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救世主は救わない  作者: nauji
第三章
48/60

第38話 最強

この作品はフィクションです。


重要語句は【】、能力使用時は≪≫で記載しております。

 何が起きたのか分からない。

 いきなり、眼前の女神像が粉々になっており、すぐ傍には【色欲(しきよく)魔神(まじん)】たる少女が血塗れで横たわっていたのだ。


 先程、【執行者(しっこうしゃ)】の剣を受けても傷一つ入らなかった女神像が、如何なる力が加えられたのか、最早原型を留めない程に粉々になっている。


 それに、少女の様子も先程までとは異なっている。

 多少の傷を負ってはいたものの、こんな大怪我を負ってはいなかった筈だ。


 一体、今の一瞬で何が起こったというのか。


 見れば、【執行者】も困惑しているのが分かる。

 俺と同じく、何が起こったか分からないのだろう。


水晶眼(すいしょうがん)


 メイドさんの様子を伺う。


 すると、メイドさんも血に濡れて倒れ伏していた。


転移(てんい)


 俺は反射的にその場に【転移】する。

 こちらも大怪我を負っている。

 二人共、あの少年の【執行者】にやられたのだろうか。

 それとも、あの場に現れた、アイツが――。


 そこに影が差した。

 俺の背後に誰か立って居る。


 振り向けない。

 振り向けば、死ぬ予感がする。


 一体、こいつは何者なんだ。


 俺が誰何(すいか)の言葉すら発せられないでいると、声が掛けられた。


「……邪魔ダ」


 片言のような言葉を耳にした瞬間、俺は何処かの壁にめり込んでいた。


 全身から噴き出す血。

 視界が真っ赤に染まる。

 全身がバラバラにされたような感覚。

 遅れてやってくる激痛。


 声も上げられない。

 喉も潰れてしまっている。


 時間がやたらとゆっくりに感じられる。

聖衣(せいい)】の治癒が遅い。

 出血も痛みも中々治まってはくれない。


 血に滲む視界の奥で、メイドさんが例の乱入者に首を締め上げられているのが見える。


 その首が容易く折られる様を幻視する。


≪転移≫


 体が治りきるのを待たず、咄嗟に二人の頭上へ【転移】する。

【リング】で加重を最大にし、首を掴んでいる腕に、体ごと突っ込む。


「マタカ、邪魔スルナ」


 片言の言葉が耳に届くと同時に、メイドさんの服を掴む。

 直後、二人共吹っ飛ばされた。


 今度はすぐには動けそうにない。

 いや、体のどこも動かせない。


 見れば、体が有り得ない程に厚みが無くなり、薄くなっている。

 全身が潰されてしまったようだ。


 これでも生きているのだから、凄まじい。

 傍に居たメイドさんも、重症ではあるが、俺よりかは幾分はマシそうだ。


 すぐにでも止めを刺されそうに思われたが、中々その時は訪れない。


 視線を侵入者に向けると、少年の【執行者】が対峙していた。

 少年は先程までは無かった筈の怪我を負っていた。

 だが、二人よりは軽傷のようだ。



「何故、貴様が天界に居るんだ!?」


「オ前ラ、邪魔シタ。ダカラ、殺シニ来タ」


「邪魔だと? まさか、貴様の住処辺りに【執行者】の誰かが侵入してしまったのか!?」


「俺、邪魔サレル、嫌イ。俺、許サナイ」



 ようやく治ってきたらしい全身を起こす。

 途端、痺れた際のあの独特の感覚が、何倍にもなって全身を襲う。

 全身の神経が痛い、痛過ぎる。

 身体を痙攣させながらも、改めて侵入者を見やる。


 2メートル超の長身に、骨と皮だけと思われる程の痩身、床に這う程までに伸びた黒髪。

 包帯とも布とも見分けがつかない何かを、全身に巻き付けている。


 異様、そして、異質。


 あんな細身のどこに、これ程の破壊をもたらす力が宿っているというのか。

 あの化け物は、一体何だというのか。



「この天界に来た以上、生かして帰す事は決してない!」

「かつては敗北を(きっ)したが、ここで決着をつけてやるぞ、【怠惰(たいだ)魔神(まじん)】め!」


 少年が金色に輝く剣を振り抜く。

 化け物――【怠惰の魔神】の体に当たった剣は、その剣身の半ばから折れ飛んでしまう。


 あれが【怠惰の魔神】。

 (いわ)く、最強の【魔神】か。


【聖衣】が無ければ即死していた。

 他の【魔神】の二人は、【聖衣】なんて無い為、先程から様子に変わりがない。

 いや、そういえば、少女の方はどうだったろうか。

 慌てたせいで、【執行者】の元へ置いてきてしまっていたのを思い出す。


≪転移≫


 メイドさんを抱え、少女の元へと戻る。

 少女はまだ意識を取り戻してはいないようだった。

 勿論、息もまだある。


【執行者】は少女のすぐ傍に立って居た。

 だが、その手に刀は握られてはいなかった。


 俺の視線に気が付いたのか、【執行者】が口を開く。


「私の刀は敵に向け振るわれる物。私の命を脅かし、誰かの命を脅かす、敵に対して」

「彼女は私の仲間を大勢殺した。憎むべき相手。憎んでいる相手」

「なのに、どうしてかしら、どうしても刀をその身へと突き立てられなかった」


 それは独白だった。

 俺には彼女の葛藤は分からない。

 俺は因縁のあったイヌザルやそれを操っていた【賢人(けんじん)】達を前に、躊躇(ためら)わなかった、踏み止まらなかった。


 行動には責任が伴う。

 俺には【救世(きゅうせい)】により消滅させた全ての命と、この手で殺めたあの国王。

 彼女は復讐を踏み止まり、因縁を断てなかった。


 果たして、どちらが良かったのだろうか。

 別の可能性は、もう、俺には選ぶことは叶わない。

 彼女は、まだ、選ぶことが出来る。


 俺が何も言えずにいると、彼女が言う。


「……貴方にこんなこと喋っても意味無いわよね。私ったら、何してるんだか」


「……でも、その選択は間違ってないかもしれませんよ」


「何ですって?」


「今、【怠惰の魔神】が襲来しています。ここで戦力を損なうのは愚策でしょう?」


「何ですって!? 【怠惰】が天界に!? そんな……」


「二人共、その【怠惰の魔神】に倒されてしまいました。とはいえ、まだ生きてはいます」


「奴は今何処に!?」


「先程の少年と戦っていた筈です」


「っ!? 早く皆を呼んで加勢しないと、彼だけでは――」


 彼女の言葉は最後まで続かなかった。

 建物全体が凄まじい揺れを伝えてくる。


「今度は何!?」


 俺は【怠惰の魔神】の姿を探す。


≪水晶眼≫


 暗く、広大な空間が広がっている。

 そこは、かつて一度だけ訪れたことのある場所だった。


 壁一面にあった筈の巨像が、跡形も無くなっていた。


「貴様ぁー!! (しゅ)の【神像(しんぞう)】を破壊するなど、万死に値する!!」


「神、嫌イ。オ前達モ、嫌イ。全部、壊ス」


「貴様が滅べ、この【魔神】風情が!!!」


 少年が【怠惰の魔神】へと肉薄する。

 その手には、先程折られた筈の剣が、再び元通りの姿で握られていた。


七美徳(ななつのびとく) 励起(れいき)


 少年の全身が、金色から白い極光へと変化してゆく。

 同じ光を纏った剣が【怠惰の魔神】の体に当たる。


 今度は斬り裂いてみせた。

 だが、剣戟は一撃では終わらない、数十もの剣閃が同時に放たれ【怠惰の魔神】の体に無数の傷を付けてゆく。


「このまま消え失せろ!」


 更に速度を増し、【怠惰の魔神】の体に剣が数百と突き立てられた。


「塵も残さず、消滅しろ!!!」


 突き立てられた剣が、今までで最大の光量を発する。

【怠惰の魔神】の体に極大の光の柱が現出する。


 次いで、辺りは白光に包まれた。




 光が収まった時、その場に【怠惰の魔神】の姿は、既に跡形も無かった。


 凄まじい一撃だった。

 だが、相手はまだ、何の力も使っていなかったように見受けられた。

 そんな相手を倒し得たとはとても――。


 その場には遅ればせながら、【執行者】達が集まって来た。


 少年が、彼らに向かって何か指示を与えようとした。




 が、次の瞬間、全ての者の動きが静止した。




 心臓が無くなってしまったかのような、喪失感が胸に去来する。

 他の者達も同様の感覚を得たのか、皆一様に、胸に手を当てて、自身の無事を確かめている。


 無事だ。

 何とも無い。

 心臓は確かにまだあるし、胸に傷がある訳でもない。


 だが、何故だろうか。

 自分がもう死んでしまったような、そんな言い知れぬ感覚が身に纏わりついて離れようとしない。



倦惰(けんだ)



 変化は遅れてやって来た。


 強烈な脱力感が全身を襲う。

 たまらず、その場に膝をついた。

 それでも堪えきれず、その場に倒れ込んでしまう。


 視界の先、【執行者】達も皆、倒れ伏していた。

 否、少年だけは、剣を杖にして、何とか立ち留まっている。


 暗い部屋の奥。

 そこから何かが姿を現してくる。


 ――【怠惰】。

 そんな言葉が頭に浮かぶ。


【怠惰の魔神】だ。

 その体に傷は一つも付いてはいなかった。


 少年の目が驚愕で見開かれる。



【怠惰の魔神】が咆哮を上げる。



 発生した衝撃波で、天界にある全ての壁や天井が破砕する。


【水晶眼】が途切れて、俺や他の三人の体も吹き飛ばされる。


 ようやく勢いの収まった体を起こすと、既に周囲は更地と化していた。


 辺りを(さえぎ)るものが何も無い。

 見晴らしの良くなった視界の遥か奥、そこに立つのは【怠惰の魔神】だった。


 少年もどこかに吹き飛ばされてしまったようだ。

 その【怠惰の魔神】に対し、今度は天から襲撃が行われた。


 光の雨。

 否、光の大瀑布だ。


 その先に居たのは、天を埋め尽くす【天使(てんし)】達。

 その全てが、【魔王(まおう)】を消滅せしめた光を【怠惰の魔神】へと注いでいる。


 途切れぬ光に飲み込まれ、すぐさま【怠惰の魔神】の姿が見えなくなった。


 あれで効果があるとはとても思えない。

【魔神】を単独で討滅したという、先の少年の渾身の一撃でさえ、無傷だった相手なのだ。

 とても【天使】にどうこう出来る相手ではない。


 このままここに居ては、巻き込まれて確実に死ぬ。

 新たな動きを見せる前に、二人、もしくは、【執行者】も含めた三人を連れて別世界へ【転移】で逃げるべきだ。


 俺は散り散りになった皆を集めようと、立ち上がる。


 ふと、背後に気配を感じて振り返った。

 そこには、園児程の年頃の子供が居た。


 何故こんな場所に子供が!?

 予期せぬ出来事に困惑し、思わず動きを止めてしまう。


 その一瞬が明暗を分けた。


【怠惰の魔神】が【天使】の光を周囲に弾き飛ばしてみせた。


 その光の塊の一部が、こちらへと迫り来る。

 あの光は、【聖衣】を纏った【暴食(ぼうしょく)の魔王】を消滅させて見せた筈だ。

 俺が食らえば、同じ目にあうだろう。


 だが、背後には子供が居る。

 俺が避ければ子供は助かるまい。

【転移】では、散り散りになった全員は助けられない。


 この刹那に選択しなければならない。

 誰を救い、誰を見捨てるのか、を。


 周囲の時間がひどくゆっくりに感じられる。

 傍にはメイドさんも少女も居ない。

 隣には、【執行者】が同じく立ち上がっていた。

 彼女もまた、背後の子供に気が付いて、身動きを止めてしまっている。


 俺は覚悟を決めた。


 彼女の腕を掴み、背後へと駆け出す。

 背後から迫りくる消滅の光。

 走る勢いのままに、子供へと飛び付く。


≪てん――≫




 世界が光に包まれた。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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『勇者は転職して魔王になりました』
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