寮生活
ノブナガたちは買い物を終え、アズチ魔法学校の寮に戻ってきた。
ホールの掲示板で部屋割り表を確認した瞬間、思わず顔を見合わせる。
「……マジか」
ノブナガのルームメイトはミツヒデ、タクミ、そして残念ながらリュウセイだった。
「お前ら、よろしくなー!」
リュウセイがにやけた顔で、寮の極楽鳥組──中一○三号室の前で手を振った。
その言葉は空気に弾かれるように軽く消えた。
「何だよ、つれねぇな。ま、いっか。入るぞ」
ドアを開けると、そこは想像以上に広く、シンプルながらも調和の取れた空間が広がっていた。
白木のフローリングに、磨き込まれた大理石の玄関ホール。
廊下の突き当たりには共同のリビングルームらしき広い空間があり、右手には個別の寝室が四つ並んでいた。
壁には柔らかなオフホワイトの塗装が施され、天井にはほんのり光を放つ魔法照明。
どこか落ち着いた、でも魔法の学校らしい不思議な気配が漂っていた。
リュウセイはいち早く一番手前の寝室のドアを開け、中へ飛び込んだ。
「おお、広っ! 八畳くらいか? っていうか、ベッド……でけぇ!」
そこには部屋の大半を占領するような、ふかふかのクイーンサイズマットレスがドンと置かれていた。
カーテン付きの大きな窓、勉強机、魔法アイテムが収まる収納棚も完備されており、どう見ても中学生が一人で使うには贅沢すぎる空間だった。
一方そのころ、ノブナガたちは奥のリビングルームを見学していた。
「すげぇ……ここ、くつろぎスペースか」
ノブナガは感心したように声を漏らし、大型の魔導テレビのスイッチを入れてみる。
画面には魔法ニュースが流れていたが、ノブナガはそれを見ることなく、ふらりと窓辺へ向かった。
しかし、窓からの景色は期待外れだった。
大きな城の屋根が視界を遮り、遠くはほとんど見えない。
「……外れだな」
そう言って、後ろからやってきたリュウセイがノブナガたちを押しのけるようにして窓ににじり寄る。
「何だよ。外れじゃねぇか。何もかも……」
リュウセイは不満げにつぶやいた。
「いや、面白れぇわ」
ノブナガはむしろ興味をそそられたように微笑んだ。
そこへミツヒデが、少し声を低くして言った。
「そういえば、ノブナガ。ランチルームでの話……するか?」
「ああ」
ノブナガはミツヒデの方へ歩き、彼の寝室に入っていく。
背後でタクミが苦笑しながらつぶやいた。
「……何だよ、あいつら。やっぱりできてんじゃん」
ミツヒデの部屋はノブナガの部屋と同様に、整えられていた。
窓辺には本が数冊積まれ、簡素だが使い込まれた机の上には魔法陣のメモが広がっている。
ノブナガは部屋の真ん中に立ち、少し沈黙してから話し出した。
「話って言っても、大したことじゃねえ。ただ……俺が六歳のとき、魔法界でカゲロウによる大きな反乱があったんだ。入学式の朝に現れた、あいつらと同じだ……カゲロウの奴ら」
部屋の空気が一瞬にして重くなる。
ノブナガの言葉には、何か封じ込めていた記憶の扉を静かに開くような、そんな気配があった。




