滝とノブナガ2
そして、三か月の月日が流れようとしていた。
「父さん!」
「おう、ノブナガ。滝は切れるようになったか?」
「……いや、まだ。でも、もうすぐ切れるようになると思う」
「そうか……。なら、お前に渡しておかねばならんものがある」
「え?」
ノブヒデは手首にはめていた「六かける六団子」から、一枚の紙と三つの球体を取り出した。
「これは、妖怪を封じた球だ」
「妖怪って……昔、人に悪さをしたという、あの妖怪?」
「ああ。その力を、父さんがこの球に封じ込めた」
ノブナガは言葉を失った。
「これを使えば、魔力は絶大な力となる。だが、常人が使えば命を落とすかもしれない。それほど危険な代物だ」
ノブヒデは、三つの球をノブナガの手にそっと渡す。
「それから、これもだ」
ノブヒデは仮面を一枚差し出した。
「父さんとお揃いだぞ」
そう言って、ノブヒデは机の上に自分の仮面を丁寧に立てかけた。
ノブナガは黙ったまま、その仮面を見つめた。
「……そして、これが最後だ」
ノブヒデは一枚の紙をノブナガに見せる。
「この紙には、父さんの意志が込められている。お前が一人前になるまで、この紙は存在し続ける」
「え……?」
「心配するな。一人前と認められた瞬間、この紙は自然と燃え尽きて灰になる」
「父さん……?」
「なんだ?」
「死ぬの……?」
「さあな。お前を一人前に育てるのが父さんの務めだった」
「じゃあ、母さんには……なんて言えばいいんだよ」
「すまないな。母さんは芯の強い女だ。約束通り、お前の前に現れるのは九カ月後の入学式だろう」
ノブナガの瞳に、じわじわと涙がにじみ始めた。
「ありがとう……父さん。本当に……ありがとう」
病室の外には、一人の女性が立っていた。壁にもたれ、腕を組み、静かに時を待っている。
四十代前半ほどの年齢だろうか。その名はゴゼン。アズチ魔法学校の校長であり、彼女にとってルールは絶対だった。
入学式まで、ノブナガに会うことは許されていなかった。
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