新入生12
城の外壁は淡い虹色にうっすらと光を放ち、風に合わせて瞬きする。まるで生きているかのように呼吸していた。
「あれが、アズチ魔法学校の本校舎だ」
ヨシモトが静かに言った。
「すげえな……なんか、絵本の中の城みたいだ」
ノブナガがそう呟いたそのとき、エレベーターの金属音が「ゴン」と鳴り響き、ゆっくりと扉が開いた。
「ふう……完璧な上昇でした」
イエヤスが勝ち誇った顔で現れる。
「エレベーターで汗もかかずに登ってくるやつ初めて見たわ……」
「気圧の変化で耳抜きしたら、ちょっと鼻血出た」
「弱っ!」
城の大扉が開き、導かれるように内部へと入る。
広い回廊を抜けて最初にたどり着いたのは、白く磨かれた石の床に、ガラスのような天井から光が差し込む壮麗な大ホールだった。空気は涼しく、どこか神聖な静けさが漂っている。
大ホールの一番奥には、先生たちを含め学校関係者たちが立ち並んでおり、一同にノブナガたちを見ている。
その中で中心に立ち、暖かいまなざしで生徒全体を見まわしている女性がいる。
「母さん……」
ノブナガが思わずつぶやいた。
一瞬だけ隣にいた少年が「ただいま、母さん」と言い、そのまま誰にも気づかれず姿を消していく。
ノブナガはそちらを振り返ったが、もう何もいなかった。
――なんだったんだ、今のは。
それ以上追及する暇もなく、教師たちが続々と現れた。
「では、静粛に」
アヴァルトの声がホールに響く。
「これより、アズチ魔法学校の入学式を開始します!」
壇上に立ったのは、威厳を湛えた白髪の校長、ゴゼン先生。
その隣にはジュラ先生が微笑みを浮かべて立っている。
「皆さん、ようこそ。ここからが、あなた方の物語です。まずは、“幻想師”の魔法を体験してもらいましょう」
「幻想師……?」
「なんか、かっこいい響き……」
ゴゼンとジュラが杖を構え、静かに詠唱を始めると、空間がすうっと揺れ、次の瞬間、ホール全体がまるで深い森の中に変わっていた。床は苔むした大地に、天井は夜空に。椅子は花となり、机はキラキラした湖の波紋のように広がっていた。
「わああっ……!」
歓声があがる。生徒たちは思わず立ち上がり、両手で空気を掴むように感触を確かめていた。
「すっげー……」
「これが……魔法なんだ……!」
「……ふん。子どもだましかよ」
ユキムラがひとり、つまらなさそうに呟いた。
けれど、その目には、確かに驚きが浮かんでいた。
――アズチ魔法学校の夜は、まだ始まったばかりだった。
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