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61 グランデリアの騎士たちよ

 ダーククリスタルが上空に浮かぶグランデリア王都。

 そこから西へ15キロの荒野。


 ミハエルの王国第二騎士団、マシロの聖堂騎士団ともに百騎。

 総勢二百の者達が陣を張る。


 取り囲むは、グランデリア王国を手中にせんとするグォルゲイ・レグナードと騎士団総帥ソルディンの二千の軍勢。その内訳は二百が王国最強の精兵と言われる王国第一騎士団、のこり千八百はグォルゲイ・レグナードの私兵になる。


 そこにはレヴァント・ソードブレイカーと蛇人の魔術師ベイガン。



 ▢


 夜明け前。

 荒野の夜風が鋭く頬を切りつけるように冷たかった。


 ミハエルとマシロの二百の騎士は一丸となって、敵本陣に斬りこんでいた。


 敵陣を一点突破し、西方の自治領サーヴァステル港へと入る。

 斬り抜けながら本陣のグォルゲイ大法官と騎士団総帥ソルディンを討ち取る。



 騎士団のすべての者の胸に、出撃前のマシロ・レグナードの檄があった。




 ———— 騎士の者よ


 聞け、我が聖堂の、そして偉大なるグランデリア王国の騎士の者よ

 ここから始まるのは、ただのいくさではない

 グランデリアを守り、我らが未来を取り戻す戦いだ


 母なるグランデリア王国は凶悪なる賊徒の手に落ちようとしている



 刃を決意に、決意を誓いに変えよ

 この風吹く大地は我らのものであり、決して賊徒の野心のままにさせはしない


 騎士よ、私の信ずる者達よ

 包囲を破り、光の道を切り拓け


 聖堂の光を持って盾となせ、騎士団の誓いをもって剣を抜け

 我が祖国のため、グランデリアに栄光を取り戻せ


 レグナ・ゲーテン・グランデリア! 

(:偉大なるグランデリア王国に繁栄を)」



 ▢


「ルカアリューザ! 塊となって突っ込め、なりふり構わず、斬りこめ」

 ミハエルの隊は、ミハエル自身の斬撃となり敵本陣に斬りこんだ。しかし、敵も王国第一騎士団の精兵であり容易には崩れない。

 剣激の音が重なり合い、同じ騎士としての気迫と矜持がぶつかり合う。


「セリーナ! 十時の方へ全班を誘導、ルカアリューザ隊に続け」

 わずかな敵陣の乱れをマシロは見逃さず指揮を振るう。

 ついに内部へ斬りこむ亀裂が生まれ、数の優位を覆すかのようにミハエルとマシロの二百の兵は激流となりなだれ込む。


 突如。

 大気がざわめいたかと思うと、地面から黒い霧が沸き立ち、その中から無数の大蛇が姿を現した。敵の魔術師の召喚したもので、闇色に鈍く輝く巨大な蛇たちは、鎧も馬も巻き取り、騎士を呑み込もうと唸りを上げて襲いかかる。


「この程度の蛇に惑わされるな!」

 マシロが、戦場を渡る凛とした声で騎士たちを鼓舞する。


「聖堂の騎士たる我らが、闇の戯れごときに屈することはない!」

 マシロは剣を掲げ、祈りの言葉を唱え始めた。聖堂騎士団の剣は魔術付与の働きがあったが、更に神聖な力に満ちる。

 聖なる輝きが大蛇の体に触れた瞬間、黒い靄のように霧散していく。


 ミハエルもまた、敵陣の最前線を駆け、声を張り上げた。

「怯むな! 皆で前へ進むぞ! 生きてサーヴァステルの港で再開するんだ!」


 彼の声に応え、王国第二騎士団も気迫を込めた咆哮を上げ、魔術の大蛇と敵軍の精鋭たちに突撃する。

 敵もまた矛先を揃え、迫り来る騎士たちを押し返そうとするが、二百の精鋭たちは、嵐のように敵の布陣を押し崩していく。


 血で染まりゆく戦場。

 夜明け前の闇に騎士たちの甲冑が、光を反射し浮かび上がる。

 その中でもマシロとミハエルはまさに戦場の灯火となりて、己の部下たちを導いていく。


「聖堂の騎士よ、駆け抜けろ! 隊列を崩すな!」

 蒼い桔梗の旗が闇に翻る。

 マシロがさらに号令をかけ、剣を一閃。

 神聖な光が走り、道を阻む魔術師の生み出した数十匹の大蛇を粉々に斬り裂いた。


 近づく敵本陣からは、次々と矢の雨が降り注ぐ。しかし、ミハエルの騎士団魔術班が後方よりそれを打ち払う。

 銀の獅子の旗を掲げ、疾風となったミハエルが、突破口を開くべく前方の敵兵を次々と薙ぎ倒してゆく。


 最後の列を突破した時、視界の奥にようやく敵の本陣が見え始めた。

「この一撃で、我らの勝利の光を掴むぞ!」

 マシロは血の滴る剣を掲げ、高らかに叫ぶ。


 ミハエルの剣が天を突き、マシロの神聖な祈りの言葉が戦場に響き渡り、二百の騎士が敵本陣を目指し猛然と駆ける。


 彼らのその背には聖なる光が揺らめいているようにさえ見えた。



 しかし。


 ▢



 敵本陣。


 白い布が切り裂かれマシロは本陣に斬りこんだ。


 実の父と斬り結ばなければならない、胸中は尋常ならざる葛藤があった。

 しかし、覚悟はとうに決めていた。自身の手で長年にわたる戦いの決着をつけねばならない。我が心をズタズタに破壊した父を、この手で。


 しかし。



 そこには無惨に横たわる父・グォルゲイと総帥ソルディンの姿があった。

 二人の体からは、いまだ新しい血が流れ落ちている。


 敵の司令官グォルゲイとソルディンは、すでに絶命している。


「父上っ! ……どういうこと?」


 その二人の亡骸の傍らには、亜麻色の髪、黒いボディスーツに赤い胸当てをまとい、冷たい瞳で立つレヴァント・ソードブレイカーの姿があった。

 彼女の手には、まだ血の滴る短刀が握られている。



「父上っ、父上……」


 しかし、返事が返ってくることはない。その場に漂うただならぬ冷気に、彼女の胸の奥が凍りつく


 想像もしていなかった光景のなか、マシロは愕然と立ち尽くした。

 あの悪魔の化身のような父が……覚悟を決めていたはずの心が、激しい痛みに引き裂かれていく。


 父と刃を交える覚悟はしていたが、まさかその強大な存在がこのような形で失われるとは思ってもいなかったのだ。


 次の瞬間、後方から陣幕が裂け、ミハエルが駆け込んでくる。

 彼もまた、倒れる二人の姿を見て、すぐさま驚愕の表情に変わった。


 グォルゲイと総帥ソルディンの死。


 ———— 必ずや自身が傭兵団の仇をとる

 胸中に渦巻く長く心に秘めた仇討ちの誓いが、打ち砕かれる瞬間だった。


 そしてマシロと同じくミハエルの目も、その場で赤く濡れた短剣を構え冷然と立つ女を捉える。



「ミハエル、そして女狐司祭長さん、ようこそ反体制軍の本陣へ」


 そこは夜明け前の荒野の戦場で間違いない。

 二人は時が止まったような錯覚にとらわれるも、悲鳴を上げて吹く夜明け前の突風がまぎれもない現実だと物語る。


 ひとり立つレヴァントは赤色に燃える眼球を釣り上げ、口元は耳の近くまで裂けるように笑っている。


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