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救世主は救わない  作者: nauji
第三章
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第44話 迎撃

この作品はフィクションです。


重要語句は【】、能力使用時は≪≫で記載しております。

 闇が辺りを支配している。

 街から程近い地上。


嫉妬(しっと)魔神(まじん)】はこちらが来るのを待ち構えていた。

 向こうもこちらの存在に気が付いていたらしい。



「中々、嫌らしい事してくれてるじゃねぇか! なぁ、おい!?」

「行く先、行く先、世界が消えちまってて、たまったもんじゃねぇぜ!!」


「……それは、お気の毒様ね。別に同情はしていないけど」


「お前らも、十分に【世界の敵】だぜぇ?」


「き、貴様ぁ! 一体、皆がどんな思いでいるか――」


「そんなもんは関係ねぇさ。やる側の意見じゃなく、やられる側の意見ってヤツを尊重してやれよ、なぁ?」


「――くっ」


「オレはもっともっと強くなりてぇんだ。その為には、もっともっと魂が必要だ」

「お前らが邪魔してる所為で、全然足りてねぇ。ここに居合わせたのも何かの縁だ。行きがけの駄賃として、お前らは始末しておくかぁ!」


「アンタが居なくなれば、ひとまず、この事態は終息します。ですので、ここで止めます」


「ハッ、オレを止めるだぁ? 倒すでも殺すでもなく、止めるとは、また随分とまぁ、消極的なこって!」


「――息の根も止めるつもりですから、あながち間違いではないですがね」


「……言ってくれるじゃねぇか、雑魚が! なら、精々、すぐに殺されないことだ、なぁ!!!」



【嫉妬の魔神】の姿が掻き消える。



転移(てんい)



 反射的に上空へ逃れた。

 すぐに、元居た場所に攻撃が加えられた。



「悪くねぇ反応だ。だが、いつまでも避けられねぇぜ?」


「――シィッ!」



【嫉妬の魔神】の首元に女性の【執行者(しっこうしゃ)】の大太刀が振るわれる。


 硬質な音が響き渡る。



「あん? 全然効かねえじゃねぇか? マジでそんなもんなのか?」


「……さぁ、どうかしらね?」



 彼女は、まだ【美徳(びとく)】を使用していないようだ。

 何か考えがあるのだろうか。


 俺も彼女も接近戦しか出来ない。

 攻撃する際は、反撃されるリスクが常に付きまとう。


 この世界には被害を出したくない。

 それこそ、あの街には絶対に。

 出来る事なら、早々に別の世界へと連れて行きたいところなのだが。



「まずは男の方から殺るとするかぁ。その恰好、お前【救世主(きゅうせいしゅ)】だよなぁ? この世界も消滅させられちゃあ、たまったもんじゃねぇからなぁ!」


「ご心配なく。そのつもりはありませんから」


「念の為ってヤツだぜ!」



 またしても【嫉妬の魔神】の姿が掻き消えた。



≪転移≫



 今度は地上に退避する。

 ――が、背後に攻撃が加えられた。



「ぐはっ!?」


「出てくる場所を予測なんてしなくても、出て来た後に攻撃すればいいだけだろうが!」


「――シィッ!」


「っ!? 女ぁ、さっきから意味のねぇ事してんじゃねぇぞ!」



 彼女がまたしても首を斬り付けたようだ。

 だが、やはり効果の程は見られない。



≪転移≫



 相手の気がこちらから逸れた隙に、俺も相手に剣を振るった。



「――てめぇは剣に関しちゃあ素人みてぇだな。全然なっちゃいねぇぜ?」



 それを容易く掴み取られてしまう。

 だが、接触出来たのは好都合だ。

 これで一緒に【転移】してしまえば――。


 俺が行動に移すよりも早く、頭を横から蹴り飛ばされた。

 首から嫌な音がした。

 確実に折られた。



「――シィッ!」


「そうそう何度も食らうかよ、間抜けがぁ!」



勤勉(きんべん)


節制(せっせい)



 彼女の動きが急に加速した。



「何ぃ!?」


「――セヤァ!!」



執行(しっこう)



【嫉妬の魔神】の首に大太刀の連撃が叩き込まれる。


 今度は効いている。

 大太刀が叩きつけられる度、首に傷跡が刻まれてゆく。


 より速く、より鋭く、より深く。

 一刀毎に、その切れ味が増しているように見受けられる。



「――くそがぁ、調子に乗ってんじゃねぇぞ!!!」



嫉視(しっし)



【嫉妬の魔神】の目が怪しく光る。


 それを受けて、彼女の動きが明らかに鈍くなる。



≪転移≫



 後頭部目掛けて、【リング】の加重を加えた一撃を見舞う。


 当たった、と思った次の瞬間には、後ろ蹴りを食らい、上空へと蹴り上げられていた。


 眼下では、彼女の大太刀が掴み取られたのが見える。

 そのまま刀ごと、彼女の体を引き寄せようとしている。


 俺は【聖衣(せいい)】で治癒出来るが、彼女はそうではない。

 彼女が攻撃されるのは、極力俺が防がねばならない。



≪転移≫



 狙うは眼球。

 情け容赦なく、剣を突き刺す。


 が、首を横に動かされ、軽く避けられてしまう。



「甘ぇぜ! 現れてから攻撃まで、間があり過ぎだ! そんなもん、見てから避けられるぜ!」



 掴んだ大太刀を、ハンマー投げの要領で投げ飛ばし、彼女ごと俺を巻き込み吹っ飛ばされる。


 吹き飛んだ先に、【嫉妬の魔神】が現れる。

 そして、二人諸共、蹴り飛ばされた。



「まだまだぁ!」



 今度は上から殴りつけられた。

 体が地面で弾み、二人の体が離れる。



「前言撤回して悪いが、女の方が強いらしいからなぁ。それにオレを傷つけてくれやがった」

「――だから、先に殺してやるぜ!」



 彼女の頭目掛けて、足が踏み下ろされようとしているのが、視界の奥で見えた。


 思わず、俺はそちらに向かい手を伸ばす。


 不味い。

 あのままでは、頭を踏み砕かれてしまう。


 時間が引き延ばされるような感覚。


 間に合わなければ死ぬ。

 間に合わせなければ殺される。



≪転移≫



 俺は伸ばした手をそのままに、【嫉妬の魔神】へと向ける。


【嫉妬の魔神】の視線がこちらの姿を捉えたのが分かる。


 こちらが無手を向けている事を確認し、嘲笑っているのが見える。


 俺は伸ばした(てのひら)に集中する。


 必要なのは、威力ではなく、速さ。


 頭の中に、白い光を放つ雷がイメージされる。


 かつて、【魔術師(まじゅつし)】から食らった雷撃。


 出来るかどうかなど、考えない。


 相手を貫く白い雷をイメージする。


 速く、速く、速く、速く、速く。


 掌に、今まで感じた事のない力が帯びていくのが分かる。



白雷(はくらい)



 白い雷が【嫉妬の魔神】を貫いた。


 相手が一瞬怯んだのが分かった。


 俺はすぐさま彼女の身に触れ、その場を離れた。



≪転移≫



 出来た。

 ようやく出来た。


 魔術を今、使ってみせた。


 体質の変容が完了したのか、俺は魔術を扱えるようになったようだった。


 だが、その感慨に浸る暇は与えられなかった。



「流石のオレも、驚いて思わず動きを止めちまったぜ。お前、中々面白い事してくれるじゃねぇか?」



 すぐ傍に【嫉妬の魔神】が現れていた。



「だが、悲しいかな、威力がまるで足りてねぇ。あれが必殺の一撃だったってんなら、もぅお前らはお終いだぜ?」



 威力よりも速度重視の一撃ではあった。

 だが、やはりというべきか、【嫉妬の魔神】の体に【白雷】による傷や火傷は見受けられない。


 例え、威力重視だったとしても、傷一つ与えられないかもしれない。



「お前ら、中々どうして、芸達者らしいなぁ。まだ、出してない技があるなら、殺される前に披露して見せてくれよ!」



【嫉妬の魔神】は両手を組み、両腕を真上から真下へと勢いよく振り下ろす。

 その衝撃で、地面が【嫉妬の魔神】を中心として、同心円状に(めく)り上げられてゆく。


 それはこちらにも迫り、俺達は慌てて飛びずさる。


 俺の右肩に手が置かれた。

 そのまま右腕が引き千切られる。


 激痛。

 頭の中が痛みで埋め尽くされる。

 視界はホワイトアウトしそうになる。


 そのまま胴体を、捲り上がる地面の方へと蹴り飛ばされた。


 体が隆起した地面を貫き、反対側の隆起した地面をも貫き抜けてゆく。


 遠ざかる視界に、彼女の体が上空へと飛ばされたのが見えた。


 俺は右腕の完治を待たず、左の掌に意識を集中する。


 イメージするのは蒼い炎。


 今度は威力重視。


 全てを蒸発させる超高温を現出させる。



≪転移≫



 距離は至近、放つ。



蒼炎(そうえん)



【嫉妬の魔神】の全身が、蒼い炎に包み込まれる。



「だから言ったろ? 遅いってよぉ!」



 が、俺の背後から声が掛けられる。

 すかさず殴り飛ばされた。


 背骨から嫌な音がした。

 痛みが放射状に広がってゆく。



「ほら、忘れ物だぜ?」


「ぐはぁっ!?」



 腹から剣先が突き出す。

 背中から剣を刺し貫かれた。


 痛みで視界が明滅する。


 そこに轟音が響き渡る。



「ぐっ!?」



 彼女の振り下ろした大太刀が、【嫉妬の魔神】に受け止められていた。



「その大太刀はもう堪能したぜ? 他に出来る芸は無い――」


「――セィ!」


「うぐぉっ!?」



 彼女は受け止められた大太刀から手を離し、素早く腰の長刀を相手の口腔内へと突き刺した。


 流石の【嫉妬の魔神】も、たまらずに嘔吐(えず)きをあげる。

 が、貫通させる事は叶わず、喉奥を突くに留まったようだった。

 すぐさま刺し込まれた刀を掴み、抜き出そうとする。

 そこに彼女は刀の柄を掌底で更に奥へと押し込んでみせた。



「うげぇぇっ!?」



【嫉妬の魔神】は慌てて彼女を吹き飛ばした。

 喉奥に入れられた刀を抜き出す。



「うげっ、ガハッ、ガハッ。……随分と手癖の悪い女だなぁ、えぇ!?」



≪転移≫



 彼女に(なら)い、俺も剣を口腔内へと突き刺した。



≪白雷≫



 間を置かず、剣に伝わせて雷撃を放つ。



「ガァァァァッ!?」



 どうやら、今度の雷撃は効果があったようだった。


 たまらず、【嫉妬の魔神】が咆哮を上げる。

 その衝撃波で、俺は持っていた剣ごと吹き飛ばされた。



「ゼェゼェゼェ……。人様の口に何度も何度も物を突っ込みやがってぇ! 覚悟は出来てるんだろうなぁ、えぇ、おぃ!?」



憤嫉(ふんしつ)



【嫉妬の魔神】の気配が膨れ上がる。


 次の瞬間には、俺達の体が地面へと叩きつけられていた。


 遅れて、衝撃と痛みが襲い来る。



「ぐぼぁっ!?」


「ぎゃっ!?」



 地面が勢いよく陥没してゆく。

 すぐに深さ数メートルはある、クレーターと化してしまった。



「――これは意趣返しだぜ。自分の得物で刺し貫かれてみろや、コラァ!!!」



 見れば、【嫉妬の魔神】の手には剣と刀が握られていた。

 恐らくは、あれを俺達の口腔内へと刺し貫くつもりなのだろう。


 ヤバ――。


 思う間もなく、剣先が眼前へと迫り来ていた。


 すぐに強烈な痛みが――来なかった。



「――この剣は、【大罪(たいざい)】が所持していて良い代物ではない」



 聞き覚えのある声がする。


 先程まで眼前に迫っていた剣先が消えている。


 空手となった【嫉妬の魔神】が宙を睨んでいる。


 その視線の先を辿れば、少年の【執行者】の姿があった。






22/06/19 誤字修正


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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『勇者は転職して魔王になりました』
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