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救世主は救わない  作者: nauji
第三章
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第46話 前夜

この作品はフィクションです。


重要語句は【】、能力使用時は≪≫で記載しております。

 その場所は闇に覆われていた。

 だが、無明という訳ではなかった。


 しかし、目的の場所には現れていなかった。

 遅れて、異世界から、この世界へ【転移(てんい)】した場合に、場所がズレる事を思い出す。



水晶眼(すいしょうがん)



 まだ、皆、この世界に留まっているようだ。

 ついでに、【嫉妬(しっと)魔神(まじん)】の存在も感じない。

 やはり、倒せたのだろうか。



≪転移≫



 今度こそ、皆の場所へと現れる事が出来た。



「――っ、貴様か。それで、【嫉妬】は何処に行った!?」


「恐らくですが、倒せたみたいです」


「……今のは僕の聞き間違いか? 貴様が倒したと言ったように聞こえたが?」


「俺にもまだよく分かりません」


「どういうことだ? ちゃんと説明しろ」


「実は――」



 俺は少年の【執行者(しっこうしゃ)】だけにではなく、他の皆に対しても起こった出来事を説明した。



「――消滅した!? そんな事が可能なのか!?」


「【水晶眼】で捜索してみましたが、存在は検知出来ませんでした」


「では、何か? 【救世(きゅうせい)】が【魔神】に通用するとでも言うつもりなのか?」


「それは俺にもよく分かりませんよ。ただ、相手の気配が希薄になってはいきましたね」


「……希薄にだと……どういうことだ?」


「――もしかしたら、ですが。体内で【救世】を使用したことにより、吸収していた魂を消滅させていったのかもしれません」



 少年が悩んでるところに、メイドさんからそんな言葉が投げかけられる。



「……【救世】は世界を消滅させる。……【魔神】は幾つもの世界の魂を吸収していた。つまり、その吸収した世界分に相当する【救世】を使用してみせれば、最終的には【魔神】に吸収された全ての魂を消滅させ、弱体化させる事が出来るというのか?」


「あくまで、状況からの推察に過ぎませんが」


「…………」


「ですが、もし、それが有効であるならば、残る【怠惰(たいだ)の魔神】に対しても、同じ事が可能な筈です」


「……あの【怠惰】に勝てる、と?」


「可能性はあるかと」


「…………一度、天界に皆を集めよう。そこで今後の方針を決定したい」


「……そうですね。それに一刻も早く【救世】による世界の消滅を止めた方が良いとも思われます」


「っ!? そうだな、それについては、今すぐ通達するとしよう」



 少年とメイドさんの話し合いにより、次の方針が決まったようだ。

 一時はどうなる事かと思われたが、どうやら光明が見えてきたらしい。


 とんだ一日になったものだ。

 まさか同じ日に、二度も【嫉妬の魔神】と相対す事になろうとは。


 何とも肝の冷える展開だった。

 何度か死にかけもした。

 しかし、どうにかこの世界への被害は最小限に抑えられただろう。


 良かった。

 本当に。


 脳裏に誰かの顔が浮かんだ気がした。



「――では、急ぎ天界に戻るぞ」



 そこに少年から皆に声が掛けられた。



「おそらく、上位の【執行者】全員を動員して、【怠惰】討滅に向かう運びとなるだろう」

「出来るだけ速やかに行動に移りたいところだが、天界で話を終えたら、一時休養を挟んだ後に出立するつもりだ」


「…………」



 出来れば屋敷のベッドで一眠りしたいところではあるが、そういう訳にもいくまいか。

 だが、いきなり泊っている筈の二人の姿が消えていれば、屋敷では騒ぎが起きていてもおかしくはない。

 一言、伝えてから天界に戻った方が良いかもしれない。



「俺は後から天界へ向かいます。皆は先に戻っていて下さい」


「――貴様、何を勝手な事をい――」


「――ハイハイ、委細承知しました。後は私に任せて、早く行ってあげて下さい」



 何やら訳知り顔――といっても兜で表情は伺えないが――といった女性の【執行者】に促されるままに、俺は屋敷へと向かうことにする。



≪転移≫



 とりあえず、(あて)がわれた客間に戻って来た。



「――おぬし!? 今の今まで、一体、どこで何をしておったんじゃ!?」



 すると、間を置かずにそんな声が掛けられた。

 見ると、女王が部屋に居た。



「……いらしてたんですか? 屋敷に被害はありませんでしたか?」


「……やはり、先程までの振動や轟音は、おぬしが関わっておったんじゃな?」


「先程お話した【嫉妬の魔神】がこの世界に襲来していたのです。それを俺達で迎撃に当たっていました」


「……ここに戻って来たということは、撃退に成功したということか? じゃが、連れの姿が見えんようじゃが……」


「彼女は先に天界へと戻ってもらいました。俺は事情の説明も兼ねて、ここに戻って来たんです」


「そうか、無事ならばなによりじゃ」


「それでですね、俺もすぐに天界へと戻る事になりまして、部屋や食事の手配をしていただいて大変申し訳ないのですが……」


「良い。まだやらねばならん事があるんじゃな?」


「はい、そうです。おそらく、次で最後になる筈です」


「最後じゃと? 戻って来られるのか?」


「……どうでしょうか。まだ可能かどうかも不確かな状況ですから」


「何やら良く分からんが、全てを終えたら、また屋敷を訪ねて来るが良い。今度こそ馳走を振舞ってやるゆえな」


「……分かりました。では、それを楽しみとして頑張ってみますよ」


「うむ……」


「…………」


「…………」


「……では、俺はそろそろ戻ります。それでは、また」


「……うむ、では、またな」



 最後は何やら気まずい雰囲気となってしまったが、俺はその場を後にする事にした。



≪転移≫



 天界では、既に【執行者】達が集まっていた。


 メイドさん達の姿を見つけ、そちらへと向かう。



「もう話は終わってしまいましたか?」


「いえ、まだこれからです」


「そうですか。……急展開過ぎて、何だか実感が湧きません」


「……そうですね。これ程早く【怠惰】と相対する事になろうとは、私としても予想外でした」


「【怠惰の魔神】を倒せれば、もう当面の脅威は去る事になるんですよね?」


「そうなります。残る【魔神】は私達【憤怒(ふんど)】と【色欲(しきよく)】のみとなります。新たな【魔神】が誕生したとしても、私共の敵ではないでしょう。それに、【魔王(まおう)】から魂を救出する事も可能となれば、今後【魔神】の発生も無くなっていくことでしょうね」


「……そう、ですね。【救世】が本当に有効であれば」


「はい、ですが【嫉妬】の気配は未だ感じられません。恐らくはもう消滅してしまったと思われますよ? ですから大丈夫ですよ」


「…………」



 これで、もし【救世】が有効でなかったならば。

 あるいは、【救世】は有効だとしても、【怠惰の魔神】にだけは効かなかったとしたら。

 それこそ、【救世】は効いておらず、【嫉妬の魔神】すらどこかで未だ健在だったとしたら。


 無明の闇が仇となり、【嫉妬の魔神】の姿が確認出来なかったばかりに、本当に消滅し得たのか、確信が未だに持てないでいる。


 もし俺の勘違いでしかなかったとしたら。

 そんな不安を拭い去る事が出来ない。


大罪(たいざい)】の力を抑制した【魔神】は、【水晶眼】では捉えられないらしい。

 それ故に、【嫉妬の魔神】の生存を否定出来る根拠が得られない。


 頭の中を同じような考えが堂々巡りをし続ける。




「――皆、集まったようだな」



 すると、何時の間にか少年が皆の前に立って居た。

 少年が話を続ける。



「集まって貰ったのは他でもない。先程、【嫉妬の魔神】の討滅に成功した」


「っ!?」



 何だって!?

 消滅を確認出来たのだろうか?


 俺の驚愕とは種類が異なるが、周囲もまた、驚愕に包まれていた。



「――諸君、静まりたまえ。これより後、残る【怠惰の魔神】の討滅へと赴く事になる。それには上位者全ての参戦を命令する。下位者は天界にて待機し、【神像(しんぞう)】や【水晶球(すいしょうきゅう)】の修繕を急いでもらう」

「以上だ。――何か質問はあるか?」


「はい!」


「よろしい、発言を許可する」


「ハッ、【救世】による世界の消滅は、もう中止されたとの認識で問題ありませんでしょうか?」


「あぁ、その認識で間違いはない。あれはあくまでも、【嫉妬の魔神】に対する緊急の措置だっただけだ。【怠惰】に関しては以前から積極的に活動する様子は見られない。今回の天界に対する襲撃こそが稀な事態だっただけだ」

「――他には何かあるか?」


「はい!」


「よろしい、発言を許可する」


「ハッ、【嫉妬の魔神】をどのようにして討滅せしめたのでしょうか?」


「その件か。それは、【魔神】の内部から【救世】を使用することにより、吸収していた魂を消滅させる事が可能だと判明した。それによって【嫉妬】を弱体化させ、遂には消滅させるに至った」



 その言葉を聞いて、周囲でどよめきが起こる。

 それがある程度静まった頃を見計らって、少年が声を掛ける。


「他に質問は?」


「はい!」


「よろしい、発言を許可する」


「【怠惰の魔神】への攻勢には、時期尚早ではないでしょうか? 天界も未だ復旧の目処がたっておりませんし……何故、今それを成す必要があるのでしょうか?」


「僕達【執行者】の目的は【大罪】の討滅にこそある。そして、急ぐ理由としては、相手に対策を取られる前に事を成す必要があるからに他ならない。【救世】が有効である今の内にこそ、決着を付けなければならないのだ」


「他には?」


「はい!」


「よろしい、発言を許可する」


「天界の守備はどうされるのでしょうか?」


「それについては、【天使(てんし)】に当たらせる。数は幾分と減らしたが、【魔王】相手ならば圧倒してみせるその力が減じた訳ではない。残る【魔神】と対峙している間ぐらいは十二分に持ち堪えられる筈だ」

「――他には? もうなければ、この場は一旦解散とする。上位と下位の代表者は僕の元に来るように。今後の子細な指示を与える」

「では、解散!」



 その言葉を皮切りに、皆が各々散らばっていった。


【嫉妬の魔神】の事を尋ねたいが、まだ少年は忙しそうにしている。

 話を聞くのは後にした方が良さそうだ。


 そうなると、途端に手持ち無沙汰となってしまう。

 確かさっきまで居た世界では、もう夜だった筈だ。

 どうせ出来る事もないのなら、今の内に少しでも休んでおくべきか。


 辺りは瓦礫が多少撤去されたとはいえ、部屋が修繕されている筈もない。


 床にごろ寝するしかないか。

 屋敷のベッドがまた恋しくなってくるが、贅沢は言っていられない。


 多少、皆から離れた位置へと移動し、申し訳程度に床を片付け、大人しくその場で横になる。


 一人で居ると、つい余計な事ばかりを考えてしまう。


 本当に【嫉妬の魔神】を倒せたのか。

【怠惰の魔神】に【救世】は有効なのか。

 今もどこかで新たな【魔王】や【魔神】が誕生し、どこかの世界を襲ってはいないだろうか。

 それは、ともすれば、先程まで居た世界だったりするのでは――。


 眠りに落ちる事無く、ただただ悪い想像だけが次々と浮かんでは消えてゆく。


 夜が訪れることのない天界で、俺は長い夜を過ごす。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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