新入生8
その声が一斉に響き、ノブナガの心が熱くなる。
けれどその感情を表に出すのは、少し照れくさかった。彼はそっと腕をさすりながら、鳥肌が立っていることを誤魔化す。
「さあ、生徒紹介とクラブ勧誘タイムだ!」
「“世界のグルメ部”って知ってる? 授業より楽しいよ!」
「コーラス部! 魔法で四重唱もできるんだから!」
生徒たちはあっという間に囲まれ、ノブナガも口元を緩めた。
「えへへ……ちょっと、考えてみます」
そのとき。
「おい、君……ノブナガ君じゃないか?」
どこか懐かしい声が人混みの中から飛んできた。振り向くと、そこには見覚えのある笑顔が。
「ヨシモトさん……!」
「おう、元気そうで何よりだな。これから教科書や制服、いろいろ買いに行くんだろ?」
「たぶん、そうなると思います」
「案内してやろうか?」
「えっ……」
「無理にとは言わん。でも、昔の知り合いが困ってたら――な?」
ノブナガはすぐに、笑顔でうなずいた。
「……本望です!」
ノブナガの返事に、ヨシモトはニヤリと笑った。
「その気になったか。ま、案内料は笑顔でいいぞ?」
「それなら、毎日でも払えますね」
「お、それ言ったな? 毎日付き合ってもらうからな!」
そんな軽口を交わしながら、一行は再びアヴァルト先生の案内で歩き始めた。
道沿いには、木造の長屋が等間隔に並んでいる。
いずれも屋根には魔除けの符が掲げられ、煙突からは魔法薬の香りを含んだ白煙が静かに立ちのぼっている。建物の間をぬうように、小道が左右へ分かれ、敷地の奥へと続いている。
少し坂をのぼると、左手にレトロな雰囲気の「魔導ゲームセンター」と、木製の看板に手描きの魔法映写機が描かれた「星影シアター」が姿を見せた。
「え、映画館あるの!? 学校に?」
右手には川を挟んで「夜の店」と書かれた、赤ちょうちん風の怪しげな看板が並ぶ通りが見えた。
これらは、教師の監視のもと“誘惑研究”として存在しており、なぜか店先に魔法スライムが出入りしている。
「……あっちは立ち入り禁止です」
アヴァルトが即座に口をはさむ。
「というか、なんで学校にああいうゾーンが……」
「学び舎とは、誘惑と向き合う場所でもあるのです」
ドークがしれっと言ってのけた。
「いやいや、説得力! なさすぎ!」
ユキムラが突っ込み、周囲が笑いに包まれる。
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