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救世主は救わない  作者: nauji
第三章
50/60

第40話 対抗

この作品はフィクションです。


重要語句は【】、能力使用時は≪≫で記載しております。

 救助するにしても、ただ闇雲に探すのは非効率的か。

 出来ればあの二体には近づきたくないが、緊急性の高いのは、やはり二体の傍だろう。


水晶眼(すいしょうがん)


 二体の近辺には誰も倒れては居ない。


 良かった。

 流石にあれらの傍に不用意に近づけば、無事では済まない。

 いや、例え用意していたとしても御免被るが。


 ならば、少し捜索範囲を広げてみるか。


 次は何人か見つける事が出来た。


転移(てんい)


 ふむ、皆気絶しているだけのようだ。

 そもそも、先程の【天使(てんし)】の光を避けられなかった連中は消滅してしまったかもしれないが。

 死人で無いならば、連れて行くとしよう。


≪転移≫


 女性の【執行者(しっこうしゃ)】と子供の容姿をした神の元へと、数名を連れて現れる。


「では、彼らをお願いします」


「あぁ、任された。この調子で頼む」


「はい、ではまた」


≪転移≫



 何度か同じような遣り取りを繰り返し、ようやく、二人を見つける事が出来た。

 メイドさんと少女だ。


魔神(まじん)】である二人を、【執行者】の元へ預けるのは不安でもあるが、ここは信用するしかあるまい。

 二人を抱え移動する。


≪転移≫


 そこには、既に結構な数の【執行者】が横たわっている。

 だが、まだ誰も覚醒してはいないようだ。


 彼らとは少し離れた場所に二人を下ろし、残りの捜索に戻る。


≪転移≫



 最後に見つけたのは、少年の【執行者】だった。

 既にその身に光は宿っておらず、他の【執行者】達と同じ、漆黒の鎧姿となっていた。


 少年を抱えようと近づく。

 すると、その(まぶた)が動いた。

 開かれた目が、俺の姿を捉える。


「……貴様、性懲りもなくまだ生きていたのか」


「本当にブレない人ですね」


「……何だと? どういう意味だ? いや、そんな事より、状況はどうなった? 逃げられたのか?」


「いえ、今は【怠惰(たいだ)の魔神】と【嫉妬(しっと)の魔神】が戦っています」


「何だと!? くそっ、更に増えたのか……」


「俺は、ひとまず貴方がたを救助して回っていたところです」


「ハッ、【魔王(まおう)】が人助けだと? それで命乞いでもするつもりなのか?」


「…………」


「貴様の手など借りん。僕はその二体を片付ける必要があるしな」


「その有様で、ですか?」


「……おい、僕は貴様を見逃すつもりはないんだぞ? 何なら先に貴様から始末しても構わんのだぞ?」


「そうやって凄んで見せたところで、もう(ろく)に動くことも出来ないんじゃないですか?」


「貴様、先程から馴れ馴れしいにも程があるぞ! 分を(わきま)えろ!」


「怪我人の、それも子供で、極めつけは俺を殺そうとしている相手に、俺は随分と丁寧かつ寛容(かんよう)に接しているつもりなんですがね」


「戯言をぬけぬけと! それに、僕は貴様よりも遥かに年上だ!」


「はいはい、そうですね」


 流石に相手をするのも疲れてきた。

 さっさと連れて行くことにしよう。


 俺は無言で少年の腕を掴み上げる。


≪転移≫


「貴様、何をする!」


 弱っているとはいえ、俺よりも強い相手である事に変わりは無い。

 攻撃を食らう前に、さっさと腕から手を離し、その場に下ろす。


「……ここは? 無事な者は居ないのか!?」


「まだ、皆は目覚めていません」


「……君か。【魔王】が無事な様子を見るに、どうやら僕の与えた命令を完遂出来なかったようだな?」


「はっ、面目次第も御座いません」


「…………それは僕も同じ事か。だが、この命続く限り諦めたりはしない」


「まだ動かれない方が――」


「ここでジッとしていても状況は好転したりはしない」


「――それはどうでしょうか」


「ん? 何故天界に子供が居る?」


「その方は、受肉された神様でいらっしゃいます」


「……君は、自分が何を言っているのか理解していないのか?」


「彼女は嘘を言ってはいませんよ。ワタクシは、正真正銘本物の神です」


「……確かに只者ではない。気配は(しゅ)のそれに近いようではあるが、【神像(しんぞう)】を依代(よりしろ)としないなど、可能なのか!?」


「ご覧になった通りかと」


「……それで、新たな神よ。何か御用でしょうか?」


「貴方一人で、この窮地を脱する事は叶いません。ここは遺恨を忘れ、共闘することです」


「……それは、御命令でしょうか?」


「いいえ、ワタクシに何かを()いるつもりはありません」


「であれば――」


「――ですが、理解して頂けるまで、何度でも対話する事を諦めたりは致しません」


「…………」



 ……いつまでもこの場に突っ立っていても仕方がない。

 説得とやらは、この幼神(ようしん)に任せるとしよう。


 俺は少し離れた場所へと歩を進める。

 そこには、様子の変わらないメイドさんと少女が横たわっていた。


 二人共、あの少年と戦っている最中に【怠惰の魔神】に急襲されてしまった。

 元々、少年に押され気味だった所に最強の【魔神】の一撃だ。

 もう出血はしていないみたいだが、目覚めにはまだ時間が掛かるのかもしれない。


 しかし、俺の知る限り、最強格と思われた二人が、こうも容易く倒されてしまうなんて。

 二人を同時に相手取ってみせた少年は元より、その少年を軽くあしらう【怠惰の魔神】や、それに対峙する【嫉妬の魔神】も、最早俺の理解を超えた存在過ぎる。


 こうなってみると、女神の言っていたように、【魔神】への対抗策に【魔神】を用いるというのは、その強さを目の当たりにすると否定しきれないものがある。

 勿論、その手段として魂の吸収がある以上、賛成は出来ないが、強さの面で他の対抗手段が見当たらない。


 この場を凌ぐ事もそうだが、あの二体をどうやって倒せばいいのか。

 まだ、【大罪(たいざい)】を左程も使用していない様子の二体。

 普通に戦ったのでは、勝ち筋が見えない。

 では、(からめ)め手が必要と言う事になるか。


 やはり、一番堅実なのは、互いに消耗し合ったところを持てる全ての戦力で叩く事だろうか。

 だが、こちらで攻撃が一番有効そうなのは少年だが、【怠惰の魔神】には効いていない様子だった。

 弱ったところを狙ったとしても、防御を上回る攻撃でなければ意味は無い。

 何とかして、こちらの攻撃力を上げるか、相手の防御力を下げる必要がある。

 ゲーム的に言えば、バフとデバフか。

【大罪】や【美徳(びとく)】にそれらしいモノがあるだろうか。


 俺が答えの出ない難問に頭を悩ませていると、傍で動きがあった。


「……うぅっ。…………ここは? どこでしょうか?」


 身を起こしたのはメイドさんだった。


「まだ天界に居ます。メイドさんは今まで気を失っていたんですよ」


「……周囲の状況は? どうしてこんなに広い空間に居るのでしょうか?」


「【怠惰の魔神】があらかた吹き飛ばしてしまったんです」


「っ!? そう、あの【魔神】はどうしましたか?」


「今は【嫉妬の魔神】と戦っています」


「【嫉妬】!? ……成程、大方【怠惰】を追って来たのですね」


「二体は仲が悪いんですか?」


「私が知る限り、【嫉妬】が【怠惰】を一方的に敵対視しているようでしたね」


「まぁ、確かにそんな感じはしますね」


「……【執行者】も、ほとんど倒された訳ですか」


「えぇ、俺達と戦っていた【執行者】の二人以外は、まだ意識を取り戻していません」


「【色欲(しきよく)】は……、いつまでも、何を寝ているのですか!」


 メイドさんが少女の頭に手刀を振り下ろした。

 少女の後頭部が床に沈み込む。


「ちょ、ちょっと、メイドさん! 流石にそれはやり過ぎですよ!?」


「これぐらいで壊れたりはしません、よ!」


 更にもう一撃を加えた。


「いやいやいや、これからあの二体を倒す戦力として必要なんですから、乱暴は止めて下さい」


「……残念ながら、私共では、あの二体には太刀打ち出来ません」


「そんな――」


「――いってぇーなぁー!!! 誰だ人の頭を何度も殴りやがったのは!?」


「……やっと起きましたか。貴女が一番【魔神】の中で弱いのですから、もっと精進しなさい」


「何だとてめぇ!! いきなり喧嘩売ってんのか、あぁん!?」


「耳元で五月蠅いですよ」


 少女の喉に貫き手が当たる。


「ぐえっ」


「だから、乱暴が過ぎますって!? 何でそんなに当たりがきついんですか!?」


「……【魔神】同士は、より互いを嫌悪してしまうのです。だからどうしても、つい」


「いやいやいや、つい、じゃないでしょ。我慢して下さいよ」


「げほっげほっ……てめぇ、やりやがったなぁ!!!」


「その怒りは後に取っておいて下さい! まだ二体残ってるんですから!」


「……あぁん!? ゲッ、【怠惰】と【嫉妬】!? 何でここに!?」


「……あぁ、そういえば、すぐに気絶させられてましたからね。気づく前だったんですね」


「どういうことだよ!?」


「それは――」



 俺は二人にこれまでの経緯を話して聞かせた。



「――そんな、女神様が……私がついていながら……何という事でしょう……」


 メイドさんは女神像が破壊された事に酷くショックを受けていた。


「……その【神像】というのを修復する事は出来ないんですか?」


「……それは可能な筈です。ただ材質は希少な上、製造には時間を要する筈です」


「造り直せるなら良かったじゃないですか」


「……えぇ、そうですね」


 そう言葉を返してくれたものの、あまり元気は戻らなかった。


「――たかが石の一つや二つ、壊れたところでどうだっていうのさぁ」


「おい、そんな火に油な事を――」


「――たかが? 貴女も女神様の【使徒(しと)】になったのですよ? それを……」


「待った待った! ここで争うのは止めましょう!?」


 二体と戦う前に、死闘が行われそうな気配だ。

 本当に二人は仲が悪いというか、相性が悪いというか。



「――随分とこちらは賑やかですね。皆様、気が付かれましたか」


「あん? 誰だ? ガキが何で?」


「さっき話したでしょう? 受肉した神様でいらっしゃいます」


「まんま人間じゃん。神って何で出来てる訳?」


「黙りなさい、無礼にも程があるでしょう。貴女は大人しく、ただ黙って居れば良いのです」


「あぁん? 随分と突っかかってくるじゃねぇか!?」


「それは貴女の方でしょう?」


「はいはいはいはい、止めて下さいね」


「楽しそうな所、お邪魔して申し訳ありませんが、集まって頂いてもよろしいですか?」


「え、はい、分かりました」



 幼神に促され、後を付いて行く。

 その場には先の少年と女性が居た。

 やはりと言うべきか、他の【執行者】は、誰も起き上がっては居なかった。


「では、二体の【魔神】への対抗策を話し合いましょう」

「まず結論から申し上げますと、現状、あの二体を倒すことは出来ません。ですので、この場から退ける事を目標と致します」


「……まぁ、僕が敵わないんだから、無理もないけどね。忸怩(じくじ)たる思いではあるが」


「それで、その退ける方法はあるのでしょうか?」


 少年の自嘲に次いで、メイドさんが幼神へと尋ねる。


「【嫉妬の魔神】の目的は【怠惰の魔神】です。故に【怠惰の魔神】がこの場を退けば【嫉妬の魔神】もその後を追うと推察されます」


「【怠惰】を退ける方法はあるんですか?」


 今度は俺が幼神へと尋ねる。


「【怠惰】の性質を突くのが良いかと思われます。要するに面倒臭い、と思わせれば良いのです」


「……つまり、私達で戦闘の妨害、というより、【怠惰】の邪魔になるように動け、という事でしょうか?」


「その通りです」


 女性の【執行者】の推論に、幼神は肯定を返す。


「しかし、【天使】達の出しているあの光が、俺達にとっても邪魔だと思うんですが?」


「【天使】達は一時的に引かせます。既に効果もありませんし、邪魔とすら思われていませんから」


 俺の質問に幼神はそう答える。


「基本的には、僕か【魔神】が攻撃を行い、他は注意を逸らしてくれれば良い」


「あのー、俺は素手なんですが、効果ありますかね?」


「僕の剣でも折られたんだ、武器があってもあまり意味は無いだろうさ」


「……私の刀をお貸ししましょう。鞘付きのまま殴れば、折られる事もないでしょう」


「……壊したら弁償とか、ありませんか?」


「それは勿論、弁償してもらいます。金銭ではなく労働で。もしくは貴方の首でも構いませんよ?」


「いえ、首の件は拒否しますが、刀はお借りしたいです」




「では皆様方、準備はよろしいでしょうか? 皆様の御武運をお祈りしております」



 神が何に祈ってくれるのかは疑問に思ったが、今はこれからの事に集中しよう。

 これ以上の被害を出さない為にも、下手をうって皆の足を引っ張る訳にもいかない。


 目標は最強の【魔神】。

 戦力差は歴然、人数も少数、それでもやるしかない。



【執行者】と【魔神】と【救世主(きゅうせいしゅ)】兼【魔王】という異色のチームによる戦いが、今、始まる…………なんてね。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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『勇者は転職して魔王になりました』
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