第34話 終結
この作品はフィクションです。
重要語句は【】、能力使用時は≪≫で記載しております。
結論から言って、無理だった。
勿論、魔術の事だ。
どうやら魔術を使うには先天的な資質と体質的な適性が必要らしかった。
俺が【接収】で得たのは資質の方だったようで、体質的な適性までは得られなかった。
修行する、その前段階で躓いてしまった訳だ。
元【魔術師】となった老人曰く、その内資質によって体質が適当な状態へと変質するんじゃないか、との事だった。
つまり正確には、今は使用できないが、いずれは使えるようになるかも、と言った塩梅だ。
ちなみに、魔術の元となっている力に関しては、この世界に溢れる力を利用しているらしい。
まだ研究中だったらしいが、聞く限りでは、ファンタジーでありがちな大気中のマナや魔素的なものっぽかった。
一応、老人の見解では、この星から漏れ出る生命エネルギーを使っているのではないか、と思っているらしい。
それが本当だとすれば、魔術が普及して、この世界の人々がそれを利用する事になれば、地球の化石燃料や天然資源なんかと一緒で、いずれは枯渇してしまったのではないだろうか。
【強欲の眷属】だった国王は、ともすれば、魔術利用を推進することで、いずれは世界を滅ぼしていたのかもしれない。
仕方がないので、一応、魔術を使う際のコツみたいなものを聞いてはおいた。
後は、他の確認済みの【魔術師】達から、根こそぎ魔術の資質を【接収】しておいた。
これで、当分の間は【魔術師】が脅威となる事はないだろう。
所詮は対処療法に過ぎないし、今後も【魔術師】は生まれてきてしまうだろう。
だが、それまでには【魔術師】の扱いに関して、この世界の人々に政策やら教育やら、環境を整えて貰うしかあるまい。
研究所にあったような兵器関連は破棄させたので、もっと一般的な利用方法を見つけて貰いたい。
出来ないものは仕方がない。
まぁ、可能性がなくなった訳でもないし、気持ちを切り替えていこう。
後は、草原の国の王だったか。
≪水晶眼≫
どうやら、自国に戻っているようだ。
まぁ、これまで見ていた限りでは、草原の国の騎士達はそれほど出兵していないように見受けられる。
今回の一件に関して、あまり乗り気ではなかったのかもしれない。
もしくは、後事に備え、戦力を温存させておく算段だったのか。
そうだとすれば、中々に強かだと言えるが。
とはいえ、出兵している騎士は僅かながらも居る事は事実。
さっさと引き上げさせるとしよう。
≪転移≫
玉座に座る若き王の眼前に現れた。
そういえば、この国の城に入るのは初めてになるのか。
城の外観はこの国を訪れた際に見はしたが、まさかこんな形で中に入る事になろうとは。
突然現れた俺に対し、王の護衛らしき騎士二名が反応を見せた。
誰何の言葉ではなく、円錐状の槍の一撃を見舞ってくる。
避けても良いが、執拗に攻撃され続けるのも面倒か。
俺は左右から迫る槍を、それぞれ片手で掴み取ってみせる。
相手が槍を押したり引いたりしてくるが、槍は微動だにしない。
≪転移≫
以前、草原の国へと向かう道中で眼下に見えた街道へと、騎士達と共に現れる。
槍を掴み取っていた手を離し、その場に騎士達を置き去りにして、再び王の元へと戻る。
≪転移≫
王は未だ驚愕から復帰してはいなかった。
驚いた表情を顔に張り付けたまま、玉座からは動いてはいない。
「突然の訪問、失礼します。お会いするのは、先の会議の場以来ですね」
「…………」
相手に動きは見られない。
まだ現実を受け止め切れていないのだろうか。
「本日伺ったのは他でもありません。即時停戦をお願いします」
「……そ、そんなこと、無理に決まっているだろう」
ようやく反応してくれた。
だが、その内容はいただけない。
「理由をお伺いしても構いませんか?」
「そんなもの決まっておろう! 彼の国の魔術は他の国を圧倒しておるのだ! 逆らえばこの国がどうなることか……」
「成程、あれらを目撃されたのですね。ですが、ご安心下さい。全て排除済みです」
「……は? な、何を言っている!? 一国の総力をもってしても敵わないのだ、最早誰も抗えはしない!」
「本当の事です。国王は亡くなり、騎士団長と魔術研究所所長は降伏、魔術研究所も破壊、研究に関わる事物は全て破棄済み、【魔術師】も無力化してあります」
「先程から何を戯けた事を申しておるのだ! そんな事は不可能だ!」
流石に言葉だけでは信じては貰えないか。
面倒臭いが、騎士団長なり所長の老人なりを連れてくるしかないだろうか。
手っ取り早く、ここで魔術の一つでも見せてやれば済みそうなものだが、未だ使えそうな兆候は見られない。
一朝一夕に魔術を習得してみせる事は出来ないらしい。
「……分かりました。では証人を連れて参ります。しばしそのままお待ち下さい」
≪転移≫
俺は返事を待たず、所長の老人の元へ現れた。
騎士団長の方は、停戦や撤収に当たってもらわねばならない。
今連れ出したら、その作業が遅延してしまうだろう。
その点、老人ならば、手すきと言えた。
「すみません、少し一緒に来て貰いたい所があるのですが」
「っ!? お、おぉ、何か儂に御用ですかな?」
「えぇ、草原の国の王を説得していただきたいのです」
「説得ですか?」
「停戦交渉ですかね」
「あぁ、成程。そういえば参戦しておりましたな。すっかり忘れておりましたわ」
まぁ、戦力として当てにしてはいなかったのだろう。
魔術と騎馬を比較すれば、自明の理か。
「それで、いかかでしょう? 説得していただけますか?」
「勿論構いませんとも。既に降伏した身。それに、最早魔術も扱えません。如何様にもお使い下さって構いませぬよ」
「では、ご同行をお願いします」
「分かりました」
俺は老人を伴って、国王の元へと向かう。
≪転移≫
眼前には空の玉座。
そこに国王の姿はなかった。
「逃亡しましたか。無駄な手間をかけさせてくれる……」
「む? ここは?」
「草原の国の城内にある謁見の間です。少しここで待っていて下さい」
「はい、分かりました」
さて、何処に行かれたのやら。
≪水晶眼≫
む?
向かった先は騎士の詰め所か?
そういえば、国王には今の俺の武力を十分には見せていなかったか。
それで、大勢ならば対抗出来ると思わせてしまったかな。
この場には、連れて来た老人も居る。
この場を離れると、彼の身が危ういかもしれない。
連れていってもいいが、騎士達は無力化しておく方がいいかもしれない。
士気を下げ、相手の気勢を削いでおくとしようか。
それ程間を置かず、多数の騎士達が現れた。
その後ろには王の姿も見える。
これで追いかける手間は省けたな。
さっさとこの下らない戦争ごっこを止めさせてもらおうか。
「あなたはここを動かないように。危ないですから」
「……え、えぇ、分かりました」
この場に現れた騎士達の姿に怯えた様子の老人にそう言うと、俺は騎士達に向かって歩を進める。
ゆっくりと歩み寄る俺に対し、騎士達はその場から動かない。
王の護衛も兼ねているのか、積極的な攻勢には出ないつもりのようだ。
先頭の騎士の剣の間合いに足を踏み入れる。
すぐさま剣が抜き放たれ、こちらを一閃しようと振るわれる。
≪威圧≫
騎士が剣を床に落とした。
見れば、他の騎士達も一様に、怯えた表情を浮かべ、その身を震わせている。
そして、それは若き王も同じであった。
王はその場に腰を落とし、後ずさりしようとしている様が見て取れる。
俺は素早く王の背後へと回り込む。
と、俺の足に王の背が当たる。
王がこちらを仰ぎ見た。
「さて、気はお済みになられましたか? ここらで茶番は終いといたしましょう。端的に言って、時間の無駄ですから」
「…………」
どうやら言葉も無い王の首根っこを掴み上げ、老人の元へと連れてゆく。
「さて、所長にお越しいただいております。先の件、ご確認なさっては如何ですか?」
「……と、とにかく下ろしてくれないか?」
「あぁ、すみません。どうぞ」
俺は王を床に下ろしてから手を離す。
「……うむ。では、貴国が降伏したと伺ったが、真であろか?」
「えぇ、相違ございません、陛下。我が国は敗れ、停戦に合意しております」
「何と!? 真実だというのか!?」
「はい、陛下。誓って嘘は申しておりません」
「あれ程までに驚異的であった貴国の魔術が敗れた、と?」
「左様に御座います。私も最早【魔術師】では御座いません」
「その様な事が……、まだ半日も経ってはおるまいに……」
「これで、信じていただけましたか?」
「…………嘘ではないようだ。信じ難い事ではあるが」
「では手早く停戦の布告をお願いします」
「分かった。我も無益な戦をしたい訳ではない。すぐに対応しよう」
ふぅ、これで終戦の運びとなるかな。
一先ずは、やれることはやったか。
後は怪物達への対処ぐらいだろうか?
あれは【賢人】達の制御は離れているとはいえ、どう行動するか分からないし、虱潰しにしておくべきか。
≪水晶眼≫
まだ、結構残っているみたいだな。
結局、戦線に投入された奴らも散り散りになってしまっているみたいだ。
面倒臭いが、一匹づつ、確実に始末しておこう。
かつてのお礼参りも兼ねて、ね。
≪転移≫
そうして、俺は怪物の残党狩りを開始した。
次でこの世界のお話は終わりです。
他の世界に比べて、大分長い話になりました。
21/07/21 誤字修正
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




