表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/30

ユキムラ魔剣事件 ― 過去の回想

~~~~~ユキムラ魔剣事件


ジュラ先生の前で、ユキムラはまっすぐダンを指差した。

その指はわずかに震えていた。怒りと、長年押し込めてきた悔しさが混ざっている。


「ああ、間違いないですよ……俺は、今までも、こいつに……ずっと、いじめられてきたんだ」


――小学生の頃。

ユキムラはまだ、人を疑うことを知らない、真っすぐな少年だった。

ある日の昼休み、ダンが笑顔で声をかけてきた。

「おい、ユキムラ、これ持って行ってくれないか?」

差し出されたのは、何の変哲もない教科書。

「分かった」

ただの頼まれ事だと信じ、両手で受け取り、何も考えずに移動教室へ向かった。


数分後、教室中がざわめき始めた。

「ない! ない! ない! 僕の教科書がない!」

委員長のタケルが声を上げ、机の中やロッカーをひっくり返して探している。

その視線が、なぜかユキムラに集まり始めた。

「……あいつが盗んだぜ」

誰かがそう囁くと、ダンがすかさず口を開いた。

「先生、俺見たんですよ。ユキムラがタケルの机から勝手に取ってったの」

さらに、窓ガラスを割ったとか、人を尾行して家を突き止めたとか――根も葉もない話を並べ立てる。


ユキムラの胸はざわついた。これは全部、ダンの仕込みだ。

だが、タケルの顔は怒りで赤く染まり、耳に言葉は届かない。

「お前、なんでこんなことをした?」

「……やってない」

涙がこぼれた。声は震えてか細く、相手の怒声にかき消される。

信じてもらえない――その現実が胸を締め付けた。


日が経ち、放課後の校庭。

「ユキムラ、プロレスごっこしようぜ」

ダンが挑発的に笑う。

その瞬間、ユキムラの中で何かが切れた。

「いいぜ……」

これまでの仕返しを一気に叩き込むように、拳を振るった。

一撃ごとに、胸の奥に溜まった怒りと悲しみが爆発していく。

大柄なダンでさえ、吹き飛ぶほどの重いパンチ。

だが、その光景をタケルが目撃してしまった。

「また君か!」

背後から飛び蹴りが飛んでくる。ユキムラは転がって避けたが、タケルに両腕をつかまれ、動きを封じられた。

「今だ! ダン君!」

次の瞬間、拳の雨が顔面に降り注ぎ、視界が赤く染まった。

腐ったトマトのように腫れた顔で、ユキムラは校門を後にした。


――そして今。

「ダンがやったんだ!」と叫ぶユキムラに、ダンは冷ややかな笑みを浮かべた。

「俺、悲しいぜ……小学校の頃からの親友が俺を疑うなんて」

その目は笑っておらず、奥底に冷たい光が宿っていた。


ジュラ先生は眉をひそめる。ダンの真面目そうな仮面の下に、わずかな違和感を覚えつつも、「今回のことは一度保留にしましょう」と告げる。

「何だよそれ……」

ユキムラは椅子を蹴り飛ばし、医務室を出た。

「ここにも……俺の居場所はねぇのか」

背中は、怒りよりも深い寂しさを滲ませていた。


廊下の影で、ジンとダンが小声で話していた。

「ダン、なんで自分がやったって言わねぇ?」

「学校生活始まってすぐ目をつけられたくないんだよ」

「目をつけるって……てめぇ犯罪者かよ。もう少しで俺も疑われてたんだぞ」

「でも、ジン君が“魔法の練習”を兼ねてやろうって言ったんじゃないか。実際にやったのも君だし」

ジンは不快そうに指を鳴らす。

「……しばらくは妙ないたずらはやめとけよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ