13話 提案
「おい。少し話がある。」
化け物が去ったあと颯介はそう言って僕を呼んだ。
「今の見ただろ。奴に出会った瞬間、俺たちは動くことすらできなかった。」
「っ!?それは。」
「あの化け物にもう一度対面した上で、それでも逃げたくないっていうのか?」
はい!そんな感じですぐに言葉を返すことはできなかった。
覚悟はしていたつもりだった。もう一度戦いに行くつもりだった。それでも、また動けなかった。彼がこう問いかけてくるのも当然だろう。でも、だからこそ奴とは向き合わないといけない、向き合うことで僕はもう一歩踏み出せる気がする。強くなれる気がするんだ。だから、怖くても恐ろしくても踏み出さなければいけないそう思った。
少し間をおいて僕は答えた。
「確かに動くこともできませんでした。でも、だからこそ僕は奴に立ち向かいたい。そうすればもっと成長できる気がするんです。」
そう言い終えると、颯介は、ハアァとため息を一つ吐いて話した。
「分かったよ。なら、こっからは奴と戦う策を考える。」
「え!?それって・・・」
「どのみち、奴を倒さねえと出れねえだろうしな。それに、奴はさっき探しに来いって言った。多分生まれたてで知能が高くないんだろう。かくれんぼかなんかだと思ってる可能性が高い。」
「つまり?」
「ある程度考える時間があるってことだ。お前も協力しろよ、えーと何だっけ名前。」
「あっ、ゆ、優太です。」
「優太いっしょに奴を倒すぞ。」
その言葉を聞いて僕は満面の笑みと共に返した。
「はい!」
「それともう一つ、敬語は今後なくていい。」
「えっ、でも。」
「いいんだよ、そういうの別に、それに年そんな変わんねーだろ。何歳?」
「今年15です。」
「なら1コしか違わねーし、ぶっちゃけうちの組織・・というかうちの部隊に上下関係あんまねーし。気楽に話しかけてくれ。」
「あっと、わかり・・わかった。」
「それでいい。じゃあ改めて作戦考えるか。」
「うん。」
こうして僕たちは奴を倒す手段を考えることにした。併せて廃校からの出入りや外部との連絡ができるのかも試すことになった。
「ダメだな。」
「外に出ようとしても、何故か中に戻されるね。」
「状況は変わらねえ・・か、連絡も取れそうにねえし、どの道奴を倒さねえとダメ・・か。問題は奴をどう倒すか。」
「奇襲をかけるのはどうかな?」
「良いとは思うが、やるなら一撃で仕留める必要があるからな。そこまでの火力が俺たちにあるのかって話だ。お前の〈心器〉の力はなんなんだ?」
「ごめん・・正直、僕もまだどんな力なのか分からないんだ。ただ、さっきみたいに斬撃を飛ばすことはできるよ。」
「なるほど。あの威力だと牽制目的に使うのがいいか。」
「颯介くんの〈心器〉はどんな力なの?」
「俺のか?簡単に言うと、切ったものを食うんだ。」
「え!?」
「はたから見れば削ってるように見えるだろうが、俺は刀自身が食事をしてるんだと思ってる。だから、こいつの口に合わねえもんとか、単純に実力差あるやつは切れなかったりするんだよな。」
「へえ、ちなみに食ったものは何処へ?」
「あー、俺もそれ考えたんだけどなー、ぶっちゃけよく分からん。」
「えー。」
「俺の〈霊力〉に還元されてるんじゃね?知らんけど。」
彼も自分の〈心器〉については、分からないことがあるみたいだ。でも食ったものがどうなるかは気になる。もしかすると食べたものが蓄えられてるとすると・・・彼の〈心器〉は、もっと強力な力が出るかもしれない。
「その〈心器〉に力が蓄えられたりしてないかな?」
「どういうことだ?」
「えーっと、例えばだけど、〈心器〉が食べたものをエネルギーに変換して、その刀とか鞘に貯めてたりしてないかなって。もしそうなら貯めた力を放出することもできそうだけど・・・どうかな?」
「なるほど・・・悪くねえ考えだ。」
「もし、今まで颯介くんが〈心器〉で倒してきたものが、全部蓄えられてるとしたら・・・かなりの威力になると思うんだ。」
「それができりゃ最高だが・・・ダメ元でもやってみるか。お前はさっきの斬撃使って援護してくれ。」
「分かった。」
「ただ不発の可能性もある。その時は、即座に引けよ。」
「あ、うん。」
「いいか、生き延びることも重要だからな。そのあと作戦をまた考えればいい。」
「わ、分かってるよ。」
余程さっきのイメージが彼に残っているのか、それとも、逃げたくないというのが表情に出てしまっていたのか念を押されてしまった。
「じゃあ行くか。」
「あ、待って、外に連絡できないのはどうするの?」
「そっちはもういい。このレベルが出てくると組織の方から騒ぎ出すはずだ。最悪、組織を信じて延々と持久戦をすることになるかもしれねえが、一応そっちの覚悟もしとけよ。」
「うん。」
そう頷くと、僕たちは廃校内に潜んだ〈タタリ〉を探し始めた。