部活紹介
二限目――今日はランチルームで部活動紹介があるらしい。
ノブナガとミツヒデは並んで廊下を歩き、城の真ん中にある赤と金のきらびやかな階段を、タタタッと駆け下りる。
「ノブナガ、お前、さっきの自己紹介……マジでびっくりしたぞ」
「……ああ、あれか。仮面つけてなきゃやってられなかったけどな」
「いやいや、あれはあれで立派だよ。度胸ある」
「褒めてんのか、それ?」
「半分な」
ふたりは軽口を叩きながら、階段を降り切った。
ランチルームに着くと、部屋はもう真っ暗。カーテンもぴっちり閉じられていて、ステージだけをライトがパッと照らしている。まるで小さな劇場みたいだ。
「新入生の皆様! お集まりいただけたでしょうか! ……え、まだ? しょうがない、あと一秒だけ待ってあげます! いーち!」
「短っ!」
客席のあちこちから笑いが漏れる。
突然、壁一面に鮮やかな映像が映し出された。士気道の選手たちが宙を駆け、上下左右360度に動き回る。その後を追うように光が激しく点滅し――やがて光の粒が文字を描く。
『ようこそ、アズチへ!』
暗転。今度は星空のような光が天井いっぱいに広がる。
『星を見る会』
「星を見る会では、なぜ星があるのか、どうやって生まれたのかを、哲学や宗教の観点から考えます!」
「おお、真面目そうだな」
「いや、眠くなりそう」
場面は虹がかかった空へ。
『コーラス部!』
「音楽室で先生のピアノに合わせて歌います! 楽器を触れる日もあるとかないとか!」
「あるのかないのかハッキリしろー!」と誰かが突っ込み、笑いが広がる。
次は大きな樹海の映像。
『飛び出せ美術部』
「絵画を集めるのが趣味な人、一人の時間が好きな人にぴったり!」
そして、ぽっちゃりした男がケバブを頬張る後ろ姿。
『世界のグルメ部!』
「鬼教師ドーク先生の知られざる一面が見られるかも!」
「食べてばっかじゃねーか!」
次はスマホとタッチペンで絵を描く手元の映像。
『魔文芸部!』
「執筆はチームプレイ! 一人ではできない挑戦を、みんなで!」
場面はパソコンだらけの部屋に変わる。
『ゲーム部!』
「eスポーツで熱く戦え! これもチームプレイだ!」
すると急に、会場の空気がじわっと熱くなる。
「あつっ……なんで?」
女子生徒が制服の襟をつまみ、男子はズボンの裾をめくる。あちこちで汗を拭く音や、ぽりぽりと掻く音が聞こえた。
『魔道具発明部!』
「小学生だったハカセ氏が作った部活! 何が行われているかは本人のみぞ知る!」
画面に巨大な黄色いクエスチョンマーク。
そして、最後。
『奇々怪々部!』
「とにかく怪しい! 情報が全くない! もう廃部してるんじゃないかと思いました!」
司会が締める。
「どの部活にも合宿があります! 掛け持ちは計画的に!」
映像が終わると同時に、会場のあちこちで「おもしれー」「どうする?」という声が飛び交う。
ノブナガとミツヒデが外に出ると、すぐに部活の先輩たちが出待ちしていて、人の波が滝のように押し寄せた。二人は人をかき分けながら階段を上り始める。
「おい、ノブナガ。入りたい部活あったか?」
「奇々怪々部……あれは面白そうだった」
「だよな!」
すると、その言葉を聞きつけたヨシモトがニヤリと現れる。
「入りなよ、奇々怪々部! 今ならキングガムのレアカード三枚付きだ!」
「キングガム?」
「魔法界で一番有名なコレクションカードだぞ」
ヨシモトが得意げに説明すると、ノブナガの目が急にギラリと光る。
「じゃあ一枚でいいや」
カードをひょいと取ろうとするが――
「奪うな! これは俺のだ!」
ヨシモトはノブナガの手を振り払った。
「……え?」
「レアカードはやらんが、歓迎はする」
「わかりました」
「奇々怪々部の場所、知ってるか?」
「大体は」
「じゃあ、成風に気をつけろよ」
意味深につぶやき、ヨシモトは階段を上っていった。
彼が寮の部屋に戻ると、同室のタチムカイが大声でぶつぶつと何かを唱えていた。
「やってるやってる!」
ヨシモトは満面の笑みを浮かべる。
もう一人の同室のユズルが眉をひそめる。
「ヨシモト、いじめはやめとけ。お前が“悪魔の召喚”だとか言ったのを本気にしてるぞ」
「へー」
「へーじゃねえ!」
ヨシモトはスマホを赤外線でテレビに繋ぎ、さっきの映像を再生する。
「今年もひでぇ紹介だったな。まるで奇々怪々部を貶めるためみたいだ」
「じゃあ、やっぱ廃部なんじゃね?」
ユズルの言葉を無視して、ヨシモトはニヤリと笑う。
「奇々怪々部……今年も忙しくなりそうだ」




