14話 ぶっつけ本番の作戦
僕たちは、あの化け物を倒すため、もう一度廃校内を手分けして探索し始めた。
「見つかったかー?」
「いや、全然。どこにも見当たらないよ。」
「あんだけのオーラがあればすぐ分かると思ったんだが、いっちょ前に気配まで隠してやがる。」
「あと見てないところは・・・さっきの部屋かな?」
「流石に出会った場所にはいねえだろーと思ってスルーしたんだが・・・」
そう話しながら、あの〈タタリ〉と対面した校長室へと向かった。
「あれは?」
「間違いねえ、居やがったな。くそっ、最初から見ときゃよかったぜ。」
部屋の中には、天井に空いた穴をふさぐよう、大の字になりながら両手両足でしがみつく〈タタリ〉の姿があった。
「隠れてる・・・の・・かな?」
「そのつもりなんだろ。丸見えだけどな。」
颯介は呆れた表情を見せながら続けた。
「それじゃあ、とっととやっちまうか。優太も構えとけよ。」
「うん。」
「上手くいくといいが・・・起きろ、天喰。」
そう言って彼は、〈心器〉を構えた。
色々と知ったあとで改めて彼の〈心器〉を見ると、一見普通の日本刀だが、よく見ると刀身の模様が牙のように鋭くなっているように見えた。彼は、〈心器〉での攻撃を食事と呼んでいた。その感覚は、あながち間違いではないのかもしれないと僕はこのとき思った。
「・・まで貯め・・・き出すイメージ。」
颯介は、目を閉じて集中しながら、何かを呟いている。そして、〈タタリ〉に向けて切っ先を構えた。
「なんか上手くいく気がする。優太は部屋から出ててくれ。」
「えっ?外にいていいの?」
「巻き込んじまう可能性がある。念のためだよ。」
「分かった。」
そう言って僕は部屋の外に出た。それを確認した颯介は、構えた〈心器〉に
力をこめ始めた。
「天喰、今まで貯めたもん全部吐き出せ!」
すると切っ先から刀が、まるで口のように上下に真っ二つに開いた。その中心には、禍々しい色をしたエネルギーの塊ともいうべきものができており、それはビーム状の攻撃となって〈タタリ〉目掛けて解き放たれた。
放たれたエネルギーは〈タタリ〉に直撃し、上の部屋をも巻き込んで吹き飛ばした。元々あった天井の穴はさらに広がり、上の部屋も貫いているのが確認できた。穴を見れば空が見えるくらい、すっぽりと空いた状況がこの攻撃の軌道と威力を物語っていた。だが肝心の〈タタリ〉の姿は消し飛んでおらず未だ健在であった。
「硬すぎだろお前。」
「イ、イ、イタイ、ヨ。ド、ドウシテコンナコト。」
「みーつけたってやつさ。次お前の番だ。」
颯介は、奴が無事であることに一切の動揺を見せず、平然と向かい合っていた。
「ズ、ズルイ、カクレテルトコ、コワシテル。ハンンソク。」
「壊さなくても見つけてたんだよ。」
「ウソダ!ウソダ!」
「なら、もっかい隠れるか?お前。」
「イイヨ!ソレデ、ボクガミツカルハズナイ。」
「じゃあ、はよ隠れろー。」
「ウン。」
そう言って、崩れた部屋から飛び出た〈タタリ〉は、また廊下の奥へと消えていった。その様子を見届けた颯介は天井を見上げながら、フゥーと息を吐いた。
「一先ず、何とかなったが・・・どうしたもんか。」
「よくあの化け物と会話できるね。」
「どのみち上手くいく可能性は低かったからな。あれくらい想定してた。まあ、〈心器〉の可能性が見えたのは良かったけどな。」
「すごい威力だったよ、あれ!」
「でも、奴には通じなかった。ダメージは多少あったと思うが。」
「そうだね・・・颯介くんの攻撃でもダメとなると、もう出来ることはないのかな。」
そして、ひと時の沈黙がその場に流れた。
「仕方ねえ。こうなったら攻撃し続けてみるか。」
「ん?どういうこと?」
「まんまだよ。奴は今かくれんぼをしてるつもりだ。なら見つけた瞬間に一撃入れる。続けて、休む暇を与えずに攻撃を入れれば・・・」
「結構無茶な作戦だね。」
「もうこれしかねえだろ。それに、何もしねえのも嫌なんだろ。」
「そ、それは、まあ。」
「決まりだ。じゃあまた探すぞ。」
そして、僕たちはまたあの〈タタリ〉を探し始めた。〈タタリ〉自体はすぐに見つかった。今度は2階の廊下の天井に張り付いていた。
「隠れてるつもりか?コレ。」
「擬態してるつもりなんじゃないかな。色が、天井に合わせてより白くなってるし。」
「カエルかよ。じゃあ行くぞ。今度はお前のがメインだ。外すなよ。」
「うん。」
そう言って僕はひと息つくと、心の中で〈心器〉の名、月戈星辰と呼び鞘から抜いた。その後〈心器〉を横に振りかぶりながら柄を握る両の手に力を込めた。
「みーつけた。」
僕はでかい声でそう叫んだ。すると〈タタリ〉は、一瞬ビクッとし動きが止まった。その隙を逃さないように、〈心器〉を横に薙ぎ払い今まで通りに斬撃を飛ばした。
その斬撃はまたしても〈タタリ〉に直撃した。すると背後で構えていた颯介が声をかけてきた。
「わざわざ見つけたって言わなくていいのに。真面目か。」
「一応・・ね。」
「さて、こっから畳みかけたいが・・・もう起き上がんのか。」
見ると、何事もなかったかのように、平然としている〈タタリ〉の姿があった。
「マ、マ、マタミツカッタ。ナ、ナゼ?」
「下手くそなんだよてめー。」
「ソンナワケ・・ナイ。ボク、カンペキダッタ。」
「だから・・・」
「オマエラガ、ズルシタ。」
「はあ!?」
さっきと同じように颯介が〈タタリ〉と会話していたのだが、その様子が変わり始めた。
「マタズルシタンダ。」
「な訳ねーだろ。だったらもっかいしても・・」
「オマエラヒキョウモノ。タノシクナイ。タノシクナイ。」
「ヤベえ。優太!きぃつけろよ!」
「う、うん。」
今まで消えていた〈タタリ〉のオーラが再び溢れ出し、周囲には禍々しい空気が漂い始めた。
「タノシクナイ、タノシクナイ、タノシクナイタノシクナイタノシクナイタノシクナイタノシクナイタノシクナイ、タノシクナイ!!オマエラ!キエチマエー!」
「後ろに走れ!優太!」
「うん!」
僕たちが、後ろに振り返り駆け出したのに併せて〈タタリ〉も、こちらに向かって襲い掛かろうとしていた。その瞬間だった。
「ウワッ!?」
僕は、廊下の床に足を滑らせてしまった。
「優太!?」
颯介は、僕が遅れたのを見て〈心器〉を使い〈タタリ〉をけん制しようとしたが、それより早く〈タタリ〉の攻撃は僕に届きそうだった。
ああ、ここまでか。あんな無茶なこと言わず、素直に逃げる方法を探せば良かったかな。そんなことが頭の中を駆け巡り始めたときだった。
バリィンと廊下の窓ガラスが割れる音がした。直後、ドガァンという音共に僕を襲おうとしていた〈タタリ〉が1階へと吹き飛んだ。そして〈タタリ〉がいた場所には、ゴーグルをかけた見覚えのある長身の美青年が立っていた。
その男は、ゴーグルを外しながら僕たちに話しかけた。
「やあ!無事かい?二人とも。」
その声と姿で僕たちは、男が誰か分かり二人揃って叫んだ。
「司!」「先生!」