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奇々怪々部

「ミツヒデ、お前も奇々怪々部に入る気か?」

ノブナガが階段を駆け降りながら息を切らす。


「うん。ヨシモト先輩って、あれで結構趣ある人だと思うんだよな」

ミツヒデは真顔でうなずく。


「趣? あのニヤニヤ顔に?」


「そうそう。あれは、ただの悪巧みじゃなくて“味”だ」


「へぇ……人を見る目は俺とは違うな」


二人は南側の城門を抜け、堀沿いの道を小走りで進む。堀の向こうには深い森が広がっている。


「この先の森の向こうに奇々怪々部があるらしい!」

ミツヒデが指差す。


「お、じゃああれだろ!」

ノブナガは遠くの大きな建物を見つけて勢いづく。


「間違いない!」


二人は駆け出した。走って、走って、ひたすら正面だけを見て走る。

しかし――


「……おい、なんかおかしくないか?」

ノブナガが眉をひそめる。


「どうした?」


「走ってるのに景色がまったく変わらん。あの木、ずっとそこにあるぞ」


「いや、むしろお前、ほぼその場で足踏みしてるぞ!」


「ふざけんな! 全力で走ってんだよ!」


「なにこれ、呪い?」


二人は半ばヤケになってさらに加速するが、木々はまるで壁のように立ちはだかり、一歩も前に進ませない。

息が荒くなり、足が地面に吸い寄せられるように重くなる。


「くそっ……足が鉛みたいだ!」


「これじゃ奇々怪々部にたどり着く前に俺たちが怪々だ!」


その時、森の奥から声がした。


「君たち、バカかな?」


木の影から、小柄でメガネの女子生徒がひょっこり顔を出す。


「誰だ、てめぇ!」

イライラ全開のノブナガが怒鳴る。


「まぁまぁ、荒ぶるな。僕はハカセ。同級生だ。で、その様子だと魔法を体に纏ったことないね?」


「魔法を……体に?」

ミツヒデが目を丸くする。


「そう。この足止めは“成風”っていう魔木から出る特殊な風だ。動きを鈍らせる厄介なやつ」


「じゃあ俺たちは一生ここで足踏みか?」


「いやいや、そこで朗報。僕が開発した“パワーシューズ”を貸してあげよう」

ハカセはニヤリと笑う。


「それ履いたら行けるのか?」


「もちろん。君たちは森に入りたい、僕はシューズを試したい。ほら、Win-Winだろ?」


「……まぁ、そういうことなら」

ノブナガが腕を組む。


「話が早い!」

ハカセはシューズを放り投げた――いや、弾丸のように飛ばしてきた。


「うげぇっ!」

ノブナガが慌ててキャッチ。


「ハハハハ! 悔しかったら履いて追いかけてこい!」

そう叫んでハカセは森の奥へダッシュ。


「絶対ぶっ飛ばす!」

ノブナガが即座に履き替えて追撃開始。


「ちょ、休もうぜ……」

ミツヒデの声は届かない。


不思議なことに、パワーシューズを履いた瞬間、成風の影響が消え、地面がまるでトランポリンのように弾む。


「思ったより速いね!」

前方のハカセが笑いながら振り返る。


「うるせぇ!」

ノブナガが迫った瞬間――足元がスカッと抜けた。


「うわぁっ!」

ノブナガは背中から落下。土埃が舞い上がる。


「大成功!」

落とし穴の縁からハカセが満面の笑みでのぞき込む。


「なにしやがる!」


「君の目的地、こっちじゃないよ。奇々怪々部はあっちだ」

ハカセが指差す。


「……なんで知ってんだ?」


「最初から君ら見てたからさ」


「てめぇ……」


「そのシューズなら落とし穴なんてジャンプで一発だよ」


ノブナガは渾身のジャンプ。巨大な魔コナラの木を飛び越え、奇々怪々部の建物の前に着地した。


部室の前では、ヨシモトが赤い鳥型ジョウロで鉢植えに水やり中。


「ずいぶん派手な登場だな。危うく魔風船カズラが爆発するところだったよ」


「すいません……」


「まぁ、無事来れたならいいさ」


遅れてミツヒデが走って到着。ヨシモトは二人を迎え入れ、部室のドアを開ける。


チカチカする蛍光灯、四つの椅子、大きな机、ガラスケースには謎のフィギュア三体。そして棚には魔トラ、魔蛇、魔鳥の剥製がずらり。


「――奇々怪々部へ、ようこそ」

ヨシモトがにやりと笑った。

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