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救世主は救わない  作者: nauji
第二章
9/60

第5話 投獄

この作品はフィクションです。


重要語句は【】、能力使用時は≪≫で記載しております。

 目の前に広がる光景は、確かに【水晶球(すいしょうきゅう)】で見たものと同じだった。

 眼下には、あの近未来的で金属的な銀色の街並みが広がっている。


 ……そう、【水晶球】で見た時と同じく、上から見下ろす位置、つまりは空中へと【転移(てんい)】していた。


 ジェットコースター等と同様に、落下する時特有の竦む感覚を味わいつつも、俺の体は落下することはなかった。


 そういえば、女神様が【転移】時の安全がどうとか言っていたような。

 成程、空中や水中、果ては宇宙空間とかもあり得るから、浮遊して移動出来るようになっているのか。


 軽く渡された感じだったけど、この【リング】とんでもない性能だな。

 確か他にも対話が可能とかも言ってたか?



 落下しないことに安心し、思考を巡らせていたら不意に背中を押された。


「……え?」


 背後を振り向いたら、目が合った。

 相手は驚愕に目を見開き、硬直しているようだった。

 何故、空中に俺以外の人間が居るのか?

 他事を考えていたせいか、状況に理解が追いつかない。


 今なお、体を押され続けている。

 良く見れば、ぶつかってきた相手は浮いている訳ではなく、見たことのない乗り物に乗っている。

 何と形容すべきか、近いのはガチャのカプセルだろうか。

 上半球が透明、下半球が不透明な物に人が入っている。

 見る限りでは、操縦する為の機構は無い。


 詰まる所、現在進行形で俺は轢かれている訳だ。

聖衣(せいい)】のお蔭か、【リング】のお蔭かは判らないが、幸い痛みは無い。

 ただ、力そのものは打ち消せないのか、押される力は消えない。

 まさしく俺でなければ死んでいた。

 そもそも俺でなければ、宙に生身で浮いたりはしていないのかもしれないが。


 ……いやいや、そろそろブレーキ掛けてくれよ。

 何時まで轢き回すつもりだよ。

 抗議の意を伝える為、乗り物を手で叩く。

 すると漸く我に返ったのか、運転手がブレーキを掛けた。

 すかさず、乗り物が音も無く静止した。

 どんどん乗り物が遠ざかってゆく。

 残念ながら、俺に加えられた力による移動は継続しており、すぐに乗り物が見えなくなった。

 恐らく、【リング】で止まることが出来る筈だと考えるも、遅かった。



 またしても背後に何か当たる。

 衝撃はない。

 だが、お蔭で移動は止まった。

 再び背後を見やると、視界一面に銀色の壁があった。

 どうやら、何かの建物にぶつかったみたいだ。

 金属のように見受けられる銀色の壁は、しかし、硬さではなく柔らかい感触を返してくる。

 この液体のような感触、どこか既視感を覚える。


 ふと、鏡面のように反射した壁に俺の顔が映り込む。

 思わず独り言が零れた。


「……髪が白くなってるんだが」


 黒色だった筈の髪が、真っ白に変わっていた。

 よくよく見れば、眉も睫毛も真っ白だった。


「おいおいおいおい……」


 見慣れた筈の顔が別人のようになっており、気味が悪くなる。

 一体何でこんな姿になったんだ。

 壁に映る姿は、頭から爪先までほぼ白一色。

 服や靴には金の刺繍があしらわれているが、些細な問題だろう。


 そこではたと思い当たる。

救世(きゅうせい)】を発動した際、服が【聖衣】に変わったのと同時に俺まで真っ白になってたのか?

 天界では、体の無事を確認はしたが、自分の顔までは確認しなかった。


 もしや、さっきの運転手は、俺が宙に居た事だけじゃなく、俺が真っ白だから驚いていたのかもしれない。

 突然、目の前に真っ白い人が現れれば、俺でも驚くだろう。

 だがやはり、ブレーキは反射的に踏んで欲しかったが。



 すると、壁の色が突然無くなり、透明に変わる。

 透過された先に目を向けると、数人の男達が俺を険しい顔で見ていた。

 壁が消失する。

 俺は浮いているので倒れ込むことはなかった。


「お前を逮捕する!」


 この世界に来て、初めて掛けられた言葉がそれだった。

 とりあえず、言語の翻訳は出来ているようだ。






 抵抗らしい抵抗もせず、大人しく拘束された。

【聖衣】や【リング】のお蔭で、防御力には自信があるが、攻撃力は一つを除いて常人以下だ。

 流石に【救世】はおいそれと使う訳にはいかない。

 あくまで自衛の為の最後の手段とするべきだ。

 それに、【転移】があるので脱出は容易い。


 ドラマにあるみたいに、取り調べを受けるのかと思いきや、即牢屋行きだった。

 ただ、鉄格子ではなく、例の金属っぽい何かで天井・床・壁を覆われている。

 相変わらずの銀色だが、もしかしたら、マジックミラーみたく、外側からは内部が見えるのかもしれない。

 何をする訳でもないが、大人しくしていよう。


 俺には特に目的がある訳でもない。

 あの巨神と騎士達から一時的に逃れる為に、【転移】して来たに過ぎない。

【転移】間際、女神かメイドさんが不穏当な発言をしていた気もするが、最悪、世界が滅びても【聖衣】があれば問題ない。

 のんびりさせて貰おう。


 ……とは思ったが、暇つぶしにいつものソシャゲをやろうにも、最早スマホどころか地球すら無い。

 巻き添えになった人々には申し訳ないが、娯楽の全てが失われたのは途方もない喪失感だ。

 これから一生、アニメも漫画もゲームも出来ないのか。

 いや、この世界にだって娯楽ぐらいはある筈だ。

 とはいえ、地球にあったものは、もう二度とお目にかかれないだろう。

 完結していない数多の作品が永遠に失われてしまった……。


 ん?

 いやいや、あの【水晶球】で世界を記録しているとか言ってたな。

 完結していない作品の続きはどうしようもないが、それ以外は再現が可能なのでは?

 再現は無理でも、誰かがやっていたゲーム、視聴していたアニメ、読みかけの漫画やらを覗き見る事ぐらいは出来そうに思える。


 ……ふぅ、危うく娯楽への禁断症状でおかしくなりそうだったが、少し落ち着いてきた。

 二度と出来ないっていうのは、後からジワジワと実感が湧いてくるものか。

 差し当たって、今すべきことは…………無いな。



 どのくらいそうしていたのか、潰せる暇も無くなってきた頃、訪問者が現れた。

 壁が透明に変わり、訪問者の存在を知らせる。

 ぼさぼさの白髪、丸眼鏡、もみあげと繋がった髭、極めつけは白衣。

 分かりやすい程の研究者がこちらを観察していた。

 50代位に見える中年の研究者は、ギョロリとした目で俺を凝視している。


「……あの、何か用ですか?」


 居心地が悪すぎて、思わず声を掛ける。


「ほぅ、同じ言葉を喋れるのか」


 思いの他早く、返答が来た。

 しかし、望んだ答えではなかった。


「なんじゃ、若者じゃったのか。そんな頭の色しとるから、てっきり爺かと思っとったわ」


 あー、確かに。

 遠目には白装束の爺に見えるかもな。


「お前さん、どっから来た?」


 そう問いかけられ、一瞬どう答えるべきか迷う。

 正直に答えて、大丈夫だろうか。

 だがすぐさま思い直す。

 そもそも、【聖衣】と【リング】があるから、別段大した脅威にはなり得ない。


「別の世界から来ました」


 正直に答えてみたものの、字面が不審に過ぎる。


「なんじゃと? 別の世界? ……お前さん、宇宙人じゃないのか?」


「違いますね」


 俺の返答を聞いて、ギョロ目が半開きになった。

 しかし、成程。

 言われてみれば、異世界人より宇宙人の方が居そうではある。

 地球でも季節毎にその手のテレビ番組がやっていた。

 少なくとも、遭遇する確率で言えば段違いだろう。

 ……俺も宇宙人に会ったことは無いが。


「余程、文明が進んだ世界なんじゃな」


「え? いや別にそんな事は……」


 思わず地球を思い出し、否定の言葉を口にしたが、天界の技術は【リング】や【水晶球】もあるし、確かに大したモノかもしれない。

 だが、遮るように研究者が言葉を被せてきた。


「まず、出生時に必ず皮下注射される筈の管理タグを持たぬ点。次に、捕縛された際、生身で宙に浮いておった点。最後に、別の世界から来たというお前さんが、この都市の言葉で会話が出来ておる点」

「これらを踏まえると、お前さんは、この都市外の人間で、小型の飛行装置や翻訳装置の類を所持しているんじゃろ?」


「…………」


 何か物凄く分析されていた。

 これはあまり力を見せない方が良いかもしれない。

【リング】を取り上げられると、流石に困る。


「沈黙は肯定と同義じゃて。良ければその装置の類について詳しく聞きたいんじゃが」


 うーん、これはしくじったかもしれないな。

 興味を持たれ過ぎてしまったみたいだ。

 話しかけるんじゃなかったか。


「ふむ、それが無理そうなら、お前さんの世界の話でも聞かせてくれんかの?」


 無視を決め込むか、【転移】で逃げ出そうか考えていたら、妥協案を出されていた。

 それぐらいなら構わないか。

 俺は首肯しながら答える。


「それぐらいであれば、いいですよ」


「そうかそうか」


「っ!?」


 その研究者の表情を見て、思わず絶句する。

 今までとは違う、孫を見やる好々爺のような笑顔だった。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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『勇者は転職して魔王になりました』
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