大きく息を吸って『目からビーム!』
その星の人間は10歳になると異能を授かる。
アトルは【目からビーム】を発現し、数年がかりでその使い方を学んだ。
大きく息を吸い込んで目に力を込める。
吸い込む空気が多ければ多いほどビームの威力が強くなることを知ってからは、積極的に肺活量を増やすトレーニングを行った。
南の大陸で魔王が復活したという報が届いたのは、アトルが15歳になった頃だった。
魔王は半月足らずて大陸の主要国を滅ぼし、駆けつけた世界連合軍を蹂躙した。
連合政府は南の大陸を放棄し、防備を固め、来たるべき魔王襲来に備えるしかなかった。
アトルは16歳の誕生日に連合軍に志願入隊した。
【目からビーム】を持つアトルは即戦力として、海岸線を守る守備隊に配属された。
「我が名はアビンシュトール。魔王軍四天王の一角である」
人語を喋るその魔物は鎧を着込んだ牛のような姿をしていた。
「魔王様の命により、この大陸の支配権をいただく。人間どもよ、今すぐ降参するというのなら、召使いとしてこき使ってやるぞ」
アトルは大きく息を吸って目に力を込めた。
(目から……ビ〜〜〜〜ム!!)
現在、アトルの肺活量は5000ccを超えている。
その目から放たれるビームは50mm厚の鉄板を容易く貫くほどの威力を持っていた。
「ぐわぁぁぁぁぁぁ!」
アビンなんとかと名乗った魔物はビームに貫かれ絶命した。
「やれやれ、抜け駆けしたアビンシュトールを追いかけてみれば、面白そうな奴がいるではないか。だがアビンシュトールは我ら四天王の中では最弱。次はこの俺、ネクスロボッシが相手になろう」
(目からっ、ビィィィィッム)
「ぎゃああああああ」
容姿を描写される間もなく、ネクなんとかも絶命した。
人類は反撃の狼煙をあげた。
アトルを中心とした攻撃部隊は南の大陸へ逆侵攻を開始、破竹の勢いで魔王軍を破っていった。
そしてとうとう魔王城へと到達する。
そこはかつて南の大陸最古の都市であった場所だった。
麗しの都と呼ばれたその場所は、今では禍々しい魔王城に占拠されていた。
アトルは魔王城に向かってビームを放つ。
その禍々しい建造物は一瞬でバターのように溶け落ち、燃え上がった。
この時、彼の肺活量は6000ccを超えており60mmの鉄板を苦もなく貫ける威力を持っていた。
「四天王どもがやられたとは聞いていたが、その程度であったか……」
燃えさかる炎の中から、それを苦にした様子もなく、魔王本人が現れた。
およそこの世すべての悪徳を凝縮して形にしたかのような魔王の姿に、アトルたち攻撃部隊の面々は流石に恐怖を覚えた。
だが怯むことは許されない。
彼らは一斉に攻撃を開始した。
「ふん、つまらん」
魔王が腕を一振りすると豪風が巻き起こり、部隊の左翼が壊滅した。
(目からビーム!)
ビームの直撃を受けたにもかかわらず魔王は平然としていた。
(目からビームッ!!)
「適うと思うたか」
魔王がひと睨みすると、宙から巨大な氷塊が降り注ぎ、右翼の兵たちを押しつぶした。
(目からビーーーム!!!)
魔王が地面を踏みしめると、鋼鉄の茨が生え、残った隊員たちを貫いた。
「ガフッ!」
アトルは鋼鉄の茨に胸を貫かれていた。
血がこみ上げてくる。
呼吸ができない。
致命傷だ。
いや、それより。
これではビームが撃てない。
茨は肺を貫通していた。
抜けていく力をかき集め、茨を引き抜く。
胸にぽっかり穴があき、肺と大気が繋がった。
撃てない?
(…………目、から)
5000ccの空気で50mmの、6000ccで60mmの鉄板を貫く【目からビーム】が、今、空いた穴を通じて、世界中の空気と繋がっている。
(目から!)
いったいその威力はどれほどになるのだろう。
(ビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーム!!!!!)
その光線は、その軌道上にあったすべての存在を消滅させた。
◇◇◇
アトルは一命をとりとめた。
増援部隊の治癒の異能を持つ隊員が間に合ったのだ。
アトルの胸には今、傷跡と小さな弁がある。
第二、第三の魔王がいつか現れるかもしれない。
弁は、その時までアトルの肺と大気を遮るためのものだ。