第45話 死守
この作品はフィクションです。
重要語句は【】、能力使用時は≪≫で記載しております。
上空から睥睨する少年の【執行者】。
それに対し、宙を睨み付ける【嫉妬の魔神】。
どうやら、ようやく援軍が駆け付けて来てくれたらしい。
これで少しは負担が減りそうだ。
「――ご無事……ではありませんね。大丈夫ですか?」
すると、すぐ傍から声が掛けられた。
そちらを見れば、そこに居たのはメイドさんだった。
「遅れてしまい申し訳ありませんでした。しかし、良くここまで持ち堪えましたね」
「……ははっ、間一髪でしたけどね」
「その僅かな時間をこそ、貴方がたの頑張りが生み出してみせたのですよ」
「火事場の馬鹿力ってヤツですかね。ともかく、来てくれて助かりました。ありがとうございます」
「いえ、お礼は不要に願います」
「……その台詞、久々に聞いた気がしますね」
「……そうでしたでしょうか? それで、まだ動けそうですか?」
「まぁ、何とか。【聖衣】があるお蔭でゾンビアタックが可能ですからね」
「……? ぞんびあたっく、ですか?」
「あぁ、いえ、治癒任せに無茶出来るって感じです」
「……成程。しかし、致命の一撃を受ければ、間違いなく死んでしまします。くれぐれもお気を付け下さい」
「はい、肝に銘じておきます」
こうして、メイドさんと会話を続けていられたのは、既に【嫉妬の魔神】がこの場には居なかったからに他ならない。
奴は少年へと挑みかかっていたのだ。
「まさか、こんなにも早く、決着を付けられようとは思わなかったぜぇ?」
「まさか、こんなにも早く、再び貴様のその面を拝む羽目になるとはね。不愉快に過ぎるよ」
「「…………」」
何かの力場でも生じているのか、両者の間の景色が歪んで見える。
「ここで討滅する!」
「ここでぶっ殺す!」
両者が遂に激突する。
≪七美徳 励起≫
少年の全身が白光に包まれる。
≪狂乱≫
対して、【嫉妬の魔神】の全身が赤いオーラに覆われる。
ぶつかり合う両者。
吹き飛ばされたのは少年の方だった。
やはり、単独で敵う相手ではない。
今回は退けるだけでは駄目だ。
【魔神】にこの世界の魂を吸収させない為にも、【執行者】にこの世界を消滅させない為にも、ここで仕留めてみせなければならない。
何か方法はないだろうか。
俺は先程の光景を思い出す。
【嫉妬の魔神】の口腔内へと剣を突き入れ、雷撃を食らわせた。
その際、外部からでは効果の見られなかった雷撃が、体内からでは効果があったように見受けられた。
ならば、体内からならば、他の攻撃も効果があるかもしれない。
「さっき、奴の口腔内へ雷撃を放った際、効果があったように見えました。もしかしたら、体内への攻撃は有効になるかもしれません」
「――そうでしたか。それは良い情報となるかもしれませんね。【伝達】を使い、皆に共有しておきましょう」
「はい、お願いします」
「――おぃ、そろそろ準備は良いか? 早く行かないと、あのガキ死んじまうぞ?」
声を掛けてきたのは【色欲の魔神】の少女だった。
「――そうですね、そろそろ私達も加勢に向かいましょう」
「よっしゃあ! さっさと【嫉妬】の野郎にお礼参りと行こうぜ!」
「はしゃぐのは結構ですが、また不意を突かれないように気をつけなさい」
「うっせぇ! もう行くぜ!」
≪溺惑≫
少女の全身が赤いオーラに覆われる。
≪赫怒≫
≪純潔≫
次いで、メイドさんの全身も赤いオーラに覆われる。
両者の姿が掻き消える。
見上げると、【嫉妬の魔神】の周りに三者が集っていた。
俺も向かおうと立ち上がり、しかし、その前に女性の【執行者】の安否を確認することにした。
もう一つのクレーターへと向かう。
その中心で、彼女は片膝をついた状態で居た。
「大丈夫ですか?」
「……えぇ、何とか、まだ動けそうです」
「武器は……何処かに飛ばされてしまいましたか……」
「そのようですね。私はそれを探してから向かいます。貴方は私に構わず、先に向かって下さい」
「……分かりました。では先に向かいます」
「はい、くれぐれもお気お付けて」
「はい、貴女も。それでは、また」
彼女をその場に残し、俺も【嫉妬の魔神】の元へと急ぐ。
≪転移≫
そこでは、三者が【嫉妬の魔神】を囲み、絶えず攻撃を行っていた。
少年が二剣を振り、メイドさんと少女が拳や足で攻撃を加えている。
俺は接近するのを諦め、遠距離攻撃を行う事にした。
イメージするのは、細い光。
掌に集まる力を収束させてゆく。
より小さく、より細く、より密度を増して。
白熱したそれを解き放つ。
≪貫光≫
極細の白光が【嫉妬の魔神】を襲う。
「ぐはぁっ!?」
その体を貫いてみせた。
全力で、且つ、収束させれば、あの【魔神】相手にも通用する。
これで切れる手札が増えた。
ようやく俺も戦力の一員と成り得そうで安心する。
この時、俺は確かに油断した。
その隙を見逃されることなどあろうはずもなく、俺の体が袈裟斬りにされた。
「ギッ、ギャアァァァァ!?」
頭と体を焼くような激痛が襲う。
俺はほぼ左上半身のみとなって、地上へと落下する。
落ちゆく俺を、【嫉妬の魔神】が見下ろしている。
その手には、未だ【執行者】の長刀が握られていた。
俺はあれで斬られたのか……。
もし袈裟斬りではなく、唐竹などで斬られてたら、脳も心臓も両断されていたところだった。
とにかく、体の修復を待たなければ――。
そこに【嫉妬の魔神】が降って来た。
刀を逆手に持ち、俺の脳天を貫くつもりらしい。
≪転移≫
その姿を視認した瞬間、俺は反射的に離脱を図った。
危ないところだった。
あらかじめ逆袈裟で斬られていたら、【リング】が無くなり、【転移】が出来なくなるところだった。
そうすれば、今の一撃で俺は死んでいただろう。
薄氷を履むが如き、命の危険が連続する。
一撃加えたぐらいで、この有様か。
倒す前に、殺されてしまいかねない。
魔術だけに頼っている場合ではない。
【傲慢】を使わないと、地力の差ですぐに押し負けてしまう。
未だ治りきらない体を地面に横たえる。
追って来る気配は今のところ、ない。
考える。
体を動かせない今だからこそ、勝つ為の方法を。
【嫉妬の魔神】に有効だったのは、二つ。
体内への攻撃と、全力を一点集中させた攻撃だ。
前者は接近を、後者は間合いと時間を必要とする。
相手の力量を考えれば、二つとも、先程のように、こちらが致命傷を負いかねない。
だが逆に、致命傷を厭わなければ、有効打は与えられるという事でもある。
全力を体内にぶち込む。
これが現状、最適解となるだろうか。
先程の【貫光】を、収束ではなく、体内で拡散させてやれば、内側から崩壊してくれないだろうか。
……流石にそんなに簡単ではないか。
もっとこう、最強火力的なモノがあれば良いのだが……。
そろそろ体も治ってきた。
また、皆の元へ向かうとしよう。
≪水晶眼≫
「――っ!?」
不味い。
先程よりも街に近づいてる。
下手をすると、街に被害が出かねない。
どうにか場所を移させないと。
≪転移≫
【嫉妬の魔神】の周りを、四者が囲っていた。
女性の【執行者】も既に合流していたようだ。
俺は街とは反対側の位置へと陣取る。
そして、こちらへと注意を引くために攻撃する。
≪貫光≫
しかし、俺の攻撃は【嫉妬の魔神】を貫通しなかった。
焦り過ぎて、力の収束が弱過ぎたようだ。
だが、構わず連射する。
今は、ダメージではなく、ヘイトを稼ぎたい。
顔面を集中的に狙う。
こっちに来い!
そこから離れろ!
俺の願いも空しく、場所は更に街へと近づいていく。
俺の攻撃は全て無視されてしまっていた。
不味い不味い不味い。
手数で駄目なら、これならどうだ。
俺は全身に雷を纏うイメージを浮かべる。
より派手に、力を溜めているような見た目になるように。
≪雷鎧≫
全身を幾筋もの雷が包む。
更に雷の光量を上げてゆく。
全身が白光に包まれた。
これ見よがしに、両手を【嫉妬の魔神】へ翳す。
そして掌に力を集中させてゆく。
……どうだ?
まだ、こちらに反応は見せないのか?
俺の予想に反し、事態はより悪い方向へと転がってしまった。
【嫉妬の魔神】の姿が、その場に無い。
一体どこに――?
答えは背後からの衝撃により得られた。
「がはぁっ!?」
【雷鎧】が解除されてしまう。
俺の体が吹き飛ばされる。
それも、最悪な事に街側へと。
正面から来ず、背後から来るとは!?
そういえば、この戦闘中、背後からの攻撃が多かったようにも思う。
だが、そんな分析も、今更手遅れだ。
早くこの場から離れないと。
まだ、最悪の事態は続く。
【嫉妬の魔神】は俺に向かって、今度は正面から迫り来る。
俺の背後には街がある。
避けるのは不味い。
だが、食らうのも、吹き飛ばされるので不味い。
もし、もしも、屋敷に被害が出てしまったら。
その中に居る、誰かが怪我を負ってしまったら。
女王が死んで――――。
頭が真っ白になる。
次いで沸き上がるのは、自身への憤り。
――絶対に、やらせるな。
――アイツを、ここで、どうにかするんだ。
――全力を出せ。
――ふり絞れ。
――出し惜しみなどするな。
――相手の好きにさせるな。
――もう、何にも、誰にも、奪わせるな。
≪傲骨≫
俺の体が赤いオーラに覆われる。
自ら、迫り来る【嫉妬の魔神】へと全速力で向かって行く。
両者の接触までの間は一瞬。
≪転移≫
接触の寸前で、数瞬前までの位置へと【転移】する。
俺の眼前で、【嫉妬の魔神】の攻撃が振るわれる、が、こちらには当たらない。
俺は攻撃が終わった直後を狙い、【嫉妬の魔神】の顔面を左手で鷲掴みにする。
≪転移≫
【嫉妬の魔神】を引き連れて現れたのは、無明の闇が占める空間。
相手の姿が見えなくなる。
しかし、俺は相手の顔を掴んでいる状態だ。
そこに向かって、今度は右手を突っ込ませる。
狙いは口。
抵抗を無視して腕まで突き入れる。
俺の持ちうる、最強火力を叩き込む。
≪救世≫
それは、世界を消滅させる力。
一発では終わらせない。
連続して発動する。
≪救世≫
≪救世≫
≪救世≫
≪救世≫
≪救世≫
【嫉妬の魔神】の気配が弱まってゆくのを感じる。
効果があったのか!?
だが、ここで油断は出来ない。
ひたすらに叩き込む。
≪救世≫
≪救世≫
≪救世≫
≪救世≫
≪救世≫
どれほどの間、続けていたのだろうか。
気が付けば、【嫉妬の魔神】の抵抗が止んでいた。
その気配が急速に希薄になっていっている。
……まさか、消滅してきている?
相変わらず、視界には何も映りはしない。
だが、掴んでいる筈の手の感触や、突き入れている腕からの感触も、次第に希薄になってきていた。
しばらくすると、何の感触も得られなくなってしまった。
同時に、【嫉妬の魔神】の気配も消えてしまった。
……倒せた……のか?
自身で成した事とはいえ、実感が湧かない。
≪水晶眼≫
【嫉妬の魔神】を探してみるも、やはり、その存在を見つけられなかった。
更に幾分かの時間、その場に留まり、辺りの様子を伺ってみた。
だが、状況に変化はなかった。
もしかしたら、俺に気取られる事なく、先程の世界に戻ってしまっている可能性も在り得る。
俺には皆との連絡手段がない。
急いで戻ってみた方がいいかもしれない。
≪転移≫
俺はその場を後にした。
22/08/04 誤字修正
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