第25話 路銀
この作品はフィクションです。
重要語句は【】、能力使用時は≪≫で記載しております。
天界に戻った俺の目に、在り得ないモノが映った。
俺はその場で硬直する。
硬直の原因が声を発する。
「……何? キミ、ちょっと感じ悪くない?」
見間違いではなく、【色欲の魔神】がそこに居た。
目新しいのは金色に光る首輪――【リング】ぐらいか。
訳が分からない。
「何でここに……」
思わず口から言葉が漏れ出る。
それに対し、答えが返る。
「屈伏させました」
一文だった。
メイドさんはそれで説明を終了した。
いやそんな、倒したら起き上がって仲間になるような展開、どこのドラゴンを倒すゲームなんだよ。
「……えっ!?」
「ごちゃごちゃ、ウルサイなぁー。キミ、黙らせたげよっか?」
「…………」
今度は強制的に黙らされた。
疑問も質問も俺には許されませんか?
「彼女は快く私達に協力してくれることになったのです」
そこに女神が口添える。
「ココロヨク……ネェ……」
そんな呟きも聞こえてきたが。
「……えぇっと、それって大丈夫なんですか? 色々と」
「出歩かなければ問題ありません」
「えっ? ボク出歩けないの?」
本人がそもそも了承してないみたいだが。
ともあれ、これで【魔神】が二体、この部屋には居る事になる訳か。
そもそも、メイドさんにしても、【執行者】とかにどう認識されているのか、よく分からない。
……ホント、何を企んでいるのやら。
そして、俺は何に巻き込まれているのか。
なるべく少女には近づかないようにしつつ、【水晶球】の元へ向かう。
既にメイドさんが操作したのか、そこには中世を思わせる城や街並み、騎士といったものが映し出されていた。
異世界の王道?とも言える中世ファンタジー世界だろうか。
【執行者】の漆黒の甲冑に比べれば、もっと汎用的で性能が低そうな騎士鎧が見て取れる。
「こちらは【強欲】が潜む世界となります」
メイドさんが補足してくれる。
中世世界で【強欲】と言われ連想するのは、王族、貴族、聖職者辺りだろうか。
もしくは盗賊とかも在り得るかもしれない。
例によって、何が【大罪】保有者かは教えてくれないらしい。
これで、【色欲】を含めると六つ目の【大罪】となる訳か。
実は、俺に全ての【大罪】が備わっていた、とかいう展開ではないだろうな!?
まぁ、これは無いわな。
俺、弱いし。
「何々? どっか行く感じぃ? ボクも行く行く!」
「駄目です。ステイ、ハウス」
「……ちぇっ」
いや、そんな犬みたいな扱いなの?
でもまぁ、来て貰っても困るけどね。
俺では止められないんだし。
でも、そろそろヒロインというか、紅一点みたいなの居ても良いんですよ?
俺も、潤いのある人生を送ってみたいというか。
俺の命を脅かさない感じの存在で一つ。
そんな益体も無い事を考えながら、【転移】先をイメージする。
またどうせ、何か厄介毎に巻き込まれるんだろうけどな。
≪転移≫
諦念を携え、また新たな異世界へと辿り着く。
しかし、出現した先は、城でも町並みでもなく、森だった。
あれ?
こんな場所、イメージしてないんだけどな。
また、【色欲】の時みたいに、別の世界とかじゃなかろうな。
木々の間からは、城も町並みも見えない。
これではどこに行けばいいかも分からない。
ひとまずは、空から探すことにしよう。
森を上へと抜けると、周辺を見回してみる。
随分、緑豊かな景色だ。
近場で人工的なものは、畑が見て取れた。
そちらに向かってみる。
穀倉地帯というのか、ここら辺は先程までとは違い、小麦のような植物で金色の景観を作っている。
恐らくは近場に農家があると思うのだが。
高度を上げつつ、捜索する。
すると、川沿いに建つ風車が見えてきた。
流石に、風車に人は住んでいないとは思うが、とりあえず、風車へと向かってみる。
風車の周辺を見回してみるが、やはり、誰の姿も見えない。
「あんた、どうやって浮いとるんだ!?」
突然、人の声がした。
辺りを見回すが、声の主を見つけられない。
風車の周りには、やはり、誰も見当たらない。
「どこ見とる、こっちじゃ、こっち」
果たして、声の主は風車の中に居た。
風車の窓からこちらに声を掛けていたのだ。
それにしても、また爺さんか。
そこは村娘とかでも良くない?
「あぁ、どうも。つかぬ事をお聞きしますが、最寄りの大きな街はどちらの方向でしょうか?」
俺は、内心の不満はおくびにも出さず尋ねる。
「いやいや、あんた、得体の知れない相手に話してやることなんてないぞ」
「んー」
何か、相手するのも面倒臭くなってきた。
これが村娘相手だったら、話は違っていたんだろうが。
「じゃあ、自分で探します」
そう言って、その場を後にする。
「あ? いや、待て。分かった分かった。教えてやるわい」
「…………」
引き留められた。
既に気持ちは離れてしまっているのだが、無駄な労力は省くか。
大人しく、お爺さんへと近寄っていく。
「……ほんとに浮いとるんじゃな」
「えぇまぁ、そうですね。それで方向は?」
「せっかちだな、あんた。……まぁえぇ、ほれ、この川の上流に向かえば見えてくるて」
「成程、わざわざありがとうございました。それでは失礼します」
「あぁ、精々捕まらんようにな!」
そう言われ、気が付く。
確かに、このまま街まで飛んでいけば、また不審者だ何だと捕まるのがオチだろう。
となると、程よい距離で歩きに変えた方がいいだろう。
いやー、お爺さんの話を聞いておくのも大事だね!
暫く、川に沿って上流へと飛んでゆく。
気が付けば、日も傾いてきていた。
当然の如く、金の持ち合わせなんて無い。
これは、寝る場所も、食事も期待出来そうに無いか。
都合良く、俺が倒せる程度の盗賊とか居たりしないだろうか。
或いは、俺が倒せる程度のお金を落とすモンスターでもいい。
俺は、街を探すのを止め、お金を探し始めた。
さて、そんなに都合のいい話がある筈がない。
既に、日も落ちてしまっていた。
平和か!
思わずそうツッコミを入れたくなる程に、騒動も、魔物も見当たらなかった。
既に目印となる川からは随分と離れてしまっていた。
だが、代わりに、街道を見つけていた。
いや、都合よく荷馬車が襲われたりしないかな、とか、ね。
だがそこに、一台の馬車が走って来るのが見えた。
何か、見るからに怪しい。
扉や窓には覆いが掛けられており、御者も顔を隠すように顔を半分覆う仮面を着けている。
流石に、怪しいからといって、襲撃する訳にもいかない。
見るともなしに、その馬車を目で追っていく。
すると、今度は待っていた光景が訪れた。
盗賊だ。
何か決まりでもあるのか、一見しただけで盗賊と分かる風貌をしている。
誤解を招かないならば、別に好きにしたらいいが。
ともあれ、後は、盗賊が俺よりも弱い事に期待したい。
もっとも、【聖衣】があれば、負ける事だけは無いだろうが。
馬車の行く手を遮り、盗賊達が囲んでゆく。
そのすぐ上空に俺は移動する。
そして、念の為、確認もしておく。
「一応、確認はしておくけど、あなた方は盗賊で間違いないんだよね?」
「「「あぁん!?」」」
異口同音に言葉が発せられる。
盗賊と見られる集団は、声の主を探して、周囲を見回している。
俺はサクッと【転移】でその内の一人を掴み上げ、そのまま上空へ。
「な、なんだ!? 誰だてめぇ!!」
ジタバタ暴れる体を、適度な高さに到達した後に、離す。
「ぐはっ!」
よしよし、死んではいない。
俺が殴っても大して痛くもないだろうが、これならば通用する。
フフフッ、君達は重力を敵に回してしまったのだよ。
暗くなり、眠たくなってきたのか、何か良く分からないテンションになってきた。
その間にも、次々と同じ手口で撃退してゆく。
左程の時間もかけず、一掃し終える事が出来た。
辺りが暗かったのも功を奏したのだろう。
明るかったら、もっと抵抗を受けていたと思う。
さて、ゲームとは違い、自ら懐を漁らなければならないのか。
俺は渋々、盗賊達の服や荷物を漁っていく。
すると、目当ての物を無事見つける事が出来た。
これまた何処かで見た事のある布袋に硬貨が包まれていた。
重量は大した事無いが、なにせ、俺は無一文なのだ。
俺よりも盗賊達の方が、余程金持ちという皮肉。
目的を達成し、改めて街へと向かおうとする。
そこに声が掛けられた。
「もし、そこの御仁。何処の何方かは存じあげませんが、助けていただきありがとう御座います」
声を掛けて来たのは、御者だった。
「つきましては、我が主が、貴方に礼を申し上げたいと仰っておりまして、どうか来てはいだだけませんでしょうか」
ほほぅ、お礼ですか。
俺の目的は盗賊達の持ち金だったのだが、結果的に助けた形になる馬車の人物からもお礼を貰って損は無い。
俺は促されるまま、馬車へと近づいた。
そこで、ふと思い至る。
これは、助けた相手がヒロインのパターンでは!?
思いがけず、一石三鳥ぐらいのハイリターンだったか!
俺の思惑を余所に、御者が馬車の扉を開ける。
「貴殿が私の救い主か。まずは感謝を。お蔭で助かりました」
「失礼でなければ、此度の礼をさせていただきたい。御同乗願えまいか?」
現れたのは、こちらもやはり顔の上半分を仮面で覆い、身なりの整ったオジサンだった。
またオッサンじゃねぇかよ!!
俺は心の中で叫んだ。
主人公、こんなキャラだったかなぁー、とか思いつつ書いてます。
面白ければそれでいい。
あと、この世界の話は他よりも長くなりそうです。
21/07/12 誤字修正
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




