17話 印の特訓
廃校の一件から数日が経った。あれから特に大きな出来事もなく、平穏な日々がまた流れ出していた。とはいえ何もないということはなく、日ごとに小さな〈タタリ〉による事件が起きるので、主に颯介や純花が単独で対応していた。
僕の方はというと、司との特訓の日々が続いていた。
「初任務に行って分かったと思うけど、優太には〈タタリ〉戦うための素の実力が足りない。だからこれからは僕が鍛えてあげるよ。」
「先生、初めから教えてくれてたら良かったんじゃあ。」
「まずは、実戦経験の方が大事だと思ってね。まさか、あのレベルが出るとは想像してなかったけど。なんとかなったからまあよし!」
相変わらず適当だなあと思った。こうして、司との特訓が始まったのだが。
「残念、また僕の勝ち。」
この人ヤバすぎる!!まず説明から実践まで、何もかもがザツい。素人への配慮が全くない、軽い説明だけしたら後は実践のみ、しかも手加減をしらないのかフルボッコにしてくる。これじゃあ試すことすらできない。
特訓の時間は、何もできずにただボコボコにされるのが恒例となっていた。
「立てるかい?」
「す、少し休憩を・・・」
「仕方ないね。ならその間に〈印〉についておさらいしておこうか。今君の知ってる範囲で僕に説明してみてくれ。」
「わ、分かりました。」
〈印〉や〈霊力〉などについては、颯介から聞いていたため、ある程度理解はできていた。僕は、司が差し出したドリンクを受け取り一休みしながら、今まで教わったことを話した。
「生物が生まれ持つエネルギーが〈霊力〉で、それを扱う技術が〈印〉ですよね。」
「そうだね。」
「そして、〈印〉にも種類があって、〈霊力〉を弾丸のようにして遠距離攻撃する【砲印】、〈霊力〉を集めて爆発させる【爆印】、〈霊力〉を操って相手を拘束また補助が可能な【錠印】、〈霊力〉を剣術に応用した【斬印】に分けることが出来ます。」
「それで?」
「この4種類の〈印〉の中には、それぞれに壱式から終式まで、5つの技があって、それらを使うことで〈タタリ〉との戦闘を有利にできるんですよね。」
「その通り!〈印〉の基礎についてはしっかり頭に入ってるね。それじゃあ今習得しようとしてるのは何かな?」
「【壱式斬印 一閃】と【壱式砲印 蒼炎】の二つです。」
「正解。一閃は〈霊力〉を込めた居合技、蒼炎は〈霊力〉を指先に集めて発射する技だ。どちらも〈印〉の基本技術。この二つは、戦闘部隊ならもれなく習得してる。だからこそ君にも習得してほしいんだけど、中々苦戦してるね。」
「うぅ、すみません。どうしても〈霊力〉を使う感覚が掴めなくて。」
「一閃は鞘に納めた刀身に〈霊力〉を流す。蒼炎は指先に〈霊力〉を溜めて放つイメージだよ。こんなふうに。」
そう言いながら見本を見せる司だが、こっちからしてみれば、それができれば苦労しないんだよ!と言いたくなってしまう。それくらい〈霊力〉を使う感覚を掴めずにいた。
そんなときだった。
「あ!まだやってたの?」
「純花戻ったのか。」
「ええ、案外早く終わったから見に来たんだけど・・・大変そうね優太。」
「全然できないし、ボコボコにされるしで散々だよ。なにかアドバイスとかあれば教えてほしいんだけど。」
「そう言われても。使えるようになったのは随分前だしなー。ごめん、今感覚でやってるから分かんない。」
「そっか。」
「あっ!苦戦してるなら信元さんに教われば?」
「しんげんさん?」
「えぇ、あの人には頼りたくないなぁー。僕の指導力が低いと思われちゃうよ。」
「安心しなさい、そんなのみんな分かってるから。」
「え!?」
「で、誰なんです?信元さんって。」
「黄道院の第6席、指導・教育担当の山部信元さん。名前の信元を読み替えて信元さんってあだ名がついてるの。」
「へえ、そんな人がいるんですね。」
最初からその人で良かったのでは?と疑問が浮かんだが、司へのせめてもの配慮として口には出さないことにした。
「信元さんならバッチリ教えてくれると思うわ。少なくともコイツよりはよっぽど分かりやすい。」
「そんなに凄い人なんだ。ちょっと教えてもらいたいかも。」
「ああ、優太まで。」
「アンタの指導力が原因よ。でも、あの人も忙しいでしょうし時間取ってもらえるかしら?」
「忙しいって?」
「信元さん一人で、部隊の新人や見習いの指導をしてるのよ。戦闘から教育までね。」
「え!?」
「そう、それもあってあの人に手伝ってもらうのは避けたんだけど、仕方ないかな。今日いっしょに聞きに行こうか。」
「えっ、いいんですか?」
「ああ、早く習得できるに越したことはないしね。それに、今日は会う機会もあるからね。」
「あれ?これからなにかあるんですか?」
「今日はこれから黄道院のメンバーで会議があるんだ。議題には、君の経過報告も含まれているから、これからいっしょに来てもらうんだけど・・・言ってなかったっけ?」
「は、初耳ですよ!」
こうして、僕は急遽黄道院の会議に赴くことになった。