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救世主は救わない  作者: nauji
第三章
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第47話 反攻

この作品はフィクションです。


重要語句は【】、能力使用時は≪≫で記載しております。

 集合の声が掛けられるまで、結局のところ、一睡もすることが出来なかった。

 体調は勿論の事、精神も万全とは言い難い有様だ。


 このまま決戦に挑むことになるかと思うと、胃が痛くなる思いだ。

 勿論、【聖衣(せいい)】のお蔭で、そんな事にはなる筈もないのだが。


 俺は、心なしか重たく感じる体を引きずるようにして、皆が集結している場所へと向かった。


 そこには、それほど人数は居なかった。


 見知らぬ【執行者(しっこうしゃ)】が三名増えていた。

 彼らが少年の【執行者】が言っていた上位者なのだろう。


 思っていた以上に人数が少ないらしい。

 もしくは、先の襲撃の際、命を落とした者が居たのかもしれない。



「――来たか、貴様で最後だな。では、これより【怠惰(たいだ)魔神(まじん)】討滅へと向かう」


「場所は分かるんですか?」


「既に【魔神】の【水晶眼(すいしょうがん)】で特定済みだ。――(しゃく)な事ではあったが、【思考共有】にて場所は皆に共有済みだ」


「……えぇっと、俺は未だ知らないんですが?」


「貴様は【魔神】と共に【転移(てんい)】すれば良いだろう? 僕はそんなのは御免(こうむ)る。各自で【転移】を行わせてもらう」


「……事ここに至って、まだそんな事を言ってるんですか? さっきも一緒に戦ってましたし、これから一緒に戦う仲間なんですよ?」


「出来る事としたい事は同義ではない。今後も慣れ合うつもりは無い」


「……それはまた、随分と程度の低い心掛けですね」


「何だと?」


「何か?」


「「…………」」



 俺と少年は互いに睨み合う。

 とはいえ、少年の表情は兜に覆われて見えないのだが、そう感じる。



「……あの二人、仲良いんですね。彼とあれ程気安く話す人を見るのは、ワタシ初めてです」


「……そういえば、貴女は女神様の監視――コホン、女神様のお部屋へ伺っていましたよね?」


「はい! でも【色欲(しきよく)】の件で部屋を離れて以来、その任務からは外されてしまいましたけど……」


「そうだったんですね。あの後から、天界も慌ただしかったですからね」



 俺と少年の様子を余所に、女性の【執行者】と、何時だったか女神の部屋に居た少女の【執行者】が仲良く話している。


 睨み合っていた俺達は、段々とお互いに虚しさを覚えてくる。

 どちらからともなく、お互いに視線を外した。



「ふぉっふぉっふぉっ、そこな青年の言う通りじゃて。共に戦う身なれば、仲良うするが良かろうて」


「老師、あまり不要な発言は控えられた方が……」



 そこに、老年の【執行者】が笑い混じりにそう指摘を寄越し、壮年の【執行者】がそれを(いさ)めている。



「――何だよ、随分と賑やかじゃねぇか。これから死んじまうって割には、なぁ?」


「コラ、止めなさい。貴女は口を(つぐ)んでいなさい」


「何だとてめぇ!? 雑魚が群れたところで、強くなる訳じゃねぇだろうがよぉ?」


「……だとしても、です。それに貴女もさして言う程には強くありませんよ」


「――上等だぁ! てめぇからぶち殺してやらぁ!」



 他方では、メイドさんと【色欲の魔神】の少女が言い争っている。



 どれもチームワークなんて欠片も期待出来そうにない組み合わせだ。


【怠惰の魔神】は最古にして絶対強者。

 多少の小手先でどうこうなる相手ではない。

 せめて、仲間内だけでも、上手く連携を行わなければ、話にならないだろうに。


 とはいえ、即席のチームの連携なんて高が知れているとも言える。

 しかも、【色欲の魔神】しかり、色々と因縁のある間柄だ。

 仲良くどころか、一緒に行動するのも忌避感があるのも無理のない話かもしれなかった。



「――皆様方、そろそろご出発のお時間ですか?」



 するとそこに、幼神(ようしん)が姿を現わした。



「はい、そろそろ向かおうかと思います」



 俺達を代表して少年がそう答えを返した。



「――それでは皆様方、くれぐれもお気を付けて下さい。相手は最強の【魔神】です。油断せず、常に最悪を想定し、最善を行って下さい」


「――はい、必ずや討滅してご覧に入れます」


「はい、また誰も欠ける事無く、再会出来る事を祈っております。それでは、吉報をお待ちしております」


「分かりました。それでは、また御前に参ります。――では、行くぞ」



 少年のその言葉を皮切りに、【執行者】達が【転移】していく。


 俺も慌ててメイドさん達の元へ赴く。

 ここで置いてきぼりは、かなり恥ずかしい事になる。



≪転移≫



 現れた先は、耳が痛い程の静寂に満たされた世界だった。


 青というか、緑というか、海のような色合いをした大地がある。


 その大地に小さな丘のように隆起している場所に、【怠惰の魔神】の姿はあった。


 ……特に動きは見受けられない。

 横になっているその姿を見るに、もしかしなくても寝ているようだった。



「……良いか? 【執行者】は全員、【救世(きゅうせい)】の武器を所持している。誰でもいい、隙をみて【怠惰】の体内に押し込み、【救世】を可能な限り発動し続けろ。【怠惰】が保有している魂の総量は不明だが、当然少ない訳がない」

「但し、体外で【救世】を使用しないようにだけは気を付けろよ。この世界が消滅するのは勿論の事だが、視界が奪われるのが致命的だ。最悪、接触している状態ならばそのまま攻撃しても構わんが、極力、体内へ武器が入った事を確認した後に【救世】を発動する事を心掛けろ」


「「「「了解」」」」



【執行者】の皆が異口同音に唱和してみせた。

 流石に良く訓練されているのだろう。


 確かに少年の言う通り、無明の闇で対峙するのは下策に過ぎる。

 ましてや、今回は他にも人が居るのだ。

 前回は【救世】による周りへの被害を恐れて、あえて世界消滅後の世界へと【転移】した訳だが、視界を確保したまま戦闘を行う方が断然良いのは理解出来る。


 今回、俺は素手だ。

 前回は【救世】が付与された剣を借り受けていたが、今回は借して貰えなかった。


 素手で【救世】を使おうとするなら、それこそ前回みたく口の中に手を突っ込むか、胴体などに手を突き刺すしかないだろう。

 だが、前者はともかく、後者は【怠惰の魔神】相手では無理だろう。

 天界で遭遇した際に体感した限り、相当な強度を誇っているようだからだ。


 故に、今回は遠距離からのサポートに回るのが無難だろう。



「――では、近接は一斉に仕掛けるぞ。全力でそれぞれの【救世】の武器を突き立てろ。いくぞ!」



七美徳(ななつのびとく) 励起(れいき)



 少年が白光する。

 次の瞬間には【怠惰の魔神】に剣を突き立てていた。


 だが、その剣先は表皮すら貫いてはいなかった。


 その衝撃に【怠惰の魔神】が目覚めようとするのが伝わって来た。


 遅れて、他の【執行者】達も自らの武器を【怠惰の魔神】へと突き立てた。


 しかし、そのどれもが突き刺さる事は出来なかった。



「……ンン、何ダァ? 眠リ、邪魔スル、許サナイ」



 群がっていた【執行者】達が弾かれたように吹き飛ばされる。



「……オ前ラ、マタ、俺ノ、場所、入ッタ。今度ハ、許サナイ!」


「……こちらも、今度は逃がすつもりは微塵もない。覚悟しろ、【怠惰】!」



 少年がそう啖呵を切り、【怠惰の魔神】へと再び接敵する。



 やはり、思った通り、相手の防御力の方が上回っているようだ。

 最悪なのは、俺達の中で最強であろう少年の攻撃が通用していない事だ。

 これでは、他の人達の攻撃は通用しない事を証明しているようなものだ。


 俺は(てのひら)に力を収束させてゆく。

嫉妬(しっと)の魔神】には通用したが、果たして、【怠惰の魔神】には通用し得るだろうか。


 掌に光が収束し、白光と化す。



貫光(かんこう)



【怠惰の魔神】の胴体目掛けて放つ。

 だが、やはり貫通する事は叶わなかった。


 こうなってくると、それこそ前回同様に口から【救世】を放つしかあるまい。


 ここで問題なのは、【怠惰の魔神】がボソボソ喋りな事だろう。

 それに伴って、口を余り開かないからだ。


 力で劣るこちらが、相手の口を無理やり開かせるのは難しいだろう。

 つまりは、相手が口を大きく開いた瞬間を狙う他に道はない。


 天界で見せた、あの咆哮。

 あれを再び行わせる事が出来れば。



「では、私達も行くとしましょう」


「あぁ、何とも分が悪そうだが、まぁ仕方ねぇか」



赫怒(かくど)


純潔(じゅんけつ)



溺惑(できわく)



 先にメイドさんが、次いで【魔神】の少女が赤いオーラで覆われ、その場から姿を消す。

 すぐに【怠惰の魔神】の元へと現れた。


 その様相は【嫉妬の魔神】との戦闘に酷似してはいるものの、相手の強さが段違いになっている。

 全員、攻撃よりも防御を優先し、【怠惰の魔神】の注意を分散させている。


 と、俺も観戦している場合ではない。

 少しでも有効と思われる手段を試していくしかない。


 俺は、先程と同じく、掌に光を収束させてゆく。

 胴体への攻撃は通じなかった。

 ならば、他の場所を狙ってみるまでだ。



≪貫光≫



 光の向かう先は、相手の眼球。


 直撃する。


 果たして、眼球は破壊されてはいなかった。


 眼球すらも硬いのか……。

 これでは口腔内への攻撃も通じるかは微妙なところだ。


 一点集中の貫通力重視の一撃で通用しないのだ。

 別の方向性から攻め、有効打を見つけられなければ、俺はこの場では足手纏いでしかない。


 次に試してみるべきは、高温か、低温だろうか。


 まずは高温。


 三度、掌に力を集中させる。


 イメージするのは、全てを消失させる炎。



≪転移≫



 現れたのは【怠惰の魔神】の直上。



蒼炎(そうえん)



 僅かの間も開けずに放つ。


【怠惰の魔神】の全身が蒼い炎に包まれる。



≪転移≫



 戦果を確認せず、その場をすぐに離れる。

 攻撃を食らうのは不味い。

 出来得る限り、一撃離脱を心掛けるべきだ。


 遠くで、蒼い炎が消えてゆくのが見える。

 そこからすぐに無傷の【怠惰の魔神】が姿を現した。

 特に後遺症らしい仕草も見受けられない。


 ……これも効かないのか。


 へこたれている暇はない。

 今、この瞬間にも、あの場の誰かが倒される可能性があるのだ。


 今度は低温を試す。


 掌に力を集中させる。


 イメージするのは、全てを静止させる風。



≪転移≫



 再び【怠惰の魔神】の直上に現れる。



凍風(とうふう)



 放つは全てを凍てつかせる絶対零度の風。


【怠惰の魔神】の全身が氷で覆われる。



≪転移≫



 どうだ!?

 一応は、全身を凍結させたように見えたが。


 遠目に見やった先、全身を覆っていた氷は、一瞬で内側から破砕させられていた。


 マジですか。

 高温はともかく、低温は絶対零度だったのだ。

 これで低温は効かない事が証明されてしまった。


 高温も、先程よりも更に高熱を試すしかないが、如何せん、既に現状が俺の限界でもある。

 飛躍的な向上は見込めそうにない。


 あと、試していないのは雷撃ぐらいか。


 掌に力を集中させる。


 イメージするのは、全てを白く染め上げる雷光。



≪転移≫



【怠惰の魔神】の直上に――。


 しかし、今度は行動を読まれていた。


 こちらへ伸ばされた腕が、俺を捉える。


 次の瞬間には、俺の体は、遥か上空へと吹き飛ばされてしまった。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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