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救世主は救わない  作者: nauji
第二章
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第31話 強欲

この作品はフィクションです。


重要語句は【】、能力使用時は≪≫で記載しております。

 国境が突破されたとの報を受け、屋敷の室内は混乱を極めた。


 圧倒的なまでの戦力差を、一体どうやって覆したのか。

 敵の戦力の規模は、その進軍速度は、如何程だというのか。

 こちらの予想を上回る戦術や兵器の類でも用意していたのか。


 報告には続きがあった。

 敵戦力に鉄の巨人のような存在を確認、大砲の直撃を物ともせず、車両を一撃で粉砕してみせた。

 また、例の怪物達を大量に捕えていたらしく、それらを解き放ち、前線は混乱を極めたとの事だった。


 まさかの報告の連続に、場は騒然となる。

 文明レベルの劣る二国が、この国を上回る兵器を用意していたこと。

 そして、あろうことか、国難ともいえる怪物達を戦場に投入してみせるという暴挙。


 やはりと言うべきか、今回の一連の事態は、女王を確保出来なかった場合も想定した上での事だったようだ。



 (くだん)の巨人に敵わないまでも、流入してきた怪物への対処は現戦力でも可能な筈だ。

 そして、その巨人に対しては、俺が【転移(てんい)】で何処ぞに捨ててくれば済む話である。


「女王様――いえ、お嬢は怪物と騎士達への対処を。巨人は俺が何とかしてみます」


「……そなたに可能なのか?」


「まぁ、高い所から落としてもいいし、それこそ空気の無い場所に捨ててきてもいいので」


「……何とも、話を聞けば聞くほどに、そなたの方が余程質が悪いな」


「それはあんまりな評価じゃないですかね……」


「いや、済まぬ。ではそちらは頼むとしよう。その他に関してはワシらに任しておけ」


「はい、分かりました」


 そうして、女王との話を終え、取り合えずは国境の砦へと【転移】を行う。


≪転移≫


 眼下では怪物達に人々が襲われていた。

 統制など出来ていないのだろう、敵の騎士も、軍の兵士も、誰彼構わず怪物達に襲われているようだった。


 俺は嫌な記憶を思い出しながらも、今すべき事を考える。

 流石に怪物達の数が多過ぎる。

 俺が対処出来る物量ではない。

 やはり、当初の目的通り、巨人に標的を(しぼ)る他無いか。


 どうやらこの辺りには、もう巨人は居ないようだ。

 ということは、より街に近い場所へと移動しているという事に他ならない。


 俺は高度を上げながら、街へと向かう。

 流石に対空兵器を有してはいないかもしれないが、例の砦の砲台もある。

 もしかしたら、鹵獲(ろかく)された砲台もあるかもしれない。

 今は、余計な横槍を入れられている場合ではない。

 速やかに巨人を捕捉し、迎撃せねば、被害が拡大する一方だ。




 予想以上に街に近い場所で巨人の姿を捕捉した。

 道中の砦は全て突破されてしまっていた。


 巨人とは呼ばれていたが、精々が全長3メートル位の代物だった。

 巨大な甲冑を想像していたが、視界に映るそれはSFモノのパワードスーツのように機械的な造形をしていた。

 あの二国の何処にこんなブレイクスルーが可能な技術があったと言うのか。


 理由はともあれ、やるべき事は変わらない。


≪転移≫


 俺は巨人の傍に現れ、その表面に手を触れる。


≪転移≫


 すかさず、上空へと【転移】した。

 巨人は重力に引かれて落下してゆく。

 そして響く轟音と衝撃。


 余程頑強な作りをしているのか、巨人の表面に変化は見られない。

 とはいえ、中身は人間の筈だ。

 あの高さから落下して、無事で済む筈は無い。



 クレーターの中心に居た巨人が起き上がる。


 マジですか、あれで動きますか。

 俺は驚きを隠せない。

 あれは見た目以上に常識の埒外(らちがい)の代物のようだ。


 巨人の顔がこちらを向く。

 そして両腕がこちらに伸ばされる。


 明らかに嫌な予感しかしない。

 俺は結果を見届けずに【転移】を行う。


≪転移≫


 巨人から離れた位置に現れた俺の視界に、光の柱が天へと伸びた。

 あろうことか、巨人がビームを放ったらしい。

 マジであれは何なんだ!?

 何処かの古代の遺物的なヤツですか!?


 俺が居ない事に気が付いたのか、巨人の頭が周囲を見回す。

 見つけた俺目掛け、ビームを放ったままに両腕を回してきた。


≪転移≫


 食らう前に【転移】で避ける。

 これは下手に地上に降りられないな。

 避ける事は容易いが、周囲の被害が甚大だろう。

 今のところ、あのビームは宙に向けて放たれているだけだが、あれが地上を襲った場合、どれ程の威力があるのか試してみる訳にもいくまい。



 頑丈なのは理解出来たので、今度は空気の無い場所に連れて行くとしよう。


≪転移≫


 俺は巨人に手を……触れられなかった。

 身体が動かせない。


 俺が驚愕に固まる中、巨人から声が響く。


「やはり、貴様だったか」


 この声、まさか、オッサンか!?

 一国の王が自ら出て来たのか!?


「……どうやら、動けんようだな?」


 こちらに巨人の顔が向けられている。

 俺の動かない様子を見て、そう察したようだった。


「まさか瞬時に移動してみせるとはな。報告は受けていたが、この目で見るまでは信じられなかったが」

「しかもこの【魔術機甲(まじゅつきこう)】までも共に移動させてみせるとはな」


 それ魔術で動いてるのかよ!?

 俺の思ってた魔術と大分違うんですがね!

 俺の期待を返して頂きたい!!


「だが、そんな貴様も、この【魔術機甲】の前では止まった(はえ)に等しいわ!」


 巨人の両手が俺を抑えつける。


「何故動けんか不思議そうな顔だな? フハハハッ、どうだ、魔術の力は偉大じゃろう?」

「この【魔術機甲】の周囲に、あらゆる物を静止させる力場を形成しておるのだ」

「あまり多用出来るモノでもないが、貴様相手ならば致し方あるまい」


 くそっ、初撃で仕留められなかったのは痛かったな。

 その力場とやらが張られていては、【転移】に巻き込めない。

 白狼(はくろう)の時みたく、【リング】を拡張させようにも、動けないのではそれも叶わない。


 とはいえ、接触する事が難しいだけで、俺は【転移】可能なままだ。

 しかも、今はわざわざ巨人の方から俺に接触している状態だ。


 ……しかし、【転移】は発動しなかった。


「……どうやら、先程の移動も出来ないようだな?」


 この口振りから察するに、これも巨人の魔術とやらなのか?


「この両手には行動疎外の魔術が仕込まれておる。効果の程は、その身で味わった事だろう」


 つまりは近づくのも、手に掴まれるのも駄目だった訳か。

 俺との相性が悪過ぎないか?


「これで貴様を始末してしまえば、私を邪魔出来る者も居なくなる」

「そうすれば、あの女王も、あの兵器も、あの国も、全て私のモノだ!!」


 オッサンの口から次々と飛び出す欲望の数々。

 それに比例するかのように、俺の中に肥大化してゆく不快感。


 ――【強欲】。


 そんな言葉が頭に浮かんだ。


 成程、こいつが【強欲の眷属】だった訳か。

 随分と最初期に会ってたんだな、畜生が。


「そうなれば、草原の国も私には逆らえまい。あの国諸共に、あの若造の女共も私がいただくとしよう!!」


 鬱陶(うっとう)しい高笑いが続く。

 思っていた以上の、いや以下の屑だったようだ。



 まぁ聞くだけ聞けたし、もういいか。


【リング】の加重を最大にする。

 巨人の両手から俺の身がすり抜け、地面へと落ちた。


 やはりか。

 魔術で宙に浮けないとか言ってたから、そうではないかと思った。

 どうやら魔術では、まだ重力には干渉出来ないらしい。


 あとは、どうやってこの巨人を始末したものか。


「っ!? 何だ!? 何が起きた!?」

「貴様、まだ何か力を隠し持っておったのか!?」


「あんたの方はもう隠し事はないのか? この際、全部話してスッキリしておいたらどうだ?」


「貴様ぁ! 調子に乗るでないわ!!」


 巨人の両腕が振るわれる。


【リング】を反重力にセット。

 巨人が吹き飛ばされる。


【リング】で足止めぐらいは出来そうだが、決定打に欠けるな。

 相変わらず、俺には攻撃力が足りていない。


 巨人が身を横たえたままに、両腕をこちらに向けた。


 咄嗟(とっさ)に避けようと身構えるが、背後に人の気配。

 思わず後ろを振り返ると、敵国の騎士達が慌てて射線から離れようとしているところだった。

 ここで俺が避けると当たる、か。


 光線が放たれた。

 俺に直撃する。


 どうやら【聖衣(せいい)】を破る程の攻撃力は無いようだ。

 敵の攻撃を防げるのはありがたい。

 ただ、これ以上の攻撃を持ち合わせていないとも限らないのだが。


 光線が止む。

 巨人が立ち上がっていた。


 まったく、このオッサンにとっては、オッサン自身以外は眼中にないらしい。

 こういう輩が権力を握ると、本当に禄でもないな。


「私に敵う者など居ない! 誰も私には逆らえない! この世界は全て私のモノだ!」

「私の邪魔をする貴様は、この世界に存在してはならないのだ!!!」


 一刻も早く、ご退場願いたいね。

 最早、見るのも聞くのもウンザリだよ。






 瞬間、辺りが(まばゆ)い光に包まれる。






 気が付くと、辺りの景色は一変していた。


 どこかの室内。

 周りには夥しい数の怪物の群れ。


 壁の一つだけガラス張りになっており、そこには人間が数人、こちらを見て驚きの表情を浮かべていた。



 何がどうなったんだ?

 俺は【転移】させられたのか?


 と、怪物の群れの中に、忘れる筈の無いモノが居た。


 イヌザルだ。

 やはり怪物の一種だったのか。


 ここは何処なんだ?

 まさか、穀倉地帯の国の魔術研究所とかいう場所なのか?

 だとすれば、怪物達を生み出していたのは、あの国だったのか?


 俺の頭の中を疑問が埋め尽くしてゆく。

 状況の理解が追い付いていない。

 落ち着かなければ。


 だが、怨敵とも言うべき存在が目前に居るのだ。

 冷静ではいられない。

 いられる訳がない。


 この怪物を生み出したヤツを、俺は許す訳にはいかない。


 俺の世界を消滅させたのは、俺だ。

 だとしても、あの怪物が来なければ、そう思わずにはいられない。


 俺の世界の全てが俺をこそ恨むとしても、俺だけは怪物を恨まずにはいられない。


 思いがけぬ形での遭遇となったが、ここで決着といこう。

 この場から、誰も、何も、逃しはしない。






ようやくここまで辿り着けました。

とはいえ、まだ終着点ではありません。

引き続きお読みいただき、楽しんでいただければ幸いです。


21/07/18 誤字修正


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

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