プロローグ
血の匂いがする。
鉄のような匂いだ、中に漂うそれは何故かドロリと流動しているように感じた。その次は饐えた匂いだ、腹を割いたときに腸が流れ出したのだろう。この三年、度々顔を撫でる不快感は戦場の風だ。
戦場ではぐれた味方は生きているだろうか、さっき物資を渡してきた少年兵はまだこの地を走っているのだろうか、そもそもこの戦場はまだ続いているのだろうか、それとも惰性なのだろうか。
「タケ、落ち着いてきたしこれ食べる? かったいパンだけど」
隣りにいた猛は頷いたのでパンを半分にして渡した。並んで硬いパンをかじって、唾液で戻しながら咀嚼して飲み込む。
「そろそろ退くか、残り火みたいな戦場だ」
「そうだね、街に戻れば皆と合流できるだろうし」
よし、と腰を上げてあるき出した。指揮系統なんてあったものじゃないこの戦場、後退しようが敵前逃亡と謗る者はいない。
街に戻って借りた兵舎に戻れば逸れた仲間もそのうち戻ってくるだろう。戦場で死んでなかったら。
次はどうしようか、そうぼやくが返事は帰ってこない。話題もなくて、とりあえず口から出た言葉。自分でも何を言っているのかあまりわかってない。この惨状を見てもう次の話をしている自分はどうにかしてしまったのか、それともこの世界がどうかしているのか。
そんな考えを巡らせるが答えは出ない、出たところで解決のしようがないのだから答えが出ようが関係がない。
矛盾ばかりだ。
苦難だらけだ。
だけど、この地で生きるしか道はないのだ。