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救世主は救わない  作者: nauji
第三章
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第49話 最期

この作品はフィクションです。


重要語句は【】、能力使用時は≪≫で記載しております。

 気が付けば、俺は犬に似た怪物共に群がられ、食われていた。

 どんどん体が欠けていく。

 そして、全身を余すところなく食らい尽くされた。



 気が付けば、俺は凄まじい重力に押し潰されそうになっていた。

 全身から嫌な音が聞こえ始める。

 そして、全身が押し潰され、床の染みと化した。



 気が付けば、俺は壁にめり込んでいた。

 眼前の、どこかで見たような少女に、殴られ続けている。

 そして、容赦なく頭を粉砕された。



 気が付けば、俺は壁と見紛う巨大樹の枝に拘束されていた。

 枝からは棘が伸び始めており、全身を刺し貫いてくる。

 そして、全身を棘で串刺しにされた。



 気が付けば、俺は巨大な狼の前足に抑えつけられていた。

 大きな口が俺に迫りくる。

 そして、上半身を噛み千切られた。



 気が付けば、俺は黒い大鬼に鷲掴みにされていた。

 上空では無数の稲光が走っている。

 そして、極大の落雷が直撃し、消し炭となった。



 気が付けば、俺は機械的な巨人の両手で握り締められていた。

 万力の様な力で締め上げられている。

 そして、枯れ木の様にへし折られた。




 死んだ。

 情け容赦なく、無慈悲に殺された。


 色々な場所で、色々な相手に、色々な方法で。


 その理由すら分からずに、ただ殺され続けていた。


 理不尽だ。

 こんなのは理不尽過ぎる。

 道理など微塵も感じられない。


 ――許せない。

 俺を攻撃してくる、ありとあらゆる存在が。


 ――許せない。

 俺から命を奪う、ありとあらゆる存在が。


 ――許せない。

 それを甘んじて受け入れるしかない、無力な自分自身をこそが。



 ――怒れ。

 ――あらゆる暴虐に怒れ。

 ――あらゆる理不尽に怒れ。

 ――あらゆる強者に怒れ。

 ――あらゆる弱者に怒れ。


 ――そして、無力な自分に怒れ。




 そこで、俺は意識を取り戻した。


 俺は、まだ、死んではいない。


 だが、今なお、頭を鷲頭掴みにされ、そして今まさに、何処かへと叩きつけられそうになっているところだった。




 何もしなければ死ぬ。

 幾度も殺されたみたいに、俺は殺されてしまう。


 俺はそこで終わってしまう。


 そうすれば、何も感じなくなるだろう。

 そうすれば、何も考えなくて済むだろう。


 このまま、誰も彼もが殺されてしまうのかもしれない。

 あるいは、誰も彼もがその魂を吸収されてしまうのかもしれない。


 その中には、俺の見知った人達も居るのだろう。

 その中には、俺の見知った誰かが居るのだろう。

 その中には、あの女王も――。



 ――許さない。


 ――許せない。


 ――それは、許さない。


 ――それだけは、許す訳にはいかない。


 ――それを止められない自分を、許すことは出来ない。



 この身を焦がすのは怒り。

 この頭を占めるのは怒り。


 これは、これこそが――【憤怒(ふんど)】。



≪憤怒≫



 俺の中に、新たな力が宿っているのを感じる。


 新たな【大罪(たいざい)】。


 二つ目の【大罪】。


 さぁ、この身を焼き尽くさんばかりの【憤怒】を、今、解き放とう。



赫怒(かくど)



 全身に力がみなぎってゆくのを感じる。


 まずは両腕を優先して再生させる。


 俺の頭を掴む腕を両手で掴む。



雷切(らいきり)



 そして、切断した。


 俺の頭の拘束が解放される。


 次に眼球を再生させる。


 ようやく戻った視界に、両腕を失くした【怠惰(たいだ)魔神(まじん)】の姿を捉える。


 俺は怒りに身を委ね、足の再生を待たず、【リング】による重力制御で相手に迫る。


 殴りつけようとして、逆に蹴り飛ばされてしまう。


 体の一部が失われたが、以前に比べて被害は軽微だ。


 構わず、再度突撃する。


 しかし、腕が届く前に、再び蹴り飛ばされてしまう。


 それでも相手に飛び掛かろうと――。



「――馬鹿か貴様は! 一体、何をやっているんだ!?」



 現れた少年の【執行者(しっこうしゃ)】が、俺に向かってそう叫びつつも、相手の傷口に剣を突き立てようとする。


 しかし、それは叶わず、持っていた剣が弾き飛ばされてしまう。


 剣が俺の傍へと突き刺さる。



「――くっ、両腕を失くしてこれか。往生際の悪いヤツめ!」



 少年がそう悪態をついてみせる。


 遅れて、皆がこの場へと現れた。



 俺は傍に突き立つ剣を引き抜き、両手でその柄を握り締める。


 そして、剣先を【怠惰の魔神】へと向ける。


 俺は両腕を帯電させる。


 今まで以上の力がそこに集まっているのが分かる。


 イメージするのは、砲身。


 両腕を砲身に、剣を砲弾に見立てる。



電磁投射砲(レールガン)



 剣が凄まじい速度で【怠惰の魔神】へと突き刺さる。


 刺さった!


 それを見た少年が、すかさず剣に触れ【救世(きゅうせい)】を発動させる。



「俺に武器を!」



 俺は言葉少なに、周囲にそう叫ぶ。


 その意味を理解した者から、武器を受け取る。



≪電磁投射砲≫



 そして放つ。


 武器は相手に突き刺さる。


 それを見た誰かがその武器に触れ、【救世】を発動させる。




 俺の手に武器がなくなるまで、それを続けた。


【怠惰の魔神】は全身に武器を突き立てられ、それを手にした【執行者】達により間断なく【救世】を発動され続けている。


 最初こそ、その身をよじらせ暴れていた【怠惰の魔神】だったが、今では大人しくされるがままとなっていた。


【怠惰の魔神】の気配が薄らいでいくのを感じる。


 ようやく、その身に吸収されていた魂を相当数減じる事が出来たようだった。


 俺はその様子を、地面に座り込みながら眺めている。


 まるで蟻に群がられる羽虫の如きその様。


 最強の【魔神】の最期にして、何と憐れなことか。


 ふと気が付けば、すぐ傍には【魔神】の二人が居り、やはり複雑そうな表情を浮かべて、同じ光景を眺めていた。


 ともすれば、己が身に起こり得たかもしれない状況を前に、自身の姿を投影しているのかもしれない。


 俺が、殺され続ける幻覚を目の当たりにしたように。


 起こり得たかもしれない結末を前に、果たして二人は何を思っているのだろうか。


 あれ程、身を焦がさんばかりの怒りも、最早欠片も感じられない。


 だが、己の内に【憤怒】が確かに宿っているのを感じる。


 二つもの【大罪】を期せずして身に宿してしまった訳だが、一体、これからどうしたものだろうか。


 知らず、俺は目の前の光景よりも、自身の今後をこそ憂うのだった。






 遂に【怠惰の魔神】は完全に消滅した。


 これで天界の襲撃から始まった騒動は、ようやく終わりを迎えた訳だ。


 幼神(ようしん)の願いのままに、誰一人として欠ける事無く。



 ふと、俺は一つの疑問を思い出したので、少年に問うてみた。



「そういえば、【嫉妬(しっと)の魔神】の消滅をどうやって確かめたんですか?」


「――何だ今更? そんな事を聞いてどうする?」


「いえ、なんやかんやと聞きそびれてしまっていたので」


「……僕に分かる訳ないだろう」


「……は? どういう意味ですか?」


「……だから、僕は知らないと言ったんだ。確認する術はなかったんだからな」


「……えぇっと、いまいち理解出来ないんですが」


「――あの場では、勢いが重要だった。士気を高揚させ、困難へと対峙する為には、な」


「つまり?」


「嘘も方便と言うだろう。つまりはそういう事だ。まぁ【怠惰】の末路を見た限りでは、結果的に噓から出た実、となったようだがな」


「……何か適当ですね」


「それは適当の言葉の使い方を間違えているぞ」


「最悪の場合、【嫉妬の魔神】は健在で、俺達は【怠惰の魔神】に殺されていた訳じゃないですか?」


「――最悪というなら、あらゆる世界の魂が吸収され尽くした場合こそが、そうだろう。僕達の死など、それに比べれば些細な事に過ぎない」


「……小さいのに、なんか達観してますね」


「小さいは余計だ。それと貴様、馴れ馴れしいぞ」


「そりゃ、俺は別に敬ってる訳じゃありませんからね」


「……いずれは全ての【大罪】を討滅してみせる」


「それは俺も含めて、ですかね?」


「無論だ。そこに例外などあってはならない。【大罪】には常に【世界の敵】となる脅威が備わっているのだからな」


「これだけ貢献したのに、ですか? 随分と器量の狭い事ですね」


「それとも、死ぬまで監禁でもされたいのか?」


「それも御免被りたいですねぇ。出来ればのんびりと余生を送りたいですね」


「別にそれでものんびりは出来そうなものだがな」


「監禁状態で、ですか? 軟禁ならまだしも、いえ、軟禁も嫌ですけど」


「……まぁ、貴様らの処分に関しては、(しゅ)が戻られてからになるだろうがな」


「それはまた、あんまり良い未来像は浮かばない展開ですね」


「身から出た錆だろう。粛々と沙汰を受け入れるが良い」

「――それで、戯言はもう十分か? そろそろ天界へ戻るぞ」


「あぁ、そうですね、そうしましょう」



 俺達は、天界へと戻った。




 天界に残っていた皆に、事の顛末を説明する。


 その反応は様々だった。


 喜ぶ者、悔やむ者、悲しむ者、笑う者、泣く者。


 各々、思うところがあるのだろう。


 その場の誰もが、俺よりも長く生きている訳だし。


 その分、溜め込んでいた感情も多い事だろう。



 皆が落ち着くのを待って、今後の方針が伝えられる。


 最優先は天界の復旧、【神像(しんぞう)】と【水晶球(すいしょうきゅう)】の復元だ。


 次いで、【水晶眼(すいしょうがん)】を持つ俺達三人を中心とした部隊による、【魔王(まおう)】以下の【大罪】達の討滅。


 しばらくは、与えられる作業に忙殺される事になりそうだった。






次回が遂に最終話となります。

最後までお楽しみいただければ幸いです。


21/08/06 誤字修正


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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