第48話 隔絶
この作品はフィクションです。
重要語句は【】、能力使用時は≪≫で記載しております。
流石にそう何度も攻撃を行わせてはくれなかったか。
俺は吹き飛ばされる体を、【リング】による重力制御で減速させてゆく。
思い出すのは【嫉妬の魔神】との戦闘だった。
あの時、アイツは【転移】後でも見て反応出来ると言っていた。
当然ながら、【怠惰の魔神】も同じ事が可能だったのだろう。
せめてもの救いは、致命傷を受けなかったことか。
結局、雷撃の効果の程を試せなかったが、恐らくは効果はなかったことだろう。
何か発想の転換とかが必要なのかもしれない。
それこそ、俺の世界の兵器を再現してみせるような感じで、何か出来ないだろうか。
眼下では、皆が必死に防戦を維持し続けているのが見える。
【執行者】は、少女以外の全員が近接で対応しているようだった。
その一人離れている少女が、今まさに、攻撃をしようとしているのが見て取れた。
≪純潔≫
≪救恤≫
≪勤勉≫
≪慈悲≫
【美徳】を四つも使用してみせた少女。
纏う漆黒の鎧が、淡く黄色に染め上がる。
その手に構えているのは弓矢。
弦が限界まで引き絞られてゆく。
矢が放たれた。
到達は一瞬。
しかし、矢は弾かれてしまう。
それにも構わず、少女は矢を次々と放ってゆく。
他方では、老年の【執行者】が低い姿勢で槍を構えているところだった。
≪慈悲≫
≪謙譲≫
突き出された槍は、一つではなく数十となって怒涛の様に【怠惰の魔神】の身を打ち付けた。
しかし、どれも僅かばかりも突き刺さる事は無い。
壮年の【執行者】が両手持ちの大剣を振りかぶっている。
≪忍耐≫
≪勤勉≫
≪節制≫
大上段からの一撃。
【怠惰の魔神】の頭へと直撃したそれは、しかし、効果は見られなかった。
女性の【執行者】が上半身を捻り、大太刀を両手で腰溜めに構えている。
≪勤勉≫
≪節制≫
横薙ぎの一閃。
これも【怠惰の魔神】を傷つけることは叶わなかった。
【執行者】達は奮戦しつつも、有効打は与えられていない。
このままではジリ貧だ。
どうにかして【救世】を体内で発動させ、少しでも弱体化を図らなければならない。
まずは先程仕損じた雷撃を見舞う事にする。
都合よく上方に位置している事だし、このまま利用させてもらうとしよう。
掌に力を集中させる。
イメージするのは、全てを切り裂く雷撃。
≪霹靂≫
世界を白く染め上げる。
次いで、空気が裂けるような轟音が響く。
直下の【怠惰の魔神】へと直撃する。
光と音が止んだ後、やはり健在の【怠惰の魔神】がその場には居た。
これで、光、高温、低温、雷、どれも効果なしとなった訳か。
だが、必ずしも効果を発揮する必要は無い筈だ。
例え効果がなくとも、【怠惰の魔神】の口を大きく開かせる事が出来れば良い。
折角だ、このまま【霹靂】を連続で見舞ってやる。
≪霹靂≫
≪霹靂≫
≪霹靂≫
≪霹靂≫
都合五つ目となる雷撃を叩きつけてやった。
果たしてどうだろうか。
眼下の【怠惰の魔神】と目が合った。
≪転移≫
反射的に【転移】で撤退を選択。
間を置かずして、先程俺の居た位置へと砲声が放たれていた。
【怠惰の魔神】の口が大きく開かれているのが見える。
好機!
その機を見逃さず、少年が素早く剣を口へと差し入れた。
≪救世≫
≪救世≫
≪救世≫
≪救世≫
≪救せ――≫
少年が剣ごと吹き飛ばされた。
だが、少年は確かに【救世】を体内で発動してみせた。
【怠惰の魔神】の様子に、しかし、然したる変化は見受けられない。
想定通り、否、想定以上に、吸収している魂の総量は途方も無いのかもしれない。
後、何度繰り返せば、弱体化することが叶うのだろうか。
しかし、嘆いている暇はない。
一回でも多く、【救世】を発動してやるしか手はないのだ。
以降も、奮戦が続けられる。
時折、口を開けさせる事には成功するのだが、流石に警戒されてしまったのか、上手く武器を突き入れる事は叶わなかった。
【怠惰の魔神】の力が弱まった印象は感じられない。
焦燥感が皆にも襲い掛かっているのが分かる。
俺は次に口が開く瞬間をひたすらに待つ。
掌には、凝縮された雷撃が維持されている。
武器を突き入れる事が叶わないとしても、雷撃ならば――。
誰かの攻撃によるものか、【怠惰の魔神】の口が開かれた。
砲声が放たれる。
それに合わせるように、雷撃を叩きこむ。
≪迅雷≫
速度重視の雷撃。
【嫉妬の魔神】と同じだとすれば、体内になら雷撃が通るかもしれない。
果たして、【怠惰の魔神】は痺れを覚えたのか、僅かではあるが体を硬直させた。
そこに剣が突き入れられる。
≪救世≫
≪救世≫
≪きゅ――≫
再び、少年が剣ごと吹き飛ばされた。
硬直時間が想定以上に短すぎる。
【救世】も僅かしか発動出来てはいなかった。
かなり厳しい。
せめて、口以外からも武器を体内へ侵入させ得なければ、手数が圧倒的に足りていない。
それに、口ばかり狙っていては、相手に警戒されてしまうだけだ。
あの硬い体表を貫ける何か……。
……確か、プラズマで金属を切断出来た筈だ。
それを再現出来れば、あるいは、あの体表を切り裂く事が出来ないだろうか。
詳細な原理は知る由もないが、確か、熱で溶かし気流で溶けた箇所を吹き飛ばす、みたいな仕組みだった筈だ。
俺は両手の間に力を循環させ、次第に高速化させてゆく。
加速、加速、加速、加速、加速。
両手の間が凄まじい熱を帯びていくのが分かる。
果たして、これで合っているのだろうか。
そんな疑問が浮かびもするが、望む結果さえ得られれば、仮定の成否など問うまい。
……そろそろいいだろうか。
両手の間に生じる雷光の線。
そしてこれを……どうすればいいのだろうか。
維持するには両の掌を向け合っている必要がある。
これで切断しようとするなら、腕を振りかぶって、両手の間に対象を捉えねばならない。
何だかイメージしていたモノとは違った。
とはいえ、効果さえあれば、見た目も使い勝手も二の次だ。
≪転移≫
≪雷切≫
遮二無二に両手を振るう。
リーチが余りにも短すぎる。
だが、不幸中の幸いと言うべきか、【怠惰の魔神】が俺に対し腕を振るってきていた。
その腕の来る方向へ両手の位置を無理矢理合わせる。
腕が俺に当たり、俺の体が吹き飛ばされた。
駄目だったか!?
距離を離された【怠惰の魔神】の姿を確認する。
すると、その片腕が無くなっていた。
切断した!?
使い勝手は最悪に近かったが、期せずして、カウンターとして機能してみせたようだ。
後は、腕の切断面に武器を突き刺す事が出来れば――。
眼前に足が迫っていた。
理解する間も無く、反射的に身を後ろに反らす。
顔が蹴り飛ばされる。
顔の表面が蹴りにより、削り飛ばされた。
視界が一時的に失われる。
≪転移≫
俺は出来る限り上空をイメージしてその場から逃れた。
眼球の治癒を待つ。
瞬間、背後に殺気。
≪傲骨≫
俺の全身が赤いオーラで覆われる。
殺気の方向へ体を向け、両腕を盾にし、衝撃に備える。
両腕が一瞬で粉砕され、そのまま胴体へと衝撃が加えられた。
俺の体が地表へと激突する。
【聖衣】による治癒が追い付かない。
治る前に怪我が増やされてしまう。
そこに更なる衝撃が降って来た。
【怠惰の魔神】が俺を追って落下して来ていたのだ。
今度は両足が潰されてしまった。
激痛に次ぐ激痛。
最早声も出せない。
更に殺気が俺に浴びせられる。
轟音。
……しかし、衝撃は加えられなかった。
「――っくぅ、は、早く退避しなさい」
「――ぐくぅっ、貴様、さっさと退け、邪魔だ」
「――っ、腕を切られた事で、流石の【怠惰】も怒ったようですね」
「――重い重い重いー。さっさとどっか行ってくれないと、ボクこのままじゃ押し潰されちゃうよ」
どうやら声から察するに、皆が俺を庇ってくれたようだ。
≪転移≫
一旦、無明の闇へと離脱した。
流石にここまでは追って来ない……筈だ。
余り自信は無かったので、人の居ない場所を選んではおいたが。
ともかく、【聖衣】の治癒を待たなければ――。
途端、何かに頭を鷲掴みにされた。
何かなどと、相手は決まりきっていた。
ここまで追ってくるなんて――。
思う間もなく、頭を掴まれたまま、どこかに叩きつけられた。
未だ戻らぬ視界がホワイトアウトした。
痛みは許容範囲を超えたのか感じられず、衝撃だけが伝わって来る。
ヤバ、い……。
流石にこのままだと、死ぬ。
再びどこかへと頭を叩きつけられた。
頭が拉げたのを感じる。
……これは、次で頭が完全に潰されるな。
どこか冷静に分析している自分がいた。
度重なる怪我により、【聖衣】の治癒は一向に進まない。
骨ごと砕かれ、手も足も動かせない。
……クソッ、どいつもこいつも、寄ってたかって、俺の体を好き勝手に壊しやがって。
思えば、世界を渡る度に、怪我を負っていた気さえする。
いや、それこそ最初は、俺の世界でイヌザルに食われてからだろうか。
世界の歴史上、俺程怪我した人間も居ないんじゃないだろうか。
まぁ、普通なら何度となく死んでるしな。
時間が間延びしているのか、中々最後の時は訪れない。
だが、今なお頭は鷲掴みにされているのが分かる。
……これで終わりなのか?
……これが俺の死なのか?
……こんな何処とも知れぬ場所で殺されて終わるのか?
……こんな終わりを迎える為に、俺は、俺は。
……あぁ、ちくし――。
そこで俺の意識は途切れた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




