『惟時、前栽の花の名を基本文字で書くこと』
惟時中納言が初めて蔵人に任命されたとき、帝が、花を植えるために中庭の一角を掘らせようとなさって、植える花の名を読み上げられた。惟時が、これを速記の基本文字で書きとめたところ、周りの殿上人たちは、これをばかにして笑った。惟時は、もし速記の省略文字で書いたなら、この中に、これを読める人がいるのですか、いないでしょう(反語)、と。後日、帝が惟時をお召しになり、花の目録を書かせた。書き上がった目録をごらんになると、省略を用いて書き直すようにおっしゃった。惟時は、すぐに省略で書き直した。その場に居合わせた者が、横からのぞき込み、読もうと思ったが、知らない省略だらけで、一つの花の名も読むことができなかった。惟時は、だからこの間は、基本文字で書いたのに、どうしてお笑いになったのでしょう。それこそお笑いぐさですね、と言ったという。
教訓:速記を知らない人ほど、速記を低く見る傾向ってありますよね。笑わないであげていますけど。