第50話 名前 (最終話)
この作品はフィクションです。
重要語句は【】、能力使用時は≪≫で記載しております。
今回が最終話となります。
まだ他の話をお読みで無い方は、先ずはそちらをお読み下さい。
あれからしばらくの月日が流れた。
天界の建造物はまだ完全復旧とはいかないが、【神像】と【水晶球】は復元が完了していた。
俺とメイドさんと少女、少年と女性の【執行者】が集まっていた。
集まった場所は女神像の前だ。
久方ぶりの女神との対話となった。
「――思いがけない展開に、動揺を禁じ得ませんね。ともあれ、皆様、お久しぶりですね」
「女神様、御無事で何よりです」
「フフッ、無事というのも可笑しな話ですね。……皆様、よくぞ【魔神】の討滅を成し得て下さいました」
「……まだ、二体残っては居ますがね」
女神とメイドさんとの会話に、少年がそう横槍を入れる。
「――ちょっと、流石に今それを言わなくても……」
「事実は事実だ。女神よ、状況は変わりました。最早、【魔神】は脅威足り得ません。今後は如何なさる御積もりですか?」
女性が諫めるも、少年は女神へと問い詰める。
「……確かに、貴方がたは遥か高みにあった【怠惰の魔神】を討滅して見せました。今後、そこまでの脅威となる【魔神】が現れる事も無いでしょう」
「……それで?」
「――しかしながら、予想に反して、事態は急変するかもしれません。突然、力持つ【魔神】が誕生しないとも限りません」
「…………」
「ですから、二人には今後もこのまま居て頂きたく思っております」
「……それが答えですか?」
「えぇ、その通りです」
「――女神様、よろしいでしょうか?」
「……はい、何でしょうか?」
女神と少年との会話に、今度はメイドさんが割り込んだ。
「私は、この身に取り込んでしまった魂を解放し、私自身も消滅する事を望みます」
「――っ!? 何故そのような事を!?」
「……ずっと、ずっと後悔していたのです。この身に魂を吸収してしまった事を。私が如何様な滅びを迎えようとも構いませんでしたが、この身に取り込んだ魂だけが気掛かりでした」
「ですが、それも最早解消されました。私は贖罪をこそ望みます」
「贖罪というならば、生きて事を成しては如何ですか?」
「……それでは、私が吸収した魂達が何時まで経っても転生する事が叶いません。それは私の望むところではありません」
「…………」
「女神様に見出していただいたこと、未だ感謝に耐えません。ですが、脅威が去った今、私もまた、あるべき最期を迎えたく思います」
「…………」
「今まで、お世話になりました。どうか、これからも世界を良き方向へと導いて下さい」
「……そう、ですか。……それは、とても寂しくなりますね」
その場に沈黙が降りる。
あの時、【怠惰の魔神】の最期を見ていたメイドさんは、そんな事を考えていたのか。
どういう経緯で【魔神】となったのか、聞く機会は終ぞ訪れなかったが、自身にしか理解できない葛藤があったのだろう。
少年が一歩、メイドさんへと踏み出した。
「――では、僕がその役を務めよう。勿論、異論がなければ、だが」
「構いません。覚悟はとうに済ませています。――ですが最期に一つだけ」
「何だ?」
「【救世主】、貴方のお蔭でこうして望んだ最期を迎える事が叶いました。貴方を選んで良かった。貴方が諦める事無く生きてくれて良かった。貴方に感謝を」
「……いえ、そんな。俺の方こそ、貴女には沢山助けていただきました。俺の方こそ、今までありがとうございました」
「……フフフッ、お礼は不要に願います」
「……ハハハッ、そうでしたね」
「――では、お願いします」
「――分かった、では、いくぞ」
メイドさんの体に、少年の剣が突き立てられる。
間を置かず、【救世】が連続して発動されていく。
メイドさんの気配が希薄になってゆく。
その表情は、安らかに見えた。
やがて、メイドさんの姿は消滅した。
「――ちっ、勝手に勝ち逃げしやがって」
沈黙が支配する場に、そんな声が響く。
「これじゃあ、ボクの相手が居なくなっちまったじゃねぇか。……なぁ、ものはついでだ。ボクにもやってくれ」
「…………それで良いのか?」
「ボクだけ残ってても仕方ないだろ? 別にボクに後悔なんて微塵もないけど、どうせ目的なんて無いしね」
「――では」
「――待って下さい」
「……何だ?」
「私にやらせて下さい」
「……それは彼女に尋ねたまえ」
「貴女はそれでも良いかしら?」
「別に、誰がやろうとボクは構わないよ。好きにしたら良いさ」
「……分かった。なら君に任せる」
「はい、ありがとうございます」
少女と少年の遣り取りに、女性がそう申し出た。
女性が刀を少女へと突き立てる。
そして間を置かず、【救世】を発動し続ける。
少女の気配が希薄になっていき、ほどなく、その身体が消滅した。
「…………仇は取れましたか?」
女性は、誰ともなくそう呟いた。
思いがけず人数の減った室内。
気まずい沈黙が場を支配する。
俺は意を決して、言葉を発した。
「行きたいところがあります。案内して貰えませんか?」
俺は少年にそう言った。
「……何処だ?」
「それは――」
俺は、かつて一度だけ訪れた事のある部屋に居た。
正面には壁一面もある巨大な彫像。
「――久しいな」
「えぇ、お久しぶりです」
「して、此度は何用で参った?」
「以前お渡ししなかったモノを、今回こそはお渡ししようかと」
「――【救世】か」
「はい」
「以前は頑なに拒んでみせたが、どのような心境の変化だ?」
「もう【救世】を使おうとは思いませんから」
「要らぬからくれてやる、と?」
「そう居丈高なつもりはありません。あくまで不要なのでお渡ししたいだけです」
「――【救世】を失えば、最早【救世主】ではなくなる。その身の【聖衣】も失われよう。それでも構わぬのだな?」
「おっと!? その前に、代わりの服を用意していただけると、大変助かります」
「――――」
「【聖衣】を解除すると、全裸になってしまうので」
「――用意させよう。しばし待て」
「お手数をおかけします」
俺は用意された衣服を、【聖衣】の上から着込む。
とりあえずはこれで、いきなり全裸になることはない。
「――では【救世】をこちらへ」
俺の体に何かが入り込むのを感じる。
不快感を覚えるが、それを堪え、成すがままにされる。
そして【救世】が俺の体から摘出された。
同時に【聖衣】が掻き消える。
生まれてから、共にあった【救世】。
それが失われた事による、喪失感がある。
だが、それで良い。
最早、俺には無用の長物だ。
「――して、これからどうする?」
「……貴方がそれを決めるのではないのですか?」
「――我々は強制も強要もしてはならない、と、とある神に言われてな。自身で選択せよ」
俺の脳裏に、最近姿を見なくなった幼神の事が思い浮かんだ。
「市井に紛れて、大人しく余生を送る、とかは駄目ですかね?」
「――その身に【大罪】を宿している限り、その身を自由にする事は出来かねる」
「そう、ですか……」
「――だが、条件付きであれば、叶えられない事もない」
「……え?」
「……それで、私について来い、と?」
「えぇ、まぁ。もう【リング】も返してしまいましたし、移動も翻訳も誰かにお願いする他ありません」
「それに、俺の知り合いで頼めそうなのは、貴女しか居ませんし……お願い出来ませんか?」
「……はぁ、仕方のない人ですね」
「それじゃあ?」
「分かりました、分かりましたとも。貴方が【大罪】を悪用しないよう、監視、兼、通訳として同行すれば良いのですね?」
「えぇ、はい、その通りです」
「それで、何時まで?」
「それは勿論、死ぬまでです」
「……誰が?」
「俺が」
「……それまで、私について回れと?」
「言葉は頑張って覚えますよ。ですので、監視という名目の休暇と思って、どうかここは一つ、お願いします」
「…………はぁ。まぁ、貴方にはそれぐらいの借りはありますしね。なら、精々長生きして、私の休暇を出来る限り長くして下さいね?」
「約束は出来ませんが、前向きに善処致します」
「はいはい、それじゃあ行きましょうか?」
「えぇ、って、まだ何処に行くか伝えてませんけど……」
「そんな事、聞かなくても見当ぐらいつきますよ。ほら、早く! 随分と顔を見せていないんでしょ?」
「……じゃあ、お願いします」
辿り着いたのは、とある屋敷の前だった。
俺は緊張の面持ちで扉をノックする。
すると程なく、使用人が出迎えてくれた。
「――――――――――」
何を言っているか理解出来ない。
【リング】無き今、これから改めて言葉を一から覚えなければならない。
これは前途多難だな。
言葉の分からない俺に代わり、女性の【執行者】が取り次いでくれた。
屋敷の中へと案内される。
通された先は、客間ではなく、謁見の間だった。
視線の先の玉座には、しばらくぶりに見る女王の姿があった。
俺の姿を視認した女王だったが、その表情が怪訝そうなものに変わる。
俺がそれを疑問に思っていると、耳元で囁かれた。
「貴方の姿が【聖衣】の無い状態へと戻ってしまったから、その容姿の変化に戸惑っているんですよ」
なるほど、そういうことだったか。
【聖衣】が無い俺は、黒髪に戻っているし、服装も違っている。
顔が同じでも、見た目の印象がこうも変わっていれば、戸惑って当たり前か。
俺達は玉座の前へと進み出る。
女王が声を掛けてくる。
「――――――――――」
勿論、何を言っているかは分からない。
例によって通訳してもらった。
要約すると、容姿の変化に対する質問と、長らく姿を見せに来なかった事への文句だそうだ。
女王の目元には光るものが見て取れた。
思っていた以上に心配をかけていたらしい。
俺は通訳を頼む。
事の経緯と俺の現状についての説明を。
女王がそれを聞き、内容を確かめるように、女性の【執行者】といくつか遣り取りを交わす。
とりあえずは、承知してくれたらしい。
その上で一つ、頼みごとを通訳してもらう。
貴女の名前を教えて下さい、と。
以上、元救世主となった彼の物語は、これにて完結となります。
構想から実に二カ月余り、初作品がこうして無事終わりを迎える事が出来ました。
お読みくださった皆様、本当にありがとうございました。
後日、登場人物や能力一覧の更新を行わせていただきます。
また、活動報告にて、この作品に関する事と、今後の活動に触れようかと思います。
こちらも、また後日、改めて記載させていただくつもりです。
よろしければ、ご感想をいただけると嬉しいです。
それでは、改めまして、ここまでお読み下さり、誠にありがとうございました。
また、何れかの作品でお目に掛かれますと幸いです。




