」
ハカセはこれ以上ないというぐらいの高笑いを繰り出す。
ヨシモトはショックで目も当てられない。耳も聞こえなくなった。口すらきけない。
冷や汗をかく。暖かいつばが口の中で流れ落ちる。
「いけぇ!」
「距離がありすぎている! 君の馬では僕には勝てない!」
「コーナーだ!」
「それがどうした!?」
最後のコーナーでネオアースキララは速度を下げた。だが、アースキララはそのままの速度で走り抜ける。
「これしか。勝ち目はない!」
「危ないぞ!」
一気に距離を詰め、追い抜く。
「僕の芸術品が負けるわけない! 絶対に! 最後の直線それが勝敗を分けるとしたら、絶対僕の勝ちだ!」
だが、アースキララはトップを走る。
「負けるか!」
ネオアースキララも迫り来る。もう、車一台分のスペースも車間距離は空いていない。
「インコースを走り続けるな! ノブナガ!」
「もらった!」
ネオアースキララは横にそれる。追い越しを試みる。ノブナガは、左に詰め追い抜かさせない。
今度は左、そして右。蛇行運転で守る。
「ネオアースキララの方が絶対スペックは上だ! 何故なんだ!」
「これが、俺のアースキララだ!」
「だが、負けない! 僕のネオアースキララは負けない!」
ネオアースキララはアースキララに追突した。
「そんな!」
そして、アースキララは場外へと、弾き飛ばされる。
「ハァ……ハァ、ハァ」
「こいつにプライドはねぇのか」
ユキムラはこぼす。
「プライドが故、プライドが故なんだ」
ミツヒデはボソッと返す。
ノブナガと、ヨシモトはあっけにとられる。
ハカセのネオアースキララはゆっくりゆっくり。自分の犯した罪を数えるかのように走って、いや、歩いている。
「ゴールです……。優勝クイーンピラミッド!」
「うぉぉぉぉおおお!」
「熱い試合でした。優勝者にはメダルをそして、両者ともに拍手を贈呈いたします!」
ノブナガとヨシモトは下を向くしかなかった。ただただ、ボロボロのアースキララを見つめる事実で、この悲惨な現実の埋め合わせをしようとした。
ハカセもピクリとも動かない。盛り上がっているのは会場だけだ。ハカセ含めクイーンピラミッドはメダルを受け取っている。
二つの時間は突如重なり合う。
「ノブナガ、ヨシモト先輩すまなかった」
「すまないじゃすまないよ」
「ノブナガ、ヨシモト先輩! 僕が直します! アースキララを!」
「いやダメだ! 僕は改造されたアースキララなんていらない。本物が良いんだ」
ヨシモトはふんぞり返る。ノブナガは何も言わない。頭も回っていないようだ。
「そうですか……。本当にすみませんでした」
「謝って済む問題じゃないよ」
ヨシモトはため息をつく。壊れたアースキララとその部品を回収し始めた。
「ヨシモト残念だったな! ハハハ!」
クイーンピラミッドのメンバーはヨシモトをからかう。




