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救世主は救わない  作者: nauji
第二章
31/60

第23話 憤怒

この作品はフィクションです。


重要語句は【】、能力使用時は≪≫で記載しております。

 光が収まった後、館は跡形も無くなっていた。

 それどころか、地面すら抉り取られていた。


 その中心に居た筈の【鬼神(きしん)】の姿は…………無い。


 よもや、先の雷で消滅した訳ではあるまい。


 俺は、ようやく風が収まった事で、その状況を確認する事が出来た。

 位置的には、館を挟んで、集落とは反対側へと飛ばされてしまっていた。



 すると、視界の奥の方で、落雷が起きた。

 集落のある辺りだ。


転移(てんい)


【転移】でその場へと急ぐ。

 館に落ちた雷よりも威力が弱かったのか、被害はそれ程出てはいないようだ。

 だが、被害が無い訳ではないのだ。

 数軒規模で焼失している。


【鬼神】はその場には居なかった。

 だが、すぐ近くに現れていた。

 まるで、【鬼神】を狙うかのように、再び雷が落ちる。


 光、次いで、轟音。


 光が収まったその場には、焼失した家屋と、消失してしまった【鬼神】。


 するとすぐに、【鬼神】が他の場所へ現れていた。

 それを追う落雷。

 焼失する家屋と、消失する【鬼神】。


 一体、何が起こっているのか。

 相も変わらず、理解が出来ぬままに、集落の破壊が続く。


 理由は二の次にして、とにかく【鬼神】に接触して【転移】させなくては、このままでは集落全てが焼失してしまう。


 また突然姿を現した【鬼神】の直近へと【転移】する。


≪転移≫


 また落雷や姿を消される前に、【鬼神】へと接触を図る。


 その直前、またも、突風に見舞われる。

 やはり、この【鬼神】が雷と風を操っているのだろう。

【鬼神】の方へと加重をかけるも、風の抵抗が強く、近づけない。


≪転移≫


 今度は反対側、且つ、すぐそばに【転移】し、【鬼神】に触れる。

 この機を逃さず、すかさず【転移】…………は発動しなかった。


「っ!?」


 思わず絶句する俺の元に雷が落ちた。

聖衣(せいい)】により耐えるも、視界が雷光により眩んでしまう。


 眩む視界が戻る間に、今起きた出来事について考える。

【鬼神】もまた【神樹】と同様に、何かしらの方法で【転移】を阻害出来るらしい。

 これでは俺に出来る【鬼神】の排除は叶わない。



「そなた、何故此処に! そこで何をしておる!?」


 ようやく戻って来た視界に、お館様とそれに従う鬼達の姿を捉える。

 その周囲は落雷により焼失している。

【鬼神】による被害は広がるばかりだ。


「【鬼神】が(くだん)の【憤怒(ふんど)】です! もう元の状態に戻ることはありません」


「何だと!? そなた【鬼神】様のお姿を勝手に……」

「……これは鬼族の問題だ。そなたは手を出すな! 良いな!」


「…………」


 手を出したくても、もう打てる手立てが無い。

 相も変わらずの無力感に、(ほぞ)を噛む思いが去来する。


 俺の返事を待たず、お館様は鬼達を引き連れて、【鬼神】の元へ向かい走り去る。


 それを見送る俺は、その場を動かず【鬼神】の力を分析する。

 今現在、判明している能力は四つ。


 一つは、風を操る能力。

 予備動作無しで行使可能。


 一つは、雷を操る能力。

 現状は、自身を目標として、直下へと落としている。


 一つは、【転移】のような能力。

 落雷直後、もしくは、直前に瞬間移動している様に見受けられる。


 一つは、【転移】の無効。

 効果範囲は不明だが、少なくとも、接触による【転移】は無効となる。


 これらに加えて、まだ【憤怒】の力が未知数と言える。

眷属(けんぞく)】ならば、周囲に影響を及ぼさない筈だが、気になるのは天界での会話だ。

 確か、反応が強い、とか言っていた。

 それはつまり、【眷属】から【魔王(まおう)】に成りかけているという事ではないだろうか。

 だとすれば、ここからの展開は、【魔王】化を起点として更に悪化する事になるだろう。


 ただ、光明が無い訳でもない。

【魔王】化する事により、【執行者(しっこうしゃ)】に察知される公算が高い。

 そうすれば、【嫉妬(しっと)】や【暴食(ぼうしょく)】と同様に、確実に【鬼神】は消滅させられるだろう。



 それにしても、あの無表情は一体何だというのだろうか。

 怒りを抑えているのか、はたまた、怒りが膨大過ぎて、表現すら出来ないとでも言うのか。


 同じ【憤怒】を持つ、メイドさんを思い出してみる。

 そういえば、彼女も感情を表に出さない印象がある。

大罪(たいざい)】は自動的に発動する力だった筈だ。

 であれば、常にその力に苛まれている事になる。


 怒りを抑え込んでいるからこその無表情なのかもしれない。

【鬼神】も同じだとすれば、あの姿は、嵐の前の静けさに過ぎないのか。






 すぐそばを、何か巨大なモノが凄まじい勢いで通り過ぎて行った。


 思わず、通り過ぎた方向へと振り返る。

 そこにあったのは、地面にめり込んでいる、横倒しになった【鬼神】の姿だった。


 状況が上手く飲み込めない。

【鬼神】が誰かに吹き飛ばされたとでも言うのだろうか。


 一体誰に?

 鬼達だろうか?

 いや、彼らは【鬼神】への手出しを躊躇(ためら)っていた。

 その【鬼神】を吹き飛ばし、あまつさえ、周囲の家屋をも巻き込んでいる。

 到底、そうとは思えない。


 では、一体誰がこれを成し得るというのか。



 答えは空から、声の形でもたらされた。



「なぁーんだ。【憤怒】の気配を【水晶眼(すいしょうがん)】で探って来てみれば、全然違う奴じゃん」


 それは少女の声だった。

 それも聞き覚えのある声だ。

 言葉は続けられる。


「……でもまぁ、同じ【憤怒】な訳だしぃ。憂さ晴らしには丁度いっかぁ」


 声の主を、視線が捉える。

 赤黒い髪、細身の体、赤いキャミソール、黒の長い手袋と靴下。


 あの【色欲(しきよく)魔神(まじん)】がそこに居た。




 少女の姿が掻き消え、次の瞬間には、【鬼神】へと蹴りが突き刺さっていた。

 その衝撃に地面が沈んでゆく。

 周囲の家屋が巻き込まれ、崩れてゆく。


 蹴りは一度では終わらない。

 続けざまに蹴りが放たれる。

 その度に、地面が沈んでゆく。


 遂には、亀裂からマグマが滲み出て来た。

 倒壊した家屋に引火したのか、辺りに火災が広がってゆく。


 少女が現れて、僅か数瞬で、最早【鬼神】は死に体だった。

 俺が行動に移れずにいる間にも、【鬼神】は死へと(いざな)われていく。


 蹴るのに飽きたのか、少女は【鬼神】の巨体を片手で掴み上げると、水平に投げ放った。

 クレーターと化していた地面の端にぶつかり、【鬼神】が錐揉みしながら、宙に舞い上がる。

 そのすぐ傍に少女が現れ、大きく弧を描いた拳が【鬼神】に向かって振り抜かれた。


【鬼神】の着弾点に、また新たなクレーターが誕生する。


 すぐさま少女が【鬼神】の上に現れ、拳の弾幕を浴びせる。

 連続する打撃音。

 それに呼応して伝わる衝撃と振動。


 先程よりも早くマグマまで辿り着いたのか、【鬼神】を中心に、今度はマグマが噴き出した。

 少女はそれを軽く飛びのき、避ける。


 マグマに覆われてゆく【鬼神】。

 やがて、その姿が完全に見えなくなってしまった。




 改めて見ても、【魔神】の力は圧倒的だ。

 以前は、メイドさんに終始押されていた【色欲の魔神】だが、流石に格下相手では力の差は歴然だった。


 すると、何処からか見ていたのであろう、お館様を含む鬼達が現場へと駆け付けて来た。

【鬼神】がマグマに沈んだ様を見て、皆一様に顔色を変えている。


「貴様! ただではおかぬぞ!!!」


 お館様が、少女に対し叫び声を上げる。

 少女がそちらを見やる。


 不味い、非常に不味い。

 一瞬で肉片と化してしまう。


≪転移≫


 俺は少女の前、お館様達を背にする形で【転移】した。


 少女の目が俺を捉える。


「……あれぇ? キミ、見た事あるよねぇ?」

「どこでだっけぇ?」


 これ程特徴的な人物もそうは居ないだろうと、無駄な自負すらあるのだが、すぐには思い出されていないようだ。

 とはいえ、目論み通りに興味は俺へと逸れたようだ。


「うーん、どこだったっけ? キミ、知らない?」


「………………」


 正直に答えたら、俺が殺されそうな気がしてならない。

 今は、好きなだけ悩んでもらう方がいいだろうか。

 俺は沈黙を返す。


「んんんー、絶対、見たことあるんだけどなぁー」


 怖い。

 処刑のカウントダウンを待つ身のように、生きた心地がしない。


 だが、時間を稼げば、前回と同じく、メイドさんがやって来るかもしれない。

 出来れば呼びに行きたいところだが、今、ここを後にすれば、鬼達が蹂躙されてしまうだろう。


【鬼神】がサンドバッグになっている内に、呼びに行ければ良かったのだが、思考が状況に追いつけなかったのが悔やまれる。


「あ! 思い出した! アイツが連れて行った奴じゃんか!」


 と、その時、カウントダウンが終わってしまったようだ。


「キミ、アイツの居場所、知ってるよね? 何処? 何処なの? 言えよ! 早く早く早く!!!」


 尻上がりに怒気が高まってゆく。


≪転移≫


 俺は、最初にこの世界に降り立った場所へ【転移】した。

 完全に俺がターゲットにされた以上、あの場を離れても大丈夫な筈だ。

 ただ、咄嗟(とっさ)過ぎて、天界に向かうのを忘れていた。


「逃げるなんて酷いなぁー、でも今度は置いてかれないよぉ」


 すぐ耳元で声がした。

 不味い、と思う間もなく吹き飛ばされた。


 背後から吹き飛ばされ、正面の岩場へと衝突する。

 すぐさま追撃が俺を襲う。

 片足を掴まれ、周囲に叩きつけられる。


 何度も、何度も、何度も、何度も。


 掴まれた状態で【転移】すれば、一緒に天界に連れて行けるだろうか。

 だが、イメージする間もなく、頭が叩きつけられている。

 徐々に、頭の中が真っ白になってゆく。


 次いで、体が浮いた。

 すぐに、地表へと叩きつけられる。


 周囲にはクレーターや火災が起きているのが見える。

 どうやら、この一瞬で集落まで飛ばされて来たらしい。


「ねぇねぇ、意地悪しないで教えてよぉー。アイツは何処にいるのさぁ」

「ボクの【水晶眼】で見つけられないんだよねぇー。アイツ、【憤怒】を隠してるみたいでさぁ」


 やっぱり、メイドさんは【憤怒】を抑え込んでいるようだ。

 理由までは分からないが。


「キミが答えてくれるまで、ボク、止めないよ?」


 ゾッとする声色で、そう囁かれた。

 背筋に氷柱が突き立ったような錯覚。



 ガキン!


 金属が打ち付けられた音が響いた。

 少女の背後にお館様の姿が見える。

 無謀にも、斬りかかったらしい。


 少女は、そちらを見もせず、後ろへ足を払った。

 瞬間、お館様の姿が掻き消える。


 遠くで衝突音がした。


 次いで、爆発したような音が響き渡る。

 これは、お館様の場所からではない。


 音の発信源に視線を向けると、黒い巨体の姿があった。


 マグマに沈んだ筈の【鬼神】だ。

 どうやら、死んではおらず、再起したらしい。


赫怒(かくど)


【鬼神】が吼えた。

 全身から赤黒いオーラが滲みだしている。

 まるで、【神樹(しんじゅ)】が赤龍(せきりゅう)へと変じた様を彷彿とさせる。

 あの時と異なるのは、体色は黒のままだというところか。


【鬼神】が仰向けの俺の直上の中空に現出する。

 そのまま、俺ごと少女を潰すべく、拳を振り下ろされる。


 潰されると思った瞬間、俺に馬乗りになっていた少女が片手を上げて受け止めていた。


 しかし、【鬼神】の攻撃はまだ終わらない。

 館を吹き飛ばした、極大の雷が、間を置かず落ちて来た。


 空気が裂ける音、凄まじい閃光と衝撃。


 ()しもの少女も、雷までは相殺出来なかったのか、俺と共に直撃を受けていた。


 俺は、炭化していた。

【聖衣】を突破されており、先程受けた落雷とは威力が段違いだった。

 もしも、少女が俺の上で、雷のほとんどを受けてくれて居なければ、即死していただろう。


 徐々に【聖衣】により復元されていく俺。

 一方、少女はというと、受け止めていた拳ごと、【鬼神】の腕を引きちぎっていた。

 少女に目立った外傷はない。


 早くこの場を離脱しなければ、巻き添えで確実に死ぬ。


 だが、あくまで標的は俺なのか、少女の足に俺の腹が踏み抜かれた。


 貫通する。

 遅れて痛みが伝わってくる。


「ギイィッ!?」


 思わず口から声が漏れる。



 片腕を失った【鬼神】が、今度は風で少女を襲う。

 少女を抑えつけるように、全方位から暴風が壁となって襲いかかる。

 次いで、巨大な足裏で踏み潰そうとする。


 少女は無造作に体を動かしただけで、風の戒めを解く。

 迫る足裏に、しかし、少女は動かない。


眩惑(げんわく)


 瞬間、【鬼神】動きが明らかに鈍る。

 少女が片足を俺の腹から引き抜き、代わりというように片手で俺の頭を掴む。

 軽く跳躍し、【鬼神】の頭へ回し蹴りを放つ。


【鬼神】が横っ飛びに吹っ飛んだ。


「あれぇ? 頭潰すつもりだったのにぃ。アハハッ、石頭過ぎぃ」


 その様を見やった少女は、可笑しそうに笑っている。






 何時までも続きそうな地獄に、遂に転機が訪れる。



 空を覆う黒雲に光が差す。


 不思議そうに少女も天を仰ぐ。


 そこから【天使(てんし)】の群れが溢れて出て来た。


 即座に無数に放たれる光。


 少女は俺の頭を掴んだまま、それを軽く避けてみせる。


「んー? 何あれ? 頭んとこ、おかしくない?」


 どうやら、【天使】の容姿の事を言っているようだ。

 確かに、【天使】は頭部の代わりに天使の輪を正面に向けているという、悪趣味な造形をしてるのだ。


 なおも光は少女へと追い縋る。

 その都度、少女はそれを避けてみせる。

 その間も、俺は頭を掴まれたままだ。


 突然、少女の首に刀が振り抜かれる。

 少女の首が浅く切り裂かれた。


「いったぁー、何!?」


 首に生じた切り傷に、少女は痛みと困惑を訴える。


「……【執行(しっこう)】を用いてもこの程度ですか」


 それに答えるように、漆黒の鎧を纏った襲撃者は言葉を返す。


【執行者】だった。


【鬼神】の【憤怒】か、少女の【色欲】か、もしくは両方を、ようやく捕捉したのか【天使】と【執行者】がこの場に現れていた。


 突然現れた【執行者】が、少女の首に斬撃を仕掛けたのだ。


 少女の追撃を許さぬとばかりに、【天使】からの光線が迫る。

 それらを避けながら、少女は先の【執行者】へと視線を向ける。


情欲(じょうよく)


【執行者】の動きが鈍り、息が荒くなる。

 己の体を押さえ、この場を脱しようとする。


 少女が離脱を図る【執行者】へと迫る。

 今度は別方向から攻撃が来た。


 別の【執行者】が少女へと攻撃を仕掛けて来たのだ。

 少女は煩わしそうに、腕を振るう。

 否、腕の先の俺を振るって、払い落した。


 横槍を仕掛けた【執行者】が吹き飛ぶ。

 だがその隙に、離脱しようとしていた【執行者】は【転移】してしまったようだった。


「もぅ、逃げちゃったじゃない!」


 腹立たし気に、声を発する。


 遂には、俺から手を離し、【天使】の軍勢へと向かう。

 見る間に、【天使】の数が減じていく。



 あっという間に、【天使】が殲滅されてしまった。

【魔王】を消滅してみせた【天使】は、【魔神】には歯牙にもかけられない存在に過ぎなかったようだ。


 俺はその間何をしていたかというと、天界へ戻る事を迷っていた。

【魔神】に対して、【天使】も【執行者】も赤子同然だった。

 俺が天界へと【転移】し、もし【魔神】が天界に追ってきたら、天界の【執行者】達が全滅する恐れがあった。

 無論、メイドさんが対処してくれるかもしれないが、メイドさんが居ない可能性もあり得る。

 前回、俺が色々と画策、奔走したことにより、かえって状況は悪化していた。

 そのせいもあり、無暗に動くことが躊躇われてしまったのだった。


【天使】を殲滅し終えた少女が、俺の元へと戻って来る。


「今度は逃げなかったみたいだねぇ。まぁ、逃げても追っかけたけどねぇ」

「で? いい加減、アイツの居場所、言う気になったぁ?」


「……俺は言わない」


「へぇー、何で? もしかして殺されないとか思ってないよねぇ?」


「それは……」


「? それは?」



≪転移≫



 辺りは、無明の闇が広がっている。

【暴食】が消滅させた世界だ。


 果たして、【魔神】が【転移】についてこれるのか。

 また、【魔神】はこの消滅後の世界で生存可能なのか。


 それらを確かめようと、ここに【転移】してみせたのだ。


 暫く待ってみるも、少女が追ってくる様子は無い。

 もっとも、周囲を見る事は叶わないのだが。


 しまった、追ってこない場合を想定していなかった。

 俺に執着している様子だったので、追ってこない事態を失念していた。


≪転移≫


 灼熱の世界へと戻る。

 集落の上空へ現れた。


 眼下に少女の姿は…………見えた。

 状況は悪い方向へと進んでしまったようだ。


 少女は生き残りの鬼達を一か所に集めていた。

【鬼神】の姿は無い。

 もしかしたら、先の【天使】達によって消滅させられてしまったのかもしれない。


 少女はすぐに俺を見つけたのか、こちらを見て、微笑を浮かべていた。


「おかえりぃー。意外と早かったねぇ。もう少し遅かったら、全員殺しちゃってたけどねぇ」


 そばへと降り立った俺に向かい、そんな言葉が掛けられた。


「それで? 言う気になってくれたぁ? それとも、誰か殺しちゃおうか?」


「……分かった、教えるから、彼らには手を出さないでくれ」


「ホント? いやぁー、殺さないでおいてよかったよぉー」


 ……未だにメイドさんは現れてはくれないようだ。

 もう、こうなったら天界に連れて行くしかないかもしれない。


「……その場所に【転移】する。手を繋いでくれ」


「いいよぉー。でも、また何かされるのも面倒だしぃー」


 そう言って、少女は、見覚えのある子供の鬼を掴み上げる。

 掴み上げられた子鬼は顔色を失っている。


「この子も連れて行こっかなぁ」


 こうなってしまうと、さっきの世界に【転移】する事も無理か。

 そんな事をすれば、子鬼は死んでしまう。


「さぁ、早く早くぅー。ボク、もう待ちきれないよぉー」


 掴んだ子鬼ごと、腕をブンブンと振り回している。

 子鬼は既に、失神してしまったようだ。



 俺の手を掴もうとする少女の手。



 その手が横合いから掴み上げられた。



 少女のもう片方の腕が、子鬼を掴んだまま斬り飛ばされる。


 俺も、少女も、驚愕から立ち直れず、反応出来ない。

 だが、少女の復帰は早かった。


 相手を認識するなり、激高する。


「てめぇーーーー!!!!!」


 いきなり現れたメイドさんに対し、蹴りを繰り出す。


 が、次の瞬間には、二人共消えてしまった。

 暫くの間、誰もが固唾を飲んで、周囲の状況を警戒したが、何も起きる気配は無い。


 どうやら、メイドさんが少女ごと、何処かへと【転移】したようだ。


 皆も危機は去ったと悟ったのか、徐々に生気を取り戻す。

 その顔触れの中には、先の子鬼やお館様の顔もあった。

 どちらも無事だったようだ。


 怒涛の展開は、ここにきてようやく終わりを迎えたようだった。






次回は2話程、インタールードとなる予定です。


21/07/08 誤字修正


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『勇者は転職して魔王になりました』
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