第49話 最期
この作品はフィクションです。
重要語句は【】、能力使用時は≪≫で記載しております。
気が付けば、俺は犬に似た怪物共に群がられ、食われていた。
どんどん体が欠けていく。
そして、全身を余すところなく食らい尽くされた。
気が付けば、俺は凄まじい重力に押し潰されそうになっていた。
全身から嫌な音が聞こえ始める。
そして、全身が押し潰され、床の染みと化した。
気が付けば、俺は壁にめり込んでいた。
眼前の、どこかで見たような少女に、殴られ続けている。
そして、容赦なく頭を粉砕された。
気が付けば、俺は壁と見紛う巨大樹の枝に拘束されていた。
枝からは棘が伸び始めており、全身を刺し貫いてくる。
そして、全身を棘で串刺しにされた。
気が付けば、俺は巨大な狼の前足に抑えつけられていた。
大きな口が俺に迫りくる。
そして、上半身を噛み千切られた。
気が付けば、俺は黒い大鬼に鷲掴みにされていた。
上空では無数の稲光が走っている。
そして、極大の落雷が直撃し、消し炭となった。
気が付けば、俺は機械的な巨人の両手で握り締められていた。
万力の様な力で締め上げられている。
そして、枯れ木の様にへし折られた。
死んだ。
情け容赦なく、無慈悲に殺された。
色々な場所で、色々な相手に、色々な方法で。
その理由すら分からずに、ただ殺され続けていた。
理不尽だ。
こんなのは理不尽過ぎる。
道理など微塵も感じられない。
――許せない。
俺を攻撃してくる、ありとあらゆる存在が。
――許せない。
俺から命を奪う、ありとあらゆる存在が。
――許せない。
それを甘んじて受け入れるしかない、無力な自分自身をこそが。
――怒れ。
――あらゆる暴虐に怒れ。
――あらゆる理不尽に怒れ。
――あらゆる強者に怒れ。
――あらゆる弱者に怒れ。
――そして、無力な自分に怒れ。
そこで、俺は意識を取り戻した。
俺は、まだ、死んではいない。
だが、今なお、頭を鷲頭掴みにされ、そして今まさに、何処かへと叩きつけられそうになっているところだった。
何もしなければ死ぬ。
幾度も殺されたみたいに、俺は殺されてしまう。
俺はそこで終わってしまう。
そうすれば、何も感じなくなるだろう。
そうすれば、何も考えなくて済むだろう。
このまま、誰も彼もが殺されてしまうのかもしれない。
あるいは、誰も彼もがその魂を吸収されてしまうのかもしれない。
その中には、俺の見知った人達も居るのだろう。
その中には、俺の見知った誰かが居るのだろう。
その中には、あの女王も――。
――許さない。
――許せない。
――それは、許さない。
――それだけは、許す訳にはいかない。
――それを止められない自分を、許すことは出来ない。
この身を焦がすのは怒り。
この頭を占めるのは怒り。
これは、これこそが――【憤怒】。
≪憤怒≫
俺の中に、新たな力が宿っているのを感じる。
新たな【大罪】。
二つ目の【大罪】。
さぁ、この身を焼き尽くさんばかりの【憤怒】を、今、解き放とう。
≪赫怒≫
全身に力がみなぎってゆくのを感じる。
まずは両腕を優先して再生させる。
俺の頭を掴む腕を両手で掴む。
≪雷切≫
そして、切断した。
俺の頭の拘束が解放される。
次に眼球を再生させる。
ようやく戻った視界に、両腕を失くした【怠惰の魔神】の姿を捉える。
俺は怒りに身を委ね、足の再生を待たず、【リング】による重力制御で相手に迫る。
殴りつけようとして、逆に蹴り飛ばされてしまう。
体の一部が失われたが、以前に比べて被害は軽微だ。
構わず、再度突撃する。
しかし、腕が届く前に、再び蹴り飛ばされてしまう。
それでも相手に飛び掛かろうと――。
「――馬鹿か貴様は! 一体、何をやっているんだ!?」
現れた少年の【執行者】が、俺に向かってそう叫びつつも、相手の傷口に剣を突き立てようとする。
しかし、それは叶わず、持っていた剣が弾き飛ばされてしまう。
剣が俺の傍へと突き刺さる。
「――くっ、両腕を失くしてこれか。往生際の悪いヤツめ!」
少年がそう悪態をついてみせる。
遅れて、皆がこの場へと現れた。
俺は傍に突き立つ剣を引き抜き、両手でその柄を握り締める。
そして、剣先を【怠惰の魔神】へと向ける。
俺は両腕を帯電させる。
今まで以上の力がそこに集まっているのが分かる。
イメージするのは、砲身。
両腕を砲身に、剣を砲弾に見立てる。
≪電磁投射砲≫
剣が凄まじい速度で【怠惰の魔神】へと突き刺さる。
刺さった!
それを見た少年が、すかさず剣に触れ【救世】を発動させる。
「俺に武器を!」
俺は言葉少なに、周囲にそう叫ぶ。
その意味を理解した者から、武器を受け取る。
≪電磁投射砲≫
そして放つ。
武器は相手に突き刺さる。
それを見た誰かがその武器に触れ、【救世】を発動させる。
俺の手に武器がなくなるまで、それを続けた。
【怠惰の魔神】は全身に武器を突き立てられ、それを手にした【執行者】達により間断なく【救世】を発動され続けている。
最初こそ、その身をよじらせ暴れていた【怠惰の魔神】だったが、今では大人しくされるがままとなっていた。
【怠惰の魔神】の気配が薄らいでいくのを感じる。
ようやく、その身に吸収されていた魂を相当数減じる事が出来たようだった。
俺はその様子を、地面に座り込みながら眺めている。
まるで蟻に群がられる羽虫の如きその様。
最強の【魔神】の最期にして、何と憐れなことか。
ふと気が付けば、すぐ傍には【魔神】の二人が居り、やはり複雑そうな表情を浮かべて、同じ光景を眺めていた。
ともすれば、己が身に起こり得たかもしれない状況を前に、自身の姿を投影しているのかもしれない。
俺が、殺され続ける幻覚を目の当たりにしたように。
起こり得たかもしれない結末を前に、果たして二人は何を思っているのだろうか。
あれ程、身を焦がさんばかりの怒りも、最早欠片も感じられない。
だが、己の内に【憤怒】が確かに宿っているのを感じる。
二つもの【大罪】を期せずして身に宿してしまった訳だが、一体、これからどうしたものだろうか。
知らず、俺は目の前の光景よりも、自身の今後をこそ憂うのだった。
遂に【怠惰の魔神】は完全に消滅した。
これで天界の襲撃から始まった騒動は、ようやく終わりを迎えた訳だ。
幼神の願いのままに、誰一人として欠ける事無く。
ふと、俺は一つの疑問を思い出したので、少年に問うてみた。
「そういえば、【嫉妬の魔神】の消滅をどうやって確かめたんですか?」
「――何だ今更? そんな事を聞いてどうする?」
「いえ、なんやかんやと聞きそびれてしまっていたので」
「……僕に分かる訳ないだろう」
「……は? どういう意味ですか?」
「……だから、僕は知らないと言ったんだ。確認する術はなかったんだからな」
「……えぇっと、いまいち理解出来ないんですが」
「――あの場では、勢いが重要だった。士気を高揚させ、困難へと対峙する為には、な」
「つまり?」
「嘘も方便と言うだろう。つまりはそういう事だ。まぁ【怠惰】の末路を見た限りでは、結果的に噓から出た実、となったようだがな」
「……何か適当ですね」
「それは適当の言葉の使い方を間違えているぞ」
「最悪の場合、【嫉妬の魔神】は健在で、俺達は【怠惰の魔神】に殺されていた訳じゃないですか?」
「――最悪というなら、あらゆる世界の魂が吸収され尽くした場合こそが、そうだろう。僕達の死など、それに比べれば些細な事に過ぎない」
「……小さいのに、なんか達観してますね」
「小さいは余計だ。それと貴様、馴れ馴れしいぞ」
「そりゃ、俺は別に敬ってる訳じゃありませんからね」
「……いずれは全ての【大罪】を討滅してみせる」
「それは俺も含めて、ですかね?」
「無論だ。そこに例外などあってはならない。【大罪】には常に【世界の敵】となる脅威が備わっているのだからな」
「これだけ貢献したのに、ですか? 随分と器量の狭い事ですね」
「それとも、死ぬまで監禁でもされたいのか?」
「それも御免被りたいですねぇ。出来ればのんびりと余生を送りたいですね」
「別にそれでものんびりは出来そうなものだがな」
「監禁状態で、ですか? 軟禁ならまだしも、いえ、軟禁も嫌ですけど」
「……まぁ、貴様らの処分に関しては、主が戻られてからになるだろうがな」
「それはまた、あんまり良い未来像は浮かばない展開ですね」
「身から出た錆だろう。粛々と沙汰を受け入れるが良い」
「――それで、戯言はもう十分か? そろそろ天界へ戻るぞ」
「あぁ、そうですね、そうしましょう」
俺達は、天界へと戻った。
天界に残っていた皆に、事の顛末を説明する。
その反応は様々だった。
喜ぶ者、悔やむ者、悲しむ者、笑う者、泣く者。
各々、思うところがあるのだろう。
その場の誰もが、俺よりも長く生きている訳だし。
その分、溜め込んでいた感情も多い事だろう。
皆が落ち着くのを待って、今後の方針が伝えられる。
最優先は天界の復旧、【神像】と【水晶球】の復元だ。
次いで、【水晶眼】を持つ俺達三人を中心とした部隊による、【魔王】以下の【大罪】達の討滅。
しばらくは、与えられる作業に忙殺される事になりそうだった。
次回が遂に最終話となります。
最後までお楽しみいただければ幸いです。
21/08/06 誤字修正
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




