第41話 選択
この作品はフィクションです。
重要語句は【】、能力使用時は≪≫で記載しております。
未だ二体の【魔神】による戦いは続いていた。
苛烈に攻め立てているのは【嫉妬の魔神】の方だ。
【怠惰の魔神】は終始守りに徹している。
「オラオラオラァ! どうしたぁ旦那! アンタの力は、こんなもんじゃねぇだろぉ!?」
「俺、オ前、苦手。何時モ、追ッ駆ケテ、来ル。ダカラ、会イタク、ナイ」
「オレは何時でも旦那に会いたくて会いたくてたまらねぇんだよ!」
「オ前、話、聞カナイ。俺、会イタク、ナイ、言ッタ」
「旦那のその強さ! そいつがオレをこうも狂わせるのさぁ!」
「俺、強ク、ナイ。皆ガ、弱イ、ダケ」
「そうかもしれねぇ、そうかもしれねぇなぁ! じゃあオレはどうだい!? オレは旦那にどこまで近づけてるんだい!?」
「オ前、マダ、弱イ。俺ニ、勝テナイ」
「ヒャハハハハッ! そりゃあいい、いいじゃねぇか! それなら、まだまだ鍛えがいがあるってもんだ!」
「オ前、シツコイ。オ前、諦メナイ。ダカラ、オ前、凄ク、邪魔ダ!」
≪倦怠≫
「おぉ!? 旦那がその気になってくれて、オレは嬉しくて嬉しくて、思わず殺しちまいそうだせぇ!!!」
≪憤嫉≫
「まだまだこんなもんじゃねぇだろぉ!? えぇ、旦那ぁ!!!」
「……あれに近づくんですか?」
俺の問いに、しかし、答えはなかった。
誰も好き好んであんな死地にしか見えない場所へ向かいたい訳ではないだろう。
だが、まだ二体が健在な内に、【怠惰の魔神】を退けなければならない。
「俺達が手出しして、【嫉妬の魔神】が黙ってますかね?」
「【嫉妬】の反感を買う程に、執拗に攻め立てる必要は無い。あくまでも【怠惰】の意識を乱せればいい。いいか、やり過ぎるなよ?」
俺の疑問に、今度こそ少年の【執行者】が答えを返す。
俺の役目は陽動だ。
下手に接近しない方がいいだろう。
「――では、覚悟はいいな? 【怠惰】にのみ攻撃を仕掛けるんだ。だが【嫉妬】への注意も怠るなよ」
少年のその言葉を契機に、皆が一斉に動き出す。
少年と、メイドさんと少女の【魔神】二人は単独で、俺と女性の【執行者】は二人一組となって【怠惰の魔神】の背後を囲む。
≪七美徳 励起≫
まずは少年が仕掛けた。
全身を眩い白光が包み込んでいる。
剣身を打ち据える事はせず、撫で斬りにして走り抜けてゆく。
≪溺惑≫
次いで、少女が赤いオーラを纏って、【怠惰の魔神】に一撃離脱を行う。
≪赫怒≫
≪純潔≫
最後に、メイドさんも赤いオーラを纏い、こちらも一撃離脱を行った。
「何ダ? 何カシタノカ?」
「おいおいおい! 何だぁお前ら!? オレ達の邪魔ぁしてんじゃねぇぞ!!!」
やはり【嫉妬の魔神】のヘイトがこちらへと向きそうになる。
それに合わせて、皆が一斉にその場から退避する。
攻め立て続ける必要は無いのだ。
ただ、【怠惰の魔神】を煩わしく思わせられれば良い。
【嫉妬の魔神】がこちらを睨み付けながらも、こちらに襲い掛かって来る事はなかった。
それ以降も、隙を見ては各々が一撃離脱を繰り返してゆく。
【怠惰の魔神】への効果の程は良く分からないが、【嫉妬の魔神】の苛立ちが増してゆくのは分かる。
「お前ら、いい加減にしやがれ! ぶち殺すぞ!!!」
「ウウゥ、俺、バッカリ、叩ク、酷イ」
「畜生めが! 念願の対決だってのに、余計な真似しやがってぇ!!!」
「俺、モウ、叩カレル、嫌。俺、帰リタイ」
「ちょ、ちょっと、そりゃないぜ旦那!? 今すぐ、邪魔な連中を片しちまうから、な?」
「――っ!? 全員、速やかに退避しろ! 【嫉妬】の攻撃が来たら、回避だけに専念しろよ!」
少年の指示に従い、皆、すぐにその場から離脱する。
一番離脱の遅かった俺達が狙われた。
背中を強打される。
全身が破裂したような痛みが走る。
視界の隅で、女性の【執行者】も同じく吹き飛ばされたのが見える。
次に少女が狙われた。
「ボクに向かって来るとか、いい度胸じゃんか!」
「止せ、さっさと逃げろ!」
「うっさい! ボクに指図す――」
「オレ相手に余所見するとか、舐め過ぎだろ、【色欲】?」
「ぐはっ!?」
少年の制止を聞かず、【嫉妬の魔神】に挑みかかるも、逆に少女は殴り倒されてしまう。
「くっ、馬鹿が!」
「いやいや、坊主も十分に馬鹿だと思うぜ?」
「何!? 何時の間に!?」
「じゃあな、坊主」
「――こんな手に引っかかるとはね」
「あん? ――ぐへっ!?」
少年に肉薄した【嫉妬の魔神】をメイドさんが殴り飛ばした。
「くそったれ共が、よっぽど殺されたいらしいなぁ、えぇおい!?」
「ハハハ、無様だね」
「あ!? 何がだコラァ!?」
「僕達の目的は無事達成されたって事さ」
「だから何言ってんのか分かんねぇってぇの!」
「さっさと追わなくていいのかい? また見失うんじゃないか?」
「あぁ!? 追っ駆けるだぁ? 一体誰を――、って旦那ぁ!? まさかマジで帰ったのかよ、おい!?」
「待っててくれって言って……はいなかったかもしれないが、そりゃないぜ…」
「さっさとこの天界から去れ。だが、いずれ必ず僕が討滅してやる」
「……敵わないって事ぐらいは分かってるって訳か。ちっ、こりゃ、さっさと片っ端から魂を戴いて回るしかねぇか、やっぱ」
「貴様! よくも僕の前でぬけぬけと!」
「ケヒャヒャヒャヒャッ。天界がこの有様だ、今が入れ食いってヤツじゃねぇか、なぁおい?」
「んじゃ、あばよ、坊主。……次は殺す」
そう言い残し、【嫉妬の魔神】は去っていった。
こうして、どうにか二体の【魔神】を天界から追い出す事に成功したのだった。
「皆様、ご苦労様でした」
「いえいえ、そんな、神様に労って頂くなんて、恐れ多いです」
「ワタクシだけでは、どうすることも出来ませんでした。【魔神】を追い払えたのは、ひとえに皆様の尽力があったればこそですから」
「しかし、神様の御助言に従ったからこそ、こうして二体共追い払う事が出来た訳ですし」
「……それぐらいでいいだろう。すぐにでも動かねば、手遅れになってしまう」
女神と女性の【執行者】の会話に、少年が口を挟む。
「え? どういう事ですか?」
「【嫉妬】が最後言っていた。この機に魂を吸収して回るつもりのようだった」
「そんな、今は【水晶球】が全て破壊されてますし、どこの世界に居るかも特定出来ませんよ」
「場所の特定は、そこの【魔神】共でも出来るだろうが、この場の全員で対峙しても、先の二の舞だろう」
「それでは、どうするお積もりですか?」
「【執行者】を総動員して、各々行った事のある世界へと【転移】した後、【大罪】の有無を問わず、【救世】にて世界を消滅させて周るんだ」
「このまま手をこまねいていれば、奴はその力を増してしまう。その前に、出来る限り供給源を断つ」
「そんな!? 私達に殺して回れって言うんですか!?」
「本当に非道なのは、【救世】による消滅ではない。【大罪】による魂の吸収の方だ」
「【救世】ならば転生してこられる」
「そういう問題ではないでしょう!? 私達は誰しもが、もう二度と【救世】を使用したくは無い筈です。それに、そもそも【救世】は剥奪されているではありませんか。一体どうやって――」
「剥奪された【救世】は、全てではないが、保管されている分がある。それを何か――そうだな、剣に付与して皆に配ればいいだろう」
「賛成出来かねます! 余りにも非道徳的な所業ではありませんか!?」
「綺麗事を述べるだけでは、世界は救えない。例え、どれ程非道であろうと、僕は奪われる魂をこそ救ってみせる」
「そんな……」
少年と女性の【執行者】の口論は続く。
俺も、とてもではないが、賛成出来ない案だった。
殺される前に殺して回る、と言っているようなものだ。
暴論にも程がある。
【執行者】は、元々【救世主】だった筈だ。
にも拘らず、【救世】を再び使用するどころか、世界を消滅して周るだなんて、常軌を逸しているとしか思えない。
「俺も反対です。そんな事許せる訳がありませんよ」
「――意見は求めていない。これは僕が決定した。覆る事はない」
「そんな滅茶苦茶じゃないですか」
「こうしている今も、魂が奪われ続けているのだ。最早一刻の猶予も無い」
「そんな事、貴方がたに許されるんですか?」
「責も咎も負う覚悟は出来ている。今出来る最善手があるならば、僕は迷わずそれを行うだけだ」
「…………」
「貴様は僕の部下ではない。だが【救世主】、貴様はこの危急にあって、何もしないつもりなのか?」
「……俺には、出来ません」
「ならば結構だ。君、他の連中を今すぐ起こしてきたまえ。最早寝させている余裕はない」
「……分かりました」
少年は女性の【執行者】にそう指示を出すと、自身はどこかへと歩いて行ってしまった。
理屈は分かるつもりだ。
【大罪】に吸収された魂は、現状、救う手立てがない。
仮に【大罪】を倒しても、吸収された魂は解放されず、その【大罪】だけの魂が戻されるだけらしい。
【救世】を使用して世界を消滅させれば、魂はどこかに保管され、転生の時を待つらしい。
【大罪】がその保管場所に気が付きさえしなければ、魂を保全することは可能だとは言えるのだろう。
とはいえ、【救世】を、それこそ、俺が今まで行った世界で使用するなんて、とても出来そうに無い。
いや、絶対に出来ない。
その効果を知らずに、俺の世界を消滅させてしまったし、あの【賢人】や怪物達の世界を消滅させもした。
だが、その効果を知った上で、見知った人達を消滅させる事なんて、出来ない。
あの力は、殺して周るよりも、余程、質が悪い。
抗う術のないモノは、一瞬にして世界丸ごと消滅させてしまうのだから。
「――何もしなければ、魂は失われてしまいます」
「え?」
「その場に居合わせずとも、事態は動いていきます」
「貴方は傍観者のままに、全てを委ねてしまうお積もりですか?」
幼神が俺に語り掛けてくる。
「あるいは、貴方がその場に居合わせる事で、変えられる事もあるかもしれませんよ?」
「……それは予言か何かですか?」
「これは可能性のお話です。何もしなければ、それは貴方にとって最悪の結果しか、もたらさない事でしょう」
「貴方の見知った誰かしらが、二度と会う事は叶わなくなる事でしょう」
「それは……」
「貴方は貴方だけが傷つかなければ良いとお考えですか?」
「【執行者】の方々は、傷ついたりはしないとお考えなのですか?」
「そんなことは……」
「ここが貴方にとっての分岐点です。ここでの選択こそが、貴方の人生を決定付けるものとなるでしょう」
「……やっぱり、予言ですよね、それ?」
「いいえ、単なるお節介に過ぎません。ワタクシに貴方の人生を左右する事も、決定する事も出来ません」
「全ては貴方の御心次第。せめて、後悔のない決断をして下さるよう、切に願うだけです」
「…………」
何もしなければ、きっと後悔する。
色々と考えてもみるが、結局、いつも行き当たりばったりの出たとこ勝負だった。
それでも、何とか大きな失敗もせずに来れた。
何もしない以外の選択をして、果たして、俺は後悔せずにいられるのだろうか……。
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