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言葉はロジックにとどまることなく、マジックとして昇華する

作者: タナカラボタモチ

形のないものに名前を付けるのは愚行だと私は思っている。愛や友情に名前を付けるのは認識したいからではなく安心したいからだと。愛なんてものは特にそんな性質が強くて、名前を付けないとそこに存在するのか全く分からない。本当にその人が運命の人なのか、他に自分に合う女性がいるのではないか。そもそも私は運命なんてものは信じないたちなのだが、そのことについては多くは語らない。だが本質的に、私は愛が嫌いだ。ではなぜ、私の中ではこんな思考が巡っているのかと言えば、私は目の前で舌を出して見つめてくるこの犬に、名前を付けなければならないからだ。

そんなもの早く決めてしまえと思うかもしれないが、このことは私の人生と、この犬の人生に大きく影響する。私がタケと決めたら、この犬はあっという間に成長してしまうし、私がこの犬にシャチという名前を授けたら、この犬は泳ぎの得意な肉食の犬になってしまう。私はそんなことだけは避けようと思っている。 

では本題だが、この犬にはいくつか特徴がある。まず一つ目、この犬はそれなりに大きいと想像して結構だが、生まれたばかりであるということだ。こんなに一生懸命に目を輝かせ、尾を振っているのに、年を取っているわけがない。その点、この犬は元気である。

二つ目に、この犬は誰の飼い犬でもない。もしかすると私が飼い犬にするのではないかと思った人もいるかもしれないが、私は飼い犬にする気など一切ない。ではなぜこの犬に名前を付けようとしているのかなんて質問は甚だ愚問である。ここに意味なんてものはない。元来、人間は意味を持って行動する動物ではない。その点、この犬は自由である。

三点目に、この犬には色もないし形もない。色も形もないといっても、それは存在しないということではない。存在しないと思うということは、君にはイマジンが足りてないということであり、この犬は存在していて、この犬には色がないという色が存在している。その点、この犬は無色であり無形である。

四点目に、この犬は生きていない、と思っていたのだが。生きているか生きていないかという問題はとても難しいものである。動物全般は生きている。この認識はひどく一般的なものであり、自明だ。だが植物はどうだろう。AIは。映画の登場人物は。それは役の話か、俳優の話か。じゃあ、死んだ後の亡骸は。魂はどこに補完されているのだろうか、それとも消えてしまうのだろうか。では、愛は?

そういったことを考えてみるとこの犬は生きているのではないかという考えにたどり着いた。生きているということは形があるということだ。生きているということは名前があるということだ。つまりこの問題に対する私の答えは全部、生きている、だ。私は今まで勘違いしていたのかもしれない。愛に名前を付けるのは私たちが安心したいからではなく、愛という存在が生きていたいからだったのかもしれない。とすればこの犬の名前はきっと一つしかない。

名前を付けるということ、きっとそれ自体が愛なのだ。

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