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救世主は救わない  作者: nauji
第二章
33/60

インタールード C-2

この作品はフィクションです。


重要語句は【】、能力使用時は≪≫で記載しております。

天使(てんし)】の力は凄まじく、他の班も【魔王(まおう)】の討滅に成功しているようだった。

 順調に【水晶球(すいしょうきゅう)】に検知される【魔王】の処理は進んでいる。


 だが、今のところ、【魔神(まじん)】発見の報は聞かれなかった。


 何故、【魔王】よりも力が上の【魔神】を検知出来ないのか。

 どうやら、【魔神】はある程度、自身の【大罪(たいざい)】を制御出来るようだ。

 その為、活性化していない状態では検知出来ないらしい。


 自己顕示欲の強い個体や、私達【執行者(しっこうしゃ)】をおびき寄せるつもりでも無ければ、そんな事はしないのだろうか。

 もしくは、他の個体との戦闘により、力を行使する場合、だろうか。


 むしろ、最後の方があり得るのかもしれない。

 力を抑えているなら、他からは弱く見えるかもしれないからだ。



 しかし、長きにわたり、苦戦を強いられた【魔王】に対し、こうもあっさりと趨勢(すうせい)が覆るとは思わなかった。

 それ程に、あの【天使】の武器が驚異的なのだ。

 触れた箇所を消滅させる、その力。

 やはりあれは、【救世(きゅうせい)】の……。



 そこに声が掛けられた。


「そちらも順調のようだな」


 壮年の【執行者】だった。


「えぇ、残念ながら、ね」


「……残念? どういう意味だ?」


「私は、私の力で成し得たいからよ」


「……成程、真面目な事だな」


「貴方は違うの?」


「そう思わないでもない、が、それ以上に我らの被害を抑えられる事の方が最良だ」


「……そう、それもそうね。でも、私は……」


「余り批判を口にするなよ。聞かれて都合の良いものでもあるまい」


「…………」


「我らは粛々と事に当たれば良いのだ。現状【魔王】相手では問題はない」


「……問題は【魔神】だと?」


「間違いなく、な。【魔神】を屠ってみせた彼自身が【魔神】に対抗出来る武器とは言わなかったのが、その証左だろう」

「接敵すれば、状況次第では全滅しかねない」


「……彼らのように?」


「そうだ。【色欲(しきよく)】の場合のように、相手を【魔神】と知らずに挑めば、結果はああなるのだろう」


「……私達の居る意味って何なのかしらね」

「最早、【天使】にすら劣る訳でしょ?」


「所詮、【天使】は意志無きモノ。道具に大義は成せない」


「……はぁ、貴方に聞いた私が馬鹿だったわ」


「む、何だ? 何か間違えたか?」


「いいえ、貴方らしいわ」


「うむぅ……」


 悩みがなさそうで羨ましくもある。

 もしかしたら、あの武器について、思い当たっていないのかもしれない。

 この人物は良くも悪くも善人だ。

 他人を疑ったりはしないのだろう。

 ましてや、私達の仕える神ともなれば、尚更に。


 しかし、そうなると、私の考えを話すのは躊躇われる。

 馬鹿正直に、主上へ訊ねてしまうかもしれない。

 その時、どのような事が起こるのか、まだ分からない。

 嫌疑は晴れないが、確証がある訳ではないし、今は、私の胸の内に秘めておく方が、問題は少なそうに思えた。



 そうして悩んでいる内に、それぞれの班に、次の指令が下された。

 また【魔王】が検知されたようだ。


 私達は、それぞれの班員を伴って、各々の現場へと向かう。



 そこは、溶岩の海だった。

 目に痛い程の、熱量と光量だ。

 一応、岩場もあるが、ほぼ溶岩で形成されているような世界に見えた。


識別(しきべつ)


 この世界にある力の反応は【救世】【憤怒(ふんど)】【色欲】。


【色欲】!?


 まさか、当たりを引いた!?


 逸る気持ちを抑え、まずは【天使】を呼び寄せる。

 他の班員には【憤怒】を任し、私は【色欲】の元へと向かう。


 果たして、【色欲】は居た。

 何故か例の【救世主(きゅうせいしゅ)】を掴む少女。


 よくよく縁のある【救世主】だ。

 一応、前回発見した後、主上へと報告はしておいたのだが、取り立てて対処は命じられなかった。

 もう必要のない存在なのだろうか。

 それこそ、【天使】の武器が完成した今となっては必要ないということなのか。


 ともかく、今は眼前の状況へ対処せねば。


 この少女が例の【魔神】なのだろか。

 分からない、分からないが、油断するべきではない。

 初撃必殺、首を狙う。


執行(しっこう)


 断首を執行。

 首に刀が触れるも、表皮を薄く斬っただけだった。

 手応えは、硬質な金属を打ち据えたようだった。


 少女の目が私を捉える。


 瞬間、悪寒がした。


【天使】達を迎撃に当たらせる。

 少女はそれを軽く躱してみせ、次いで、何かを放ってきた。


情欲(じょうよく)


 私の身体が急に熱を帯びる。

 息が荒くなり、顔がほてり、身体の奥が疼く。

 これは、【色欲】の力を使われた!?


 私では【色欲の魔神】の力を無効化出来ないらしい。

 このままでは、支配されてしまうかもしれない。

 すぐに距離を取ろうとする。


 少女が追い縋って来るのが見える。

 逃げきれない!?


 だが、班員の上位の【執行者】が割って入ってくれた。

 それも、すぐに撃退されてしまったが、その隙に【転移(てんい)】により離脱する。


 上空に待機していた下位の【執行者】達と合流する。

 聞けば、【憤怒】の排除は完了したようだった。


 私は未だ【色欲】の力に(さいな)まれている。

 急ぎ、天界へと戻る必要がありそうだ。


 先の【執行者】がこの場には居ない。

 少し不安ではあるが、下位の者達に回収を命じる。


 無事に【執行者】を回収し終えた。


 一応、息はある。

 天界で治療すれば助かるだろう。


【天使】達に【魔神】の足止めを命じ、班全員で天界へ帰還する。



 急ぎ、重傷を負った【執行者】の治療を手配する。


 次いで、私の治療だ。

 どうやら、異性に反応する力のようだった。

 性欲を操作されたらしい。


 精神系への治癒を受けつつ、自身の【美徳(びとく)】を発現する。


勤勉(きんべん)


 身体を苛む衝動が緩和されたのが実感出来た。


 この様では、【魔王】に対峙しても、不覚を取りかねない。

 ましてや、【魔神】相手では……。



 ようやく治療を終え、【色欲】の影響を排除する事が出来た。


 あの【魔神】はどうなったのだろうか。


 そこで思い出した。

【魔神】発見の際、どうするべきと言われていたのかを。


 すぐさま、彼に【色欲の魔神】発見の報を伝える。


 彼は現場へと向かい、他の【執行者】は、他の任務中の班員も含め、全員が天界へと戻され、主上の元で警戒態勢を取った。




 そして今、私は、彼に詰問を受けていた。


「どうして、すぐ僕に報告しなかった?」


「……申し訳ありません」


「聞きたいのは謝罪ではない。理由だ」


「……接敵時は【魔神】との確証がなく、接敵後は報告の余裕がありませんでした」


「僕は最優先と言っておいた筈だが?」


「……申し訳ありません」


「真面目な君が命令に背くとは、嘆かわしい。君の班は全員【魔王】討伐からは外れて貰う」

「全員、天界にて謹慎処分とする。別命あるまで待機したまえ」


「…………」


「復唱はどうした?」


「……班全員、天界にて謹慎の上、別命あるまで待機します」


「以上だ。下がり給え」


「……はい、失礼いたしました」


 私はその場を後にする。


 彼が現場に着いた時には、【魔神】の姿は無かったそうだ。

 私が【色欲】に気が付いた時点で報告していれば、或いは決着がついていたのかもしれない。


 だが、やはりこの手で仇を討ちたかったのだと思う。


 己が手で斬り伏せるのを、躊躇う事は無かった。

 しかし、命令違反に関しても、他の班員を危険に晒した事も、言い逃れは出来ない失態だった。

 私は重くなる足取りで、班員の元へと向かう。


 重傷だった【執行者】は治療を終えていた。

 意識も戻っている。


 私は皆に、命令を伝えた。


 皆の反応は、沈むというより、どこかほっとしている様子だった。

【魔神】の脅威を間近で体験した所為かもしれない。


 危機感を覚える事は、生命として正しい在り方だ。

 そういう意味では、彼らは正常で、私は異常なのかもしれない。


 あんな目に遭ったにもかかわらず、私は仇討を諦め切れてはいなかった。

 いずれ、もっと力をつけたうえで、必ず。


 私は密かに心に誓った。






次回、本編となります。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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『勇者は転職して魔王になりました』
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