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救世主は救わない  作者: nauji
第一章
7/60

インタールード A-1

この作品はフィクションです。


重要語句は【】、能力使用時は≪≫で記載しております。

 自分と同じ、鎧姿の格好をした者達を前に、今起きた出来事を反芻する。

 我々で囲んだ中心に居た、若き【救世主(きゅうせいしゅ)】は、突然消失した。


 まさか【転移(てんい)】を使用できるとは思わず、逃げられぬと油断していた。

【救世主】が元々【転移】を有していたとは思えない為、恐らく、【聖衣(せいい)】の下に【リング】を身に着けていたのだろう。


 自失していた意識を戻し、【転移】先へと向かおうとする。

 そこに重苦しい声が響く。


「……彼の女神に図られたか。此度は何を画策しているのか……」


 この大広間の奥、壁一面に座した姿で彫像された我らが(しゅ)

 彼の御方の声だった。


「女神の更なる監視と、逃亡した【救世主】の追跡及び監視を命ずる。変化があり次第報告せよ」


「「「はっ!」」」


 瞬間、その場の全ての者達が、(しゅ)に向かい膝をつき、(こうべ)を垂れた姿勢で、声を揃えた。


「……行け」


 音も無く、全員が大広間を後にする。



 扉が閉まり切ったと同時、一際背の低い少女が片手を素早く上げながら力強く言葉を発した。


「ハイ! ワタシが女神様のお部屋へ伺います!」


「それでは、儂は部屋の外で待つとするかの」


 続いて細身で長身の初老の騎士が言葉を繋ぐ。

 少し遅れて自分が言葉を発する。


「自分が【救世主】を追跡しよう」


「……監視と報告が主命だ。二人一組で行動せよ」


 恰幅の良い壮年の騎士が言葉を続けた。


「では、僕が先輩に同行しますよ」


 青年の言葉に先の壮年の騎士は頷きを返し、それぞれ行動を開始する。




 先ずは何処に【転移】したのか調べる必要がある。

 最寄りの観測装置のある部屋へと歩みを進める。

 当然のように青年騎士も斜め後ろに追従する。


 部屋に入ると直ぐ、青年騎士が中央に鎮座する【水晶球(すいしょうきゅう)】へと歩み寄る。

 慣れた手つきで操作を行い、先の【救世主】を捜索し始めた。


 その様子を、邪魔をせぬよう、台座から少し離れた位置で腕を組みながら見つめる。

 全世界を観察・記録し続ける、あの【水晶球】の目から逃れることは事実上不可能だ。

 程なく、所在は掴めることだろう。


 あらゆる世界を観測しているが故に、この天界の学問・技術は文字通り世界随一である。

【リング】しかり、自分達が身に纏っている鎧や武器に関しても、様々な能力を付与されている。

 今回はその能力を逆手に取られた形になってしまったが。



 あの【救世主】は精神的にタフだった。

 通例では、【救世】使用後、その性質を知れば精神的に参ってしまうものだ。


 自分達【執行者(しっこうしゃ)】は、全員且つて【救世主】だったのだから、その衝撃の程は大なり小なり身に染みている。

 自分も、少なくない衝撃を受けたものだ。

 その先の生き方を考える事も難しく、言われるがまま【執行者】へと転じた。


 だが、あの若い【救世主】は、主命を断った。

 彼は【救世主】のまま、これからも生きてゆくつもりなのだろうか。

【救世】を持ち続ける重圧に耐えうるのだろうか。


【聖衣】を着ている状態では、歳すら取らない。

 あるいは、このまま魂が擦り切れる迄、【救世主】であり続けるのか。

 自分には想像もつかない、地獄のような道行だ。



 ふと気が付くと、青年騎士がこちらに目を向けていた。

 その手は操作を終えたのか、下ろされている。


 とりとめのない思考に身を委ねている内に、【救世主】の所在を掴んだのだのだろう。

 青年騎士に歩み寄り、【水晶球】を覗き込む。

 するとそこには、そこそこの文明レベルの都市が映し出されていた。


「どうやら、終末予測が最近更新された世界のようです」


 終末予測とは、【水晶球】が観測した情報から予測演算を行い、凡その未来予測を常に行っており、その結果から終末までの期間を数値化しているのだ。

 それが更新されたということは、終末が早まったか、遅くなったのかのどちらかということだ。


「現地時間で、終末時期が数千年以内から、近日中へと大幅に変更されています。これは【世界の敵】の干渉とみて間違いないかと」


「……一旦、皆に情報共有を行った後、自分達も現地へ向かおう」


「了解しました」


 青年騎士が、兜に付与された機能の一つ、【思考共有】を用い、他の騎士達へと連絡を行う。



【救世主】と【世界の敵】。

 この両者が、偶然同じ世界に存在するとは考え辛い。

 恐らく、彼の女神の意図した状況に思われる。


【救世】を用いて【世界の敵】の消滅を画策しているのだろうか。

 だが、上位者には通用しないことは、既に周知の事実となっている。

 且つて、【世界の敵】により滅びかけた世界にて、【救世主】が【救世】を発動させたが、【世界の敵】を消滅させることは出来なかった。


 もしくは、追いかけた【執行者】を【世界の敵】へとぶつけるつもりだろうか。

 元々、【執行者】は【世界の敵】への対抗戦力だ。

 そうなると、その隙に【救世主】に何かをさせるつもりなのか。


 ……現状、直ぐに思い当たるモノは無い。

 何はともあれ、自分達は粛々と主命に従うのみだ。

 (しゅ)が考え、(しゅ)が決定し、(しゅ)が判断を下す。

 自分達は(しゅ)の手足、唯々(しゅ)の思う通りに動けば良い。



「先輩、連絡完了しました。何時でも移動可能です」


「分かった。向かおう」


【転移】を用いて、件の世界へ移動する。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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『勇者は転職して魔王になりました』
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