新入生11
「先生っ!」
一際高い声が谷に響いた。
階段の下で、イエヤスが手を振って叫んでいた。
「先生! 見てください、あそこにエレベーターが!」
「……見えてますよ」
アヴァルト先生が淡々と答える。
「先生、何人かは乗ったほうがいいと思います! 特に、こう、優雅で繊細な人とか!」
「優雅で繊細?」
「つまり……私とか、私とか、あと私です!!」
「あなたの自己申告は、いつも独創的で面白いですね」
「ほめてないですよね、それ!」
アヴァルトは腕を組み、少しだけ眉を上げた。
「若いうちの苦労は買ってでもせよ――でしたっけ」
「そういうの、現代ではパワハラって言うんですから!」
「現代魔法社会では“修練”と呼びます。……過去の新入生でエレベーターを使った生徒はいませんが、、、どうしますか?成績に反映されますよ!」
「ん、、、、無理です!!!」
イエヤスは目をうるませたかと思うと、フンッと鼻を鳴らして無言でエレベーターに駆け込んだ。
「え、ほんとに乗るんだ……」
後ろの生徒たちがざわめいた。
「“姫様登頂拒否事件”として後世に語り継がれるな」
ユキムラがぼそっとつぶやくと、周囲からくすくすと笑いが起こる。
一方、残された生徒たちは渋々ながら階段を登り始めた。石段は思ったよりも滑りやすく、数段で息が切れた。
「ぜー、ぜー……脚が……死ぬ……」
「ねぇ、あと何段?」
「数えるな……余計つらくなる……」
ノブナガも、眉間に汗をためながら上を見上げた。
と、そのとき。
「ねぇ、ノブナガって、けっこう体力あるの?」
隣でヨシモトが、けろっとした顔で話しかけてきた。
「いや、ない……つーか、なんでそんな平気そうなんですか?」
「普段から登ってるからね、ここ。ほら、毎日部活に来てるからさ」
「まじか……地元民の余裕……」
「よし、着いたらアイスおごるよ」
「えっ、マジで?」
「マジマジ。アイス部がこの上に屋台出してる」
「なんだよその部……!」
「嘘だよ、そんな部活ないよ。ボランティアみたいなもん」
坂の上には、ついにアズチ魔法学校の本城が現れた。
山の頂にそびえるその城は、名古屋城を思わせる巨大な和風建築でありながら、魔法で磨き上げられた瓦は宝石のように光り輝き、天守の両端には“金のエビフライ”が金鯱のごとく飾られていた。
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