10話 廃校のタタリ
食事を終えた颯介は、早速〈タタリ〉を退治しようとしていた。
「さて、エネルギーも補給できたし続きいくか。」
その表情は、少し明るくなった気がした。
「せっかく来たんだ。ちゃんと見とけよヘタレ。」
「は、はい。」
そう言うと、彼は、残っている〈タタリ〉を、片っ端から退治し始めた。
廃校に現れた〈タタリ〉の種類は様々だった。あの時見たような4本腕の奴がいたかと思えば、さっきの人影のような奴に、一目見て、この世のものではないと思えるような化け物然とした姿をしている奴もいた。しかしこれらに共通していたのは、どこか一点を見つめまったく動かないことだった。
その隙をつくかのように、颯介は1体また1体と、淡々と倒していった。だが〈タタリ〉の倒れていく様子に僕は、違和感を覚えた。何というか彼の攻撃は、切るというよりむしろ・・・
「・・・削り取っているような?」
ふと、心の声が漏れてしまった。すると颯介は言った。
「よく気づいたな。俺の〈心器〉の能力がそんな感じなんだよ。」
「へえ、すごいですね。」
「そんないいもんじゃねえけどな。〈霊力〉もめっちゃ使うし面倒くせえ力だよ・・・」
「れい・・・りょく?」
「その辺も知らねえのか・・・仕方ねえ、飯の恩もあるし、残り倒しながら教えてやるから、ちゃんと聞いとけよ。」
そう言うと、彼は〈タタリ〉退治のついでのように、僕に〈霊力〉などについて語り始めた。
〈霊力〉、生物が持っている魂から生まれるエネルギーのことで、〈極星省〉の人たちは、この力を使い〈タタリ〉を倒しているようだ。魂から生まれるエネルギーのため〈心器〉の性能にも直結しており、うまく扱うことで能力を向上させることも可能。
現に、颯介は〈霊力〉を込めた斬撃を飛ばしたりしており、削り取る範囲を広くしているようだ。恐らく出会った時の斬撃の正体もこれだろう。
そして〈心器〉以外の戦闘手段であり、〈霊力〉を活用した、古来からの技術のことを〈印〉と呼ぶらしい。これが使えると、〈霊力〉を銃弾のように飛ばしたり、爆発させたり、捕縛に使ったり、剣術に応用したりと幅広く使えるみたいだ。見本は見せてもらえなかったが、以前司が使っていた、砂ぼこりを操り閉じ込める奴がそれだろうと想像することはできた。
また併せて彼は〈タタリ〉についても、説明してくれた。
「この化け物どものエネルギー源は〈禍〉と呼ばれるものだ。」
「神々の・・・負の部分っていうやつですか。」
「そうそう。基本的な〈タタリ〉は〈禍〉の塊なんだ。〈タタリ〉を倒すことは、〈禍〉を消滅させることと同じだ。だから倒れたら跡形もなく消えちまう。んでもって、こういう奴らは〈霊力〉をぶつけるだけでも対処できる。だが、〈タタリ〉にはもう一つ種類がある。」
「神が堕天した姿でしたっけ?」
「その辺は、知ってるんだな。その通りだ。正確に言えば、神が〈禍〉に飲まれてしまった姿といっていい。このクラスだと、〈霊力〉だけじゃ厳しくなる。実力や〈心器〉の能力、味方との連携も大切になる。正直単独で対処するには司レベルにならねーと。」
「そんなに強いんですね。」
「ああ、そして俺はそのレベルまで強くならねーといけねえんだ・・・」
〈タタリ〉を倒しながら、そう話す彼の声は少し小さく表情も暗くなっていた。だがその瞳には、決意めいた何かがあるように感じた。
その後彼は何事もなかったように話を続けた。
「それでだ。これらの〈タタリ〉の強さを組織は色で分類してる。」
「色ですか?」
「弱い順に黒、白、黄、赤、青、紫の6段階だ。例外もいるが、取り敢えずこれを覚えときゃいい」
「6段階・・・ここに発生してるのは?」
「強さ的には黄色くらいあるのもいるかもしれねえが、こんな状態だし黒レベルの雑魚だな。」
「併せて言っておくと、〈禍〉の塊でできてる〈タタリ〉の上限が赤だと思ってろ。赤以上からは、単独での対処が難しい〈禍〉に飲まれた神や、その成り損ないが分類されてくる。」
「成り損ないとかもいるんですね・・・ちなみにどうやって見分けたらいいんです?」
「強いか弱いかで分かるだろ、そんなもん。」
「あ、そうじゃなくて・・・」
「そうだなあ・・・あっ。」
「言語を話すかどうか、これが分かりやすいな。会話ができるような奴だと青以上は確定な気がする・・・俺も確証は持てねーけど。」
「なるほど・・・」
「さて、これで、残り1体と」
そうこう話している間に、廃校の〈タタリ〉は残り1体となっていた。僕に説明をしながら、簡単そうに〈タタリ〉を倒していく様子は圧巻だった。動きに無駄がなく、相手に反撃する暇も与えずに、最短で討伐していく姿はとても同年代とは思えなかった。僕には、まだまだ何もかもが足りないと改めて実感した。
そんなことを思いながら見ていると颯介からいきなり呼びかけられた。
「おい!ヘタレ!」
「はい!?」
「今までの〈タタリ〉を見て気づいたことはあるか?まさか・・・ボサッと見てたわけじゃねえよな。」
「え!?えーと。」
いきなりの問いかけに、驚いてしまった。
気づいたこと・・・そう言われて僕は、今までの〈タタリ〉について振り返った。正直、僕は〈タタリ〉について、まだまだ知らないことの多い素人だ。もしかしたら、僕の知らない特徴が、今までの奴らにはあったのかもしれない。もしそうであれば彼の望む答えは出せないかもしれない。
だから、僕には僕にできることを答えよう。間違っていてもいい、知らないことなら今日覚えよう。そう考え、僕は自分の感じた違和感を答えることにした。
「奴らは、まったく動かずにどこか一点を見つめていました。最初は、どこか適当なところを見てるのかと思いました。」
颯介は、僕の答えに対して何も言わず、ただ頷きながら聞いていた。
「ですが、グラウンドにいた奴は校舎の方を、2階の奴らは下を見るようにしていました。そんな感じで、他の奴らの視線も特定の場所を見つめているとしたら、奴らの視線交差するところに何かある。」
「・・そう、思います・・・あ、あの、僕が、見た数は少ないので違ってたらすみませ・・・」
「いや、あってるよ。」
彼は、優しい声でそう言った。
「バカってわけじゃねーみたいだな。場所まで特定出来れば文句なしだったが。」
「す、すみません。1階にあるのは間違いないと思うんですけど。」
「流石に特定するには少なかったか。じゃあ今から俺の出した答えの場所へ行く。気引き締めろよ、恐らく元凶だ。」
「はい。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そうしてたどり着いた場所は・・・校舎1階にある、入口に近い部屋だった。部屋の上の隙間から、異様な空気が漏れ出ているような感じがした。
「ここは・・・校長室?」
「ああ、間違いねえはずだ。一応今までの視線の先とも交差するだろ。」
「確かに。」
僕は〈心器〉に手をかけ、戦闘準備をしようとした。
「身構えるのはいいが、それだと反応が遅れるぜ。」
颯介はそう告げて言葉続ける。
「奴らと対峙するときに身構える時間、気合いを入れる時間、覚悟を決める時間。これら全て、俺は無駄だと思ってる。」
「無駄・・・ですか?」
「そんなもんは、組織に入った時か、少なくとも任務を受けた段階で済ませとくもんだろ。」
「いざ、戦闘となったとき、そんな思考やそこから生まれる迷いは必ず邪魔になる。お前も覚悟は決めてきたんだろ。なら一々ビビったり身構えたりすんじゃねえ。そんなんだからヘタレなんだよ。」
ウグッ、痛いところを突かれた気がした。それでも彼の言うとおりだ。散々覚悟は決めてきたはずだ。
「そうですよね・・・ただ目の前の敵を倒すことだけ考える方がいいですよね。」
「ああ、少なくともビビってなんもできねーよりマシだ。俺だって、今は奴らを切ることしか頭にねえ。」
彼が、淡々とまるで作業のように、〈タタリ〉を倒せる理由が少し分かった気がした。
「俺が最初に相手をする。ヘタレは自分の身だけ守れるようにしておけ。」
「分かりました。」
「行くぞ。」
こうして、廃校最後の〈タタリ〉を倒すため、颯介は扉に手をかけ、異様な空気が漂う部屋へ突入した。