インタールード B-2
この作品はフィクションです。
重要語句は【】、能力使用時は≪≫で記載しております。
二人が【転移】した先は、以前【色欲】が居た、巨人の神殿だった。
私は少女の手を離し、距離を取る。
すぐさま【色欲の魔神】の少女の蹴りが空を切った。
「ハッ、おあつらえ向きに、この場所を選んだ訳か! いいぜ、今度こそ殺してやる!」
少女は喜悦の表情を浮かべている。
それに対する私は、さて、どうしたものでしょうか。
本気を出せば、少女を殺すのは容易い。
ですが、それでは私達の目的からは遠のいてしまいます。
もう随分長い事、待っているのです。
前回は【救世主】の保護を優先させましたが、今回はこちらを優先出来ます。
この機をみすみす逃し、次の機会を待つのは、流石に骨が折れます。
何とか、この少女を殺さずに屈伏させなくてはなりません。
本気を出して、力量差を思い知らしめることで、少女が屈伏するでしょうか?
いえ、恐らく、本気を出せば、【水晶球】に私の【憤怒】が検知されてしまう事でしょう。
まだ、今は、時期尚早に過ぎますか。
事を構えるのは、少女を引き入れ、彼の成果を確かめてから、が妥当ですね。
私は、方針を決定する。
「もういいよな? もう待ちきれない、もう待てない、もう殺す!!!」
そう叫ぶやいなや、少女が正面から殴りかかって来る。
私は軽くバックステップすることで、それを躱す。
……よりも早く、少女の拳が迫り来る。
予想よりも、少女が早い。
下がり続けながらも、迫る拳を手で払いのける。
一度、二度、三度、連続して、途切れない。
下がるのを止め、足を踏みしめる。
拳を左右に払いのけ、両の掌底で空いた少女の胸を突く。
少女が吹き飛ばされて…………いなかった。
少女もまた、足を踏ん張って、衝撃に耐えてみせた。
距離は開かず、至近。
左右に流された両手は使わず、上体を前傾に戻す勢いのままに、頭突きを見舞ってくる。
手を相手の顎に添え、下半身を落とす。
相手の懐に潜り込むように縮めた身を反転させ、片膝をつき、顎を支点として背負い投げる。
今度こそ、少女は投げ飛ばされた。
が、衝突はせず、両足で着地してみせた。
その地面が踏み砕かれる。
凄まじい勢いで飛び上がる。
と見せかけて、地面に這うようにこちらへと迫る。
一瞬で足元まで接近し、胴体に向けて貫き手を放ってくる。
それを半身で躱し、顔に掌底を叩き込む。
少女の首があらぬ方向へと曲がる。
構わず、腕を振り抜いた。
少女の体が、顔を支点としたバク宙をするような状態になる。
そこに、腕を振り抜いた力を利用して体を回転させ、後ろ回し蹴りを叩きこむ。
少女の体がくの字に曲がり吹き飛ばされた。
壁面へと衝突する。
少女が再起する前に接近を果たす。
突き出した足を力強く地面へと踏み込み、正拳突きを叩きこむ。
激震。
少女が壁に深くめり込む。
更に足を踏み込み、正拳突きを叩きこむ。
踏み込み、叩く、踏み込み、叩く、踏み込み、叩く、踏み込み、叩く。
と、そこで、ふと我に返った。
殴る事に没頭してしまっていた。
その場から飛び退き、少女の様子を窺う。
だが、壁にめり込み過ぎて、姿は見えない。
倒すことが目的ではない。
相手の牙をへし折り、膝をつかせ、自身の敗北を認めさせる必要がある。
故に、出来るだけ相手に攻撃をさせ、それを全て捌き、いなし、躱し、反撃を叩きこむ。
相手の攻撃は通用しないのだと、力の差を認識させる。
少女の埋もれた箇所から、周囲の壁へと亀裂が走る。
直後、壁が破砕した。
そこに少女の姿は…………無い。
背後に気配。
咄嗟に攻撃しそうになるが、ここは堪えて、相手の攻撃に備える。
≪溺惑≫
少女の気配が変わる。
悪寒に従い、全力で回避を行う。
その場を飛び退いた直後、地面が爆ぜた。
大量の土砂が宙に吐き出される。
一瞬、視界が奪われた。
隣から殺気。
回避より防御を選択。
両腕を盾に、攻撃に備える。
構えたのとは反対側、背後から攻撃が繰り出された。
恐らく殴られたであろう衝撃に対し、あえて逆らわず、押された側へと身を投げる。
地面に片手をついて宙で姿勢を正し、少女の居る方向へと向き直る。
背後に殺気。
こちらの想定を上回る速度。
今度は迎撃を選択。
背後へ足を振り抜く。
すると、その足を掴まれ、投げ飛ばされた。
翻るスカートを押さえつつ、少女の居場所を捉えようと視線を周囲へと這わす。
地面に辿り着く前に、その地面から殺気。
今度は相手の攻撃を視認してからの迎撃を狙う。
下方に目をやり、相手の攻撃を見逃さぬように目を凝らず。
少女の姿が掻き消える。
遅れて、少女の立っていた地面が陥没する。
顔面へと迫る貫き手を、しかし、当たる寸前で両手で掴み取る。
今度は見失わず、捕まえてみせた。
自身の落ちる勢いのままに、少女を掴んだまま地面へと落下する。
地面に着く間際、少女を自身の下側へ移動させ、仰向けの状態で下敷きにする。
そして、両足で体を踏み抜く。
地面に激突。
少女から飛びのき、着地。
瞬間、少女が足元へと迫っていた。
突き出される貫き手。
それを手で払う。
貫き手が連続する。
それを連続して払いのける。
隙をみて、相手の両手を自分の両手で掴む。
体を引き寄せて、腹に膝を叩きこむ。
浮きあがる体に、両手を離し、少女の顔面に拳を合わせる。
振り抜く。
地面を削りながら吹き飛ぶが、少女は四つん這いの姿勢を取り、四肢で衝撃を殺してゆく。
少女がこちらに向かって駆け出す。
姿が掻き消える。
気配は……上。
両腕を交差させ掲げる。
そこに足が降って来た。
かかと落としを両腕で受け止める。
加えられた衝撃に対し、受け止めた足元の地面は沈まない。
全身をバネに、衝撃を吸収し切る。
その力を打ち消さず、そして、反転。
今度は、吸収した衝撃を腕に、手に伝わらせる。
少女の足を払いのけ、両の掌底を、先の衝撃を上乗せして放つ。
少女が天井へと射出された。
天井に叩きつけられるも、すぐに這い出してくる。
天井から地面へと降りて来た。
攻防は続く。
どれ程の間、繰り返しただろうか。
且つて、巨人の神殿だったこの場所は、最早、見る影も無い程に破壊されている。
地面も壁も天井も、罅が入っていない箇所はなく、クレーターがいくつも出来上がっていた。
私にダメージは無く、少女は満身創痍だ。
少女の攻撃の悉くを凌いでみせ、そこに攻撃を加えていった。
しかし、まだ少女の気勢は削がれていない。
そろそろ、終幕といたしましょう。
【憤怒】は使用を控えたいが、【純潔】ならば問題無い。
≪清浄≫
怪我はないものの、身体や服についた塵や埃を取り除く。
≪静謐≫
世を静かしめる。
≪純潔≫
この身も世界も清く保たれた今、【純潔】が真価を発揮する。
最早、少女は反応することも出来ない。
こちらから一方的に攻撃を加えてゆく。
拳による乱打で、少女の体が宙に張り付けになる。
浮いた体を、拳で縫い留め続けている。
吹き飛ばすことなく、ダメージを蓄積させてゆく。
少女の反応が無くなった頃、拳に因る拘束を解いた。
少女の体が地面に落ちる。
動きはない。
だが、死んではいない。
「……さて、これで理解出来ましたか?」
「…………」
少女からの返答はない。
「貴方では、私には勝てません」
「…………」
依然、返答はない。
「貴方も解っているとは思いますが、私は【憤怒】を使用していません」
「その私に、貴方は【色欲】を使用しても尚、敵わなかった……」
「…………っ!?」
少女が反応を示す。
「貴方に問います。ここで死ぬか、私に従い生き延びるか」
「さぁ、どうしますか?」
少女は長い沈黙の後、答えを出した。
21/07/09 誤字修正
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