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救世主は救わない  作者: nauji
第二章
42/60

第32話 傲慢

この作品はフィクションです。

 無機質に思われた室内は、しかし、機械的な物で構成されているようだった。

 床、壁、天井の至る所に緑色の光が時折走っており、室内全体が淡い緑色を帯びているようにも見える。


 鼻をつくこの匂いはイオン臭だろうか?

 ドライヤーを使った時のような臭いだ。


 室内に漂う空気も、どこか静電気を帯びているようなピリピリする感覚がある。



 改めて、ガラス張りの向こう側を見てみる。

 室内を見通せる程の主な光源は、ガラス張りの向こう側からの光によるもののようだった。

 馴染み深い蛍光灯のような光がこちら側に漏れている。


 そこに居並ぶ人間達は、白衣を纏った研究者といった風貌をしている。

 位置関係的に、こちら側が実験室か何かなのだろう。

 この部屋に居る、俺以外の生き物達こそが、その実験対象という訳か。


 すると、室内に複数の声が響く。


「どういうことだ!?」


「転送が失敗したのか!?」


「……いや、先程の【生体端末(せいたいたんまつ)】は室内にはおらん。つまり、向こう側からこちら側へと来てしまったんじゃろう」


「転送時に開いた穴に、偶々(たまたま)入って来たと? ただの人間が無事で済む筈があるまい!?」


「じゃから、ただの人間ではないんじゃろうて」


「馬鹿な。有り得ん。転送先の文明レベルで、そんな真似が出来る筈がない!!」


「結果が目の前にあると言うのに、それから目を背けて何になるというのか……」


「とても理解が出来る状況ではない! 出力のみの回線から、送信されて来たに等しいんだぞ!?」


「回線は回線じゃろ。要は方向の問題に過ぎんわ」


「だが、どうやってこの場に構成されたと言うのだ!? 何を媒介とした!?」


「……ふむ、そうさなぁ。あるいは転送出来ておらんのかもしれんな」


「何? どういうことだ?」


「あの人間を構成する為に、全て消費されてしまったやもしれんという事だ」


「それでは、こちら側こそが干渉されたと言うのか!?」


「馬鹿馬鹿しい。先程も言ったが、そのような文明レベルではないんだ! 有り得ん!」


「じゃから、結果、こうして人間が転送されておるというに。否定から入るから真理に辿り着けんのじゃ」


「何だと!? 貴様、我々を――」


 どうやら、ガラスの向こう側の音声が、この部屋にスピーカーか何かで出力されているらしい。

 会話の内容から察するに、この怪物達を送り込んでいたのは、彼らで間違いないようだ。

 目的までは分からないが、碌でもない事だけは確かだろう。

 向こう側の部屋では、今なお討論というか口論が続いている。


 そういえば、この部屋の怪物共が襲い掛かってくる気配が無い。

 というよりも、俺に対し何の関心も抱いてはいないようだ。

 今はただ、その場で立ち尽くしている。

 薬物か機械か、手段は不明だが、怪物共を制御しているのかもしれない。


 改めて床を確認してみると、区画別けされている様子だった。

 俺の居る区画に怪物共は一匹も居ない。

 他の怪物共は、その区画をはみ出す事もなく、ただ佇んでいる。


 この区画単位で転送していたみたいだな。

 この床か、この部屋全体が転送装置のようなものなのか。



 ともあれ、自分だけで考えるのも限界がある。

 事情を知っている者達は、文字通り目の前に居るのだ。

 話を聞いてみる事にするか。


 無論、どのような理由であろうと、誰一人として見逃してやるつもりは無いが。

 復讐するは我にあり、だ。



 俺はガラスをノックする。

 その音に気が付いたのか、研究者達が口論を止め、俺に注目する。


 視線が集まった事を確認し、声を掛けてみる。


「あー、こっちの声って、そっちに聞こえてますかね?」


「…………」


 反応が無い。

 と、思ったら部屋に声が響いた。


「そちらからの音声を拾える造りにはなっておらん」


 向こう側からの一方通行なのか。

 まぁ、この部屋に怪物しか居ないんじゃ、会話する意味は見いだせないか。


 仕方がない。


転移(てんい)


 俺は隣の部屋へと【転移】した。




「っ!? 消えた!? 何処に行きおった!?」


「どういうことだ!? 転送は行っていないぞ!?」


「……集団幻覚じゃったのか?」


「馬鹿を言っておる場合か! 施設内の何処かに行ったのかもしれん!」


「どうやってじゃ? お前こそ馬鹿を言うでないわ!」


 どのジジイも、背後を見る事はしないらしい。

 仕方がなしに、こちらから声を掛ける。


「こっちです、こっち」


「「「!?」」」


 皆が一斉にこちらを向く。

 うわっ、ジジイに注目されるとか気持ちが悪い。


「俺が知りたいのは、あなた方の目的です」


「……誰に向かって口を利いておる。我らは【賢人(けんじん)】、類人猿風情が身の程を(わきま)えろ!」


「別にあなた方が何人(なにじん)であろうと構いませんが、それで、目的は何ですか?」


「劣等種が、まだ口を開くか!」


「隣の部屋の怪物を使って、一体何をしているんですか?」


「【賢人】に対して何たる無礼か! 平伏し、許しを乞え!」


 ……話にならないな。

 余程、お偉い様のつもりでいるらしい。


「皆、落ち着け。相手は同じ言葉で話しておるのだ。その意味は理解出来よう?」


「何? 同じ言葉などと、当たり前の事を……、いやまて、同じ言葉で、だと?」


「確かに、何故じゃ!? どうやって我らの言語を習得しおったというのじゃ!?」


「この世界に我ら【賢人】以外で言語を解する者等居る筈も無い。まして、別世界であれば知る由も無い筈」


「では何故!?」


「我らの言葉を瞬時に理解・把握したのか。あるいは、言葉の意味だけを疎通してみせているのか。何とも驚きだな」


 どうやら一人だけ、話が通じそうである。

 他は細かったり小さかったりなジジイだが、この人は(いか)ついジジイだった。

 ジジイには変わりないのだが。


「あなた方の知的好奇心を満たしてあげる義理も余裕もありません」

「質問は既にしましたが?」


「……随分と不評を買ってしまったようだな。済まないな、我々以外の者との対話など、初めての事なのでな」


「……それで、お答え願えますか?」


「我らの目的だったか? 端的に言えば、知識の探求、か」

「我らはこの世界を知り尽くし、支配し尽くした」

「そして、他の世界の存在に気が付き、それらの把握に乗り出したのだ」


「他の世界の把握の仕方が、怪物を送り込む事だと?」


「あの【生体端末】の事か。あれらが見聞きし、口にしたモノを我々が精査し情報を収拾しておるのだ」


「……口にした、ですか」


「そうだ。その組成を知るには実に合理的な方法だ」


「…………」


 言葉にならない。

 何とも、何ともしょうもない話だ……。

 そんな事の為に、俺の世界も、女王達の居た世界も、襲われていたというのだろうか。


「全ては、我々【賢人】がより高みに至る為の糧に過ぎない」

「……是非とも、君にもその糧となって欲しい」



 突如、背後から肩に衝撃が加えられる。

 肩を見れば、イヌザルが噛みついていた。


 話をして気を引き付けておいて、俺を捕食させるつもりだった訳か。

 だがまぁ、一応言っておいてやるか。


「俺を捕食させる必要は無い筈ですよ」


 俺の肩に歯を突き刺す事が叶わず、ただ歯を当てるだけのイヌザル。

 そのイヌザルの様子を見て、相手の(まゆ)(ひそ)められる。


「……何故なら、既に捕食されましたからね」


 俺の言葉の意味を図りかねているのか、(ろく)に反応は返ってはこない。


 だが、最早構うまい。

 俺は我慢する事を止めた。



救世(きゅうせい)



 俺を中心に、光り輝く白い柱が天地を貫き現出する。


 彼らの行いは、【傲慢(ごうまん)】と呼ばれるものなのだろう。

 他を顧みず、己が私利私欲を優先する、その有様。


 そして、俺の行為もまた、【傲慢】なのだろう。

 己の感情を優先し、他を顧みない。


 一切合切、全てを消し去る。



 ――【傲慢】。


 己の中に、その存在を確かに感じた。






 世界が消滅する。






 何度目かの無明の闇。

 この身に感じるのは、郷愁か、悔恨か、歓喜か。


 改めて、自己を認識してみる。


≪傲慢≫


 あぁ、やっぱり気のせいではない。

 俺の身にも【大罪(たいざい)】が宿ってしまったのか。

 ……それとも、とうの昔に存在していたのか。


 女神がほくそ笑む様が目に浮かぶかのようだ。

 これも想定通りなのだろうか。

 これをこそ望んでいたのだろうか。


 分かる事は何もない。

 ここでくだを巻いていても始まらない。

 行動しなければ。


 怪物達の更なる流入は防げた。

 後は、進行してきた巨人と騎士達をどうにかすればいい筈だ。

 先ずは巨人の元へ急ぐとしよう。


≪転移≫


 現れた先は、戦闘のあった街道ではなく、穀倉地帯の城だった。

 またしても【転移】先が異なっている。


 だが、イメージ通りに【転移】出来ている事もあった。

 何が問題なのか。


 この世界で【転移】が失敗したのは、覚えている限り2回。

 この世界に初めて来た時、そして、この世界に戻って来た時、の2回だ。

 つまりは、世界間で【転移】した際に、ズレが生じている訳だろうか。


 それならば、今からは問題無い筈だ。


≪転移≫


 今度こそ、目的の街道へと現れた。

 だが、そこには巨人は既に居なかった。


 何処に行ったかなど明白だ。


≪転移≫


 女王の住まう屋敷の前へと現れる。


 正面玄関は、扉が吹き飛ばされ、上側が破損していた。

 既に、中に入ってしまったのか。


≪転移≫


 謁見の間へと姿を現す。

 次いで、背中に衝撃が走る。


 俺は玉座に相対す形だ。

 正面には女王が玉座を盾にし、怯えている様子が伺える。


 背後を振り返る。

 そこに巨人が居た。

 片腕を突き出し、今にも玉座に迫ろうとしていたようだ。


「貴様、また現れおったのか!? 忌々しい奴め!!」


 巨人の腕が振り上げられる。

 そのまま押し潰しでもするつもりのようだ。


「じょうお――お嬢、怪我はありませんか?」


「……え、えぇ、お蔭様、で?」


 若干口調に違和感があるが、特に問題は無さそうに見える。

 では、巨人を始末して、終わりにするとしようか。


 振り下ろされた巨人の腕を片手で受け止める。

 そしてそのまま握り潰した。


「何ぃ!? 馬鹿な、人の力で【魔術機甲(まじゅつきこう)】が破壊出来る訳が――」


 この場で争うと女王を巻き込みかねないか。


 握り潰した腕を離さず、そのまま【転移】する。


≪転移≫


 先程まで居た、無明の闇。

 光も音も空気も無い、この消滅した世界で、しかし巨人は動いてみせた。


 姿は見えないが、掴んだ腕が動かされているのが分かる。


 まさか、こんな場所でも生存可能とは、大した玩具だ。

 自慢したがるのも頷ける。

 とはいえ、所詮は玩具。

 今の俺の敵ではない。


 腕ごと引き寄せ、迫って来るであろう胴体に向けて、反対の手で貫き手を放つ。


 固い物を貫く感触。

 次いで、柔らかい物を貫く感触。


 腕を引き抜き、巨人から手を離す。


 今、人を殺した。

 もしくは、もう間も無く死ぬだろう。


 明確な殺意を持って、殺人を犯したのは、先の【賢人】達を含めれば二回目だろうか。


 特に何も感じない。

 罪悪感も、焦燥感も、自己嫌悪も、何も。


 俺は変わってしまったのだろうか。

【大罪】を有して、今なお続くこの全能感。


 こんなものはまやかしだ。

魔神(まじん)】はおろか、【魔王(まおう)】や【天使(てんし)】にすら敵うまい。


 だが、明らかに今までとは異なっている。

 この身に溢れる力も、この身を支配する思想も。



 ――求むるは支配。

 ――(あまね)くの支配。

 ――全てを蹂躙し、全てを隷属し、全てを支配せん。


 ――誰も彼も。

 ――男も女も。

 ――老いも若きも。

 ――全て。



 そんな思考が頭を埋め尽くさんとする。

 そして、それが血管を通り、全身を駆け巡ってゆくかのようだ。


 熱に浮かされるように俺は――。






 ……アホくさ。


 成程、これが【大罪】を宿した影響か。

 俺の場合は【傲慢】がこの身を支配しようとしてくる感じか。


 とはいえ、俺の身体は俺のモノ。

 俺の頭も、俺の意識も、俺の思考も、俺のモノだ。


 何一つとして、くれてやるつもりは無い。

嫉妬(しっと)】や【暴食(ぼうしょく)】のようになってやるつもりは無い。


 俺は俺だ。


 俺の世界を消滅させたのも。

【賢人】達の世界を消滅させたのも。

 巨人を操る国王を殺めたのも。

 全て、俺がやったことだ。

【大罪】なんかの所為では断じてない。


 犯した行いに罪を背負うのだ。

 罪により事を成す訳じゃない。


 見誤っては駄目だ。

 目を背けても駄目だ。


 罪は此処に、確かに在る。




 さて、中二病はそろそろ止めにして、戻るとしようか。

 女王の身も、まだ完全に安全という訳でもないだろうし。


≪転移≫


 三度(みたび)、違う場所に現れる事になった。


 そういえば、世界間で【転移】した際に、場所がズレるんだったか。

 この世界の特性なのか、あるいは別の何かが原因なのか。


 俺は屋敷へと向かう。


≪転移≫


 現れたのは玉座の間。


 女王は玉座に座り、両手を胸の前に組んだ状態で目を瞑っていた。


 何かの儀式中?

 ……ではないか。

 俺は声を掛ける事にした。


「お嬢、終わりましたよ」


 すると、パッと目を開き、女王がこちらを向いた。


「遅いわ!!!」


 放たれたのは叱責だった。


「何が”何とかしてみせます”じゃ。此処まで巨人が来おったではないか!」


「いや、途中で手違いがありまして……」


「危うく、ワシが傷物にされるところじゃったのじゃぞ!?」


「……いえ、それは、はい、すみません」


「……まったく、ワシを心配させおってからに」


「…………」


「……………………怖かった」


「……すみません」


「…………いーや、許さん! 今後一切、ワシに逆らう事を禁ずる!」


「いや、俺は、お嬢の部下ではないので、それはチョット」


「出来ぬと申すのか!?」


「取り合えず、一先ず落ち着いて下さい」


「ワシは極めて冷静じゃ!」


「それは酔っ払いの理論ぐらい信用出来無い言葉ですね」


「何じゃと!?」




 謁見の間に、二人の声が響く。

 こんな遣り取りが(しばら)くの間、続けられるのであった。






さて、この展開が予想されていなかった事を願います。

作者なりに伏線を張りつつ、頑張ってみた次第です。


今の今まで、自身の無力を嘆いてきた救世主。

ここに至りようやく力を手にしました。

果たして、これからどうなるのか!?


21/707/19 誤字修正


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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『勇者は転職して魔王になりました』
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