12話 ヘタレの覚悟
「ネエ、アソンデヨ。」
化け物がそう言った瞬間、僕たちは、一目散に逃げ出した。ハッキリと姿を見ることはできなかった、それでも奴の強さをひしひしと感じた。あの場にとどまっていたら、間違いなく命がなかったであろうと言い切れる。あの初めて〈タタリ〉と出会った日とは比べ物にならない禍々しいオーラを奴はまとっていた。
そして、誰もいなくなった部屋の中で、残された化け物は笑いながら呟いた。
「カクレンボダネ!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「はあ、はあ、はあ。」
二人とも息が上がっていた。
「くそっ!ふざけんな!あんなのがいるとか、聞いてねえぞ。」
颯介は、動揺しながらあの化け物について愚痴をこぼしていた。僕は・・・
「これからどうする!?ここから出れるか試すか?いや、元凶は十中八九奴だ。奴を倒さないと恐らくダメだ。なら何とか外に連絡できないか試してみるか。おい!ヘタレ!聞いてんのか!お前も考え・・」
「・・げた。」
「あ!?」
「また、逃げた。」
「逃げたっ・・て、お前、さっきのことか?気にすんなよ、あいつは例外だ。あんな化け物まともに相手できるかよ。」
「それでも!」
僕は、あの時司の前で誓った。恐怖から逃げずに立ち向かうと、逃げてばかりの自分を変えるんだと。
「僕は、覚悟を決めたんです。もう逃げないって・・・それなのに、また、ぼくは・・・」
「お前が覚悟を持ってきてるのは分かった。だが、それとこれとは別だろ。俺たちの実力が足りねえことは、お前も一目で分かったはずだ。あのまま戦ったところで俺たちは一方的に蹂躙されるだけだ。」
「そんなのは分かってます!」
僕は、このとき今までにないくらい声を荒げていたと思う。
「でも、僕は、自分を変えるために〈心器〉を手にしたんです。今ここで逃げてたら、今までと変わらないんですよ!!だから・・・僕は、戻って戦います。」
「バカいってんじゃねえ!お前!何言ってるか分かってんのか!命を捨てにいくようなもんだぞ!」
「それでも、もう一度立ち向かわないと、僕は変われない!」
「ふざけんのも大概にしろよ。」
そう言って颯介は、恐怖に震えながら、無謀なことを口にする僕の胸ぐらをつかんだ。
「俺は、お前のためも思って言ってんだぞ!いいか、ハッキリ言ってやる!俺たちじゃあいつに勝てねえ!」
「っ!!」
「悔しいけどな・・・今の俺たちにあいつを倒す手段はねえ。」
「けど、何もしないわけには・・・」
「だから、今、どうやって応援を呼ぶか、どうやって逃げるかを考えろつってんだろうが。」
「僕は!もう逃げたくないんです!ここで逃げるようなら、僕は2度と変われない!」
なんだよ、なんなんだよ!こいつ!
ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!
今、俺たちが戦ったところで敵わない相手なのはこいつも分かってるはずだ。見ろ!震えてるじゃねえか、怯えてるじゃねえか。なのに、震えてるくせにこいつは戦うつもりだ。怖いくせに立ち向かうつもりだ。
なんでだ?なんで立ち向かおうと思える?あんな化け物と戦うなんて無謀だ!だったら奴から隠れて、逃げて、生き延びて、助けを待つのは当然の選択だろうが!俺は、間違ってねえはずだ!なのに!これじゃあまるで・・・ヘタレは俺の方じゃねえか・・・
「僕は・・・戻ります。」
「なっ!?」
そう言って僕は颯介の手を振り払い戻ろうとしたときだった。
「ミーツケタ!」
「!?」
さっきの化け物が、僕たちのすぐそばに来ていたのだ。咄嗟に〈心器〉を構えようとするが、僕たちは完全に不意を突かれてしまっており、奴の動きに間に合わないと感じた。そして奴の手がまたしても僕の肩に触れたときだった。
「ツギキミガオニネ!」
「は?」
「ボクガツギカクレルカラ、スコシシタラサガシニキテヨ。」
まるで子どものように無邪気な姿を見せると、そのまま〈タタリ〉は廊下の奥へと消えていった。
「たす・・かっ・た?」
僕たちは、まさに九死に一生を得るというような体験をこのとき味わった。
「おい。少し話がある。」
颯介はそう言って僕を呼んだ。