第44話 迎撃
この作品はフィクションです。
重要語句は【】、能力使用時は≪≫で記載しております。
闇が辺りを支配している。
街から程近い地上。
【嫉妬の魔神】はこちらが来るのを待ち構えていた。
向こうもこちらの存在に気が付いていたらしい。
「中々、嫌らしい事してくれてるじゃねぇか! なぁ、おい!?」
「行く先、行く先、世界が消えちまってて、たまったもんじゃねぇぜ!!」
「……それは、お気の毒様ね。別に同情はしていないけど」
「お前らも、十分に【世界の敵】だぜぇ?」
「き、貴様ぁ! 一体、皆がどんな思いでいるか――」
「そんなもんは関係ねぇさ。やる側の意見じゃなく、やられる側の意見ってヤツを尊重してやれよ、なぁ?」
「――くっ」
「オレはもっともっと強くなりてぇんだ。その為には、もっともっと魂が必要だ」
「お前らが邪魔してる所為で、全然足りてねぇ。ここに居合わせたのも何かの縁だ。行きがけの駄賃として、お前らは始末しておくかぁ!」
「アンタが居なくなれば、ひとまず、この事態は終息します。ですので、ここで止めます」
「ハッ、オレを止めるだぁ? 倒すでも殺すでもなく、止めるとは、また随分とまぁ、消極的なこって!」
「――息の根も止めるつもりですから、あながち間違いではないですがね」
「……言ってくれるじゃねぇか、雑魚が! なら、精々、すぐに殺されないことだ、なぁ!!!」
【嫉妬の魔神】の姿が掻き消える。
≪転移≫
反射的に上空へ逃れた。
すぐに、元居た場所に攻撃が加えられた。
「悪くねぇ反応だ。だが、いつまでも避けられねぇぜ?」
「――シィッ!」
【嫉妬の魔神】の首元に女性の【執行者】の大太刀が振るわれる。
硬質な音が響き渡る。
「あん? 全然効かねえじゃねぇか? マジでそんなもんなのか?」
「……さぁ、どうかしらね?」
彼女は、まだ【美徳】を使用していないようだ。
何か考えがあるのだろうか。
俺も彼女も接近戦しか出来ない。
攻撃する際は、反撃されるリスクが常に付きまとう。
この世界には被害を出したくない。
それこそ、あの街には絶対に。
出来る事なら、早々に別の世界へと連れて行きたいところなのだが。
「まずは男の方から殺るとするかぁ。その恰好、お前【救世主】だよなぁ? この世界も消滅させられちゃあ、たまったもんじゃねぇからなぁ!」
「ご心配なく。そのつもりはありませんから」
「念の為ってヤツだぜ!」
またしても【嫉妬の魔神】の姿が掻き消えた。
≪転移≫
今度は地上に退避する。
――が、背後に攻撃が加えられた。
「ぐはっ!?」
「出てくる場所を予測なんてしなくても、出て来た後に攻撃すればいいだけだろうが!」
「――シィッ!」
「っ!? 女ぁ、さっきから意味のねぇ事してんじゃねぇぞ!」
彼女がまたしても首を斬り付けたようだ。
だが、やはり効果の程は見られない。
≪転移≫
相手の気がこちらから逸れた隙に、俺も相手に剣を振るった。
「――てめぇは剣に関しちゃあ素人みてぇだな。全然なっちゃいねぇぜ?」
それを容易く掴み取られてしまう。
だが、接触出来たのは好都合だ。
これで一緒に【転移】してしまえば――。
俺が行動に移すよりも早く、頭を横から蹴り飛ばされた。
首から嫌な音がした。
確実に折られた。
「――シィッ!」
「そうそう何度も食らうかよ、間抜けがぁ!」
≪勤勉≫
≪節制≫
彼女の動きが急に加速した。
「何ぃ!?」
「――セヤァ!!」
≪執行≫
【嫉妬の魔神】の首に大太刀の連撃が叩き込まれる。
今度は効いている。
大太刀が叩きつけられる度、首に傷跡が刻まれてゆく。
より速く、より鋭く、より深く。
一刀毎に、その切れ味が増しているように見受けられる。
「――くそがぁ、調子に乗ってんじゃねぇぞ!!!」
≪嫉視≫
【嫉妬の魔神】の目が怪しく光る。
それを受けて、彼女の動きが明らかに鈍くなる。
≪転移≫
後頭部目掛けて、【リング】の加重を加えた一撃を見舞う。
当たった、と思った次の瞬間には、後ろ蹴りを食らい、上空へと蹴り上げられていた。
眼下では、彼女の大太刀が掴み取られたのが見える。
そのまま刀ごと、彼女の体を引き寄せようとしている。
俺は【聖衣】で治癒出来るが、彼女はそうではない。
彼女が攻撃されるのは、極力俺が防がねばならない。
≪転移≫
狙うは眼球。
情け容赦なく、剣を突き刺す。
が、首を横に動かされ、軽く避けられてしまう。
「甘ぇぜ! 現れてから攻撃まで、間があり過ぎだ! そんなもん、見てから避けられるぜ!」
掴んだ大太刀を、ハンマー投げの要領で投げ飛ばし、彼女ごと俺を巻き込み吹っ飛ばされる。
吹き飛んだ先に、【嫉妬の魔神】が現れる。
そして、二人諸共、蹴り飛ばされた。
「まだまだぁ!」
今度は上から殴りつけられた。
体が地面で弾み、二人の体が離れる。
「前言撤回して悪いが、女の方が強いらしいからなぁ。それにオレを傷つけてくれやがった」
「――だから、先に殺してやるぜ!」
彼女の頭目掛けて、足が踏み下ろされようとしているのが、視界の奥で見えた。
思わず、俺はそちらに向かい手を伸ばす。
不味い。
あのままでは、頭を踏み砕かれてしまう。
時間が引き延ばされるような感覚。
間に合わなければ死ぬ。
間に合わせなければ殺される。
≪転移≫
俺は伸ばした手をそのままに、【嫉妬の魔神】へと向ける。
【嫉妬の魔神】の視線がこちらの姿を捉えたのが分かる。
こちらが無手を向けている事を確認し、嘲笑っているのが見える。
俺は伸ばした掌に集中する。
必要なのは、威力ではなく、速さ。
頭の中に、白い光を放つ雷がイメージされる。
かつて、【魔術師】から食らった雷撃。
出来るかどうかなど、考えない。
相手を貫く白い雷をイメージする。
速く、速く、速く、速く、速く。
掌に、今まで感じた事のない力が帯びていくのが分かる。
≪白雷≫
白い雷が【嫉妬の魔神】を貫いた。
相手が一瞬怯んだのが分かった。
俺はすぐさま彼女の身に触れ、その場を離れた。
≪転移≫
出来た。
ようやく出来た。
魔術を今、使ってみせた。
体質の変容が完了したのか、俺は魔術を扱えるようになったようだった。
だが、その感慨に浸る暇は与えられなかった。
「流石のオレも、驚いて思わず動きを止めちまったぜ。お前、中々面白い事してくれるじゃねぇか?」
すぐ傍に【嫉妬の魔神】が現れていた。
「だが、悲しいかな、威力がまるで足りてねぇ。あれが必殺の一撃だったってんなら、もぅお前らはお終いだぜ?」
威力よりも速度重視の一撃ではあった。
だが、やはりというべきか、【嫉妬の魔神】の体に【白雷】による傷や火傷は見受けられない。
例え、威力重視だったとしても、傷一つ与えられないかもしれない。
「お前ら、中々どうして、芸達者らしいなぁ。まだ、出してない技があるなら、殺される前に披露して見せてくれよ!」
【嫉妬の魔神】は両手を組み、両腕を真上から真下へと勢いよく振り下ろす。
その衝撃で、地面が【嫉妬の魔神】を中心として、同心円状に捲り上げられてゆく。
それはこちらにも迫り、俺達は慌てて飛びずさる。
俺の右肩に手が置かれた。
そのまま右腕が引き千切られる。
激痛。
頭の中が痛みで埋め尽くされる。
視界はホワイトアウトしそうになる。
そのまま胴体を、捲り上がる地面の方へと蹴り飛ばされた。
体が隆起した地面を貫き、反対側の隆起した地面をも貫き抜けてゆく。
遠ざかる視界に、彼女の体が上空へと飛ばされたのが見えた。
俺は右腕の完治を待たず、左の掌に意識を集中する。
イメージするのは蒼い炎。
今度は威力重視。
全てを蒸発させる超高温を現出させる。
≪転移≫
距離は至近、放つ。
≪蒼炎≫
【嫉妬の魔神】の全身が、蒼い炎に包み込まれる。
「だから言ったろ? 遅いってよぉ!」
が、俺の背後から声が掛けられる。
すかさず殴り飛ばされた。
背骨から嫌な音がした。
痛みが放射状に広がってゆく。
「ほら、忘れ物だぜ?」
「ぐはぁっ!?」
腹から剣先が突き出す。
背中から剣を刺し貫かれた。
痛みで視界が明滅する。
そこに轟音が響き渡る。
「ぐっ!?」
彼女の振り下ろした大太刀が、【嫉妬の魔神】に受け止められていた。
「その大太刀はもう堪能したぜ? 他に出来る芸は無い――」
「――セィ!」
「うぐぉっ!?」
彼女は受け止められた大太刀から手を離し、素早く腰の長刀を相手の口腔内へと突き刺した。
流石の【嫉妬の魔神】も、たまらずに嘔吐きをあげる。
が、貫通させる事は叶わず、喉奥を突くに留まったようだった。
すぐさま刺し込まれた刀を掴み、抜き出そうとする。
そこに彼女は刀の柄を掌底で更に奥へと押し込んでみせた。
「うげぇぇっ!?」
【嫉妬の魔神】は慌てて彼女を吹き飛ばした。
喉奥に入れられた刀を抜き出す。
「うげっ、ガハッ、ガハッ。……随分と手癖の悪い女だなぁ、えぇ!?」
≪転移≫
彼女に倣い、俺も剣を口腔内へと突き刺した。
≪白雷≫
間を置かず、剣に伝わせて雷撃を放つ。
「ガァァァァッ!?」
どうやら、今度の雷撃は効果があったようだった。
たまらず、【嫉妬の魔神】が咆哮を上げる。
その衝撃波で、俺は持っていた剣ごと吹き飛ばされた。
「ゼェゼェゼェ……。人様の口に何度も何度も物を突っ込みやがってぇ! 覚悟は出来てるんだろうなぁ、えぇ、おぃ!?」
≪憤嫉≫
【嫉妬の魔神】の気配が膨れ上がる。
次の瞬間には、俺達の体が地面へと叩きつけられていた。
遅れて、衝撃と痛みが襲い来る。
「ぐぼぁっ!?」
「ぎゃっ!?」
地面が勢いよく陥没してゆく。
すぐに深さ数メートルはある、クレーターと化してしまった。
「――これは意趣返しだぜ。自分の得物で刺し貫かれてみろや、コラァ!!!」
見れば、【嫉妬の魔神】の手には剣と刀が握られていた。
恐らくは、あれを俺達の口腔内へと刺し貫くつもりなのだろう。
ヤバ――。
思う間もなく、剣先が眼前へと迫り来ていた。
すぐに強烈な痛みが――来なかった。
「――この剣は、【大罪】が所持していて良い代物ではない」
聞き覚えのある声がする。
先程まで眼前に迫っていた剣先が消えている。
空手となった【嫉妬の魔神】が宙を睨んでいる。
その視線の先を辿れば、少年の【執行者】の姿があった。
22/06/19 誤字修正
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