過去と誘い
「一つ聞いてもよろしいか」
「うむ、よかろう。好きに聞くがよいぞ!」
「なぜそのような考えに?」
「だって晴季君、ゲームやってる時すっごくイキイキしてるんだもの。いつもは真顔なのに」
「うん?最後のは余計なお世話だよ?」
「でさでさ、その楽しさをもっともっと沢山の人に共有して欲しいんだよ」
「なるほどな.......。言い分は分かった」
「じゃあ.......!」
「いや別にやるとは一言も行ってないよ?」
「なんでさ!?」
「.......まあ大した事情でもないが」
「.......?」
「昔よく見てた配信者さんが居たんだ。プレイスキルはお粗末なんだが、誰よりも愉快に笑い、ゲームそのものを楽しんでいた人だった。だが、まあインターネット世界ってのは残酷だよな。細々とやっているうちは良かったものの、次第にプレイスキルを批判する奴らが増えて来た」
「.......。」
「古株の視聴者はプレイスキルなんて一切気にしてなかった。ただ、彼女が楽しんでいる姿を見るのが好きだったからな。しかしまぁ、言葉の持つ力ってのは大きかったさ。俺らは精一杯フォローしたさ。それでも.......彼女がゲームから離れて行くのを止められなかった」
「.......なるほどね。それでなんだい?結局何が言いたいんだい?」
「『楽しそうにプレイする』ただそれだけじゃ配信者としては生きて行けないと言いたいんだ」
「君の発言には矛盾している点があるよ」
「なんだ」
「なぜ君はその方の配信を見ていたんだよ?」
「……!」
「自分で言っていたじゃないか。『楽しんでいる姿を見るのが好きだった』君はそう言った。.......人を楽しませるには、それだけで十分じゃないのかい?」
「しかしだな.......」
「なんだい!自分は叩かれたくないって言いたいのかい!」
「.......まあそうなるな」
「気持ちはわからんでもないね。じゃあ最後に一言だけ言わせて貰うよ」
「なんだね」
「君は面白い。私は晴季君の配信が見たい」
「あ.......」
こいつは驚いた。俺は拒否したじゃないか。やらないって言ったじゃないか。それもまだ、クリエイターの道へ誘うのか。ここまで頑固とはな。そして終いには自分の欲求だけ主張して来ただって?よくもまあ図太いことですわ。だが.......
「.......誰かに求められるってのは、良いものだな」
「じゃあ.......!」
「折れたよ。俺の負けだ。やってやるよ」
「.......ありがとう、晴季君。」
「?」