正しいって何だろう
私がこれから通うことになる宮元高校というのは小高い丘の上にあって、学校へ続く長く細い一本道は春になると一面の桜並木で埋め尽くされます。私の住んでいる地域はスーパーが一軒もない田舎だったので同級生が片道2時間かけて登校することなどざらで、都会では感じられない不便さというものをかみしめる日々であったのを覚えています。
「着いたぞ誠一・・・心の準備はできたかい」
「実際に通うとなると緊張してきたかな、でもそんなこと言っててもしょうがないよね」
自分を奮い立たせ、正門をくぐるとなんだか心を縛り付けていた枷が一つガチャリと音を立てて外れていく音がしました。期待に胸を膨らませ教員専用の玄関口に入ると担当の先生らしき人が出迎えてくれました。
「はじめまして。私は2年生の教育指導担当をしている和田です。担当の〇〇先生はまだいらっしゃっていないので職員室で待機していてください。」
緊張してうまく返事ができなかったけれど、今応対している先生が担任の先生でないことだけは理解した。小学校の時のことを思い出すと先生というものは道化を演じて子供をあやすような振る舞いをしていたような気がするが、和田という人物は堅苦しくまるで大人と会話しているかのような印象を受けた。
そんなことを考えていると、「あぁーーーーっ!!!」職員室のドアががたんとなる音がした。「ごめんね和田君、今日は大切な日だってのに君に転校生の世話を任せてしまって」「別にいいですよ。いつものことですから。それよりも先にこの子に挨拶くらいしたらどうですか」「そ、そうだね。私の名前は〇△。困ったときはいつでも頼ってもいいぞ~全部受け止めてあげるから」
彼はひょうきんな人でした。彼のように生きていくことができたなら私は厭世的になることなどなかったのだと考えると、少し彼を憎らしく思いましたがこれがセンセイとしてあるべき姿なのだろうとも思います。ホームルームまで少し時間があったので私はセンセイと話をすることにしました。センセイがあまりに聞き上手なので、
「センセイ、僕は8年間も部屋に引きこもっていた人間です。仲良くやっていけるか心配なのです。」気づけば私は本当の想いを吐露していました。
「センセイはきみの気持がわかるとは言わないよ。でもね、これだけは言えることがある。歩き方は人それぞれでもみんな前に向かっていることに変わりはないんだよ。だから君が歩くことをやめない限りきっと何か成長があるんだとセンセイは思う。そして君はようやくその一歩を踏み出したんだ。とっても勇気のいることだけどセンセイは応援しているよ」
それは私にとって驚きの言葉であった。その言葉は単純で、純粋なものであった。
早々に転校生としての挨拶を済ませ、私は指定された席に着いた。私のクラスは1-Ⅽで15人ほどしかいない少人数の学級であった。どうやら隣の席の子は今日はお休みらしい。皆は私のことをいぶかしげな表情で見つめている。どうやらあまり歓迎はされていないらしい。
数時間の授業を受け終わったのち、昼休みに差し掛かると私はこの学校を一回りして回ろうとクラスを出ようとした。するとクラスメイトの数人に肩をつかまれ、「おい、お前なぜ同じ地域なのに転校生なんだ」「なんか変だよね、私こんな子知らないわ」説明することを求められている。非常にめんどくさいのだが事態を軽く説明した。しばらく静寂が訪れたのだが、そのうち一人のクラスメイトが口を開いた。「それじゃ、君は社会不適合者のダメ人間だってことだね」窓際のデッキに腰掛けていた彼はとんと地面に足をつけた。「手厳しいなぁ。裕也君は思ったことはすぐに口を出すタイプだから。ごめんねそんな気はなかったんだ・・・」ほかのクラスメイトは我関せずとばかりにそそくさと教室を出る。その方が私にとってもうれしい。
「裕也くんだっけ。さっきはありがとう。君はみんなが言いづらいことをみんなの代わりに言ってくれたんだよね。君は正直者だ。」
「ほう、空気は読めるというわけだね。精一クンの俺に対する評価は買いかぶりだけど、なんだかシンパシーを感じるんだよアンタにはさ・・・」
「それこそ買いかぶりというものさ。もし君が僕と同じ人種なら、君はこの世界に絶望して今頃は冥界に送られている頃だろう。」
私が皮肉に次ぐ皮肉を述べると、彼はむっとした表情を浮かべて
「そうさ。俺はリアリストでもなければニヒリストでもない。ただの気分屋さ。でもね、君は知りたがっているはずさ、僕のような人間のことをね。君は現状に満足していないだろう。それはひとえにありふれた幸せというもの大切さに気が付いていないからさ。」
「なんで僕が幸せじゃないってわかるんだい」
「それはね、君がここにきてからずっとむつかしい顔をしているからさ。君は物事を理屈で考える節があるだろう。でもね、物事に正解なんてものはないんだよ」
彼が何を言っているのかはわかるようでわからない。しかし僕より1さい年下の子供に僕がなだめすかされるのはなんだか気分が悪くて反発してしまいたい衝動に駆られるのだがそれを抑えて僕はこういった。
「君は僕に知らない何かを知っているようだ。どうだい私と契約をしないか。お互いに正直な思いを打ち明けるんだ。楽しいこともつらいことも。そうすることで何が幸せなのかぼくにもわかるようなきがするんだよ」
「ははははっ。それは面白い。だが俺にとってメリットが何もないな。契約というものはお互いの利益のためにやるもんだ」
「君にとってのメリットは僕の思考を独り占めできることさ。僕の脳みそのキャンバスはまだ真っ白のまんまだ。君が望めば何色にだって染めることができる。君はそういう操り人形が欲しいんじゃないかい」
「驚いたな。君はやっぱり面白いねぇ。」
4がつ15にち
あたらしいともだちができました。